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すっちーが語る多様性の中の吉本新喜劇。そしてジレンマ

中西正男芸能記者
吉本新喜劇への思いを語るすっちーさん

 2014年に吉本新喜劇の座長に就任し、人気キャラ“すち子”としても存在感を見せるすっちーさん(50)。今年2月から間寛平さんが新喜劇のGM(ゼネラルマネージャー)に就任し、大阪・YES THEATERで若手座員中心の公演「セカンドシアター新喜劇」が定期的に行われるなど新たな動きが生まれています。大きな転換期に座長として感じるジレンマ。そして、見た目を笑いにしないなど世の中の価値観も大きく変わる中で見据える今後とは。

言い訳できない

 2月から寛平師匠がGMになられて、注目度が増したということはすごく感じています。

 若手中心のセカンドシアター公演も行われるようになって、もちろん、これは若手にとって大きなチャンスです。

 ただ、僕からすると、なんでしょうね、こういう恵まれた環境がなくても「そもそも自分らでやっておかないとアカンのと違う?」という思いもありはします。

 その考えに近い、今まで頑張ってきた座員からしたら「こういう場を作ってもらったからといって急になんやねん。そんなヤツらに負けてられるか」ともなるでしょうし。

 場所を作ってもらい、しかもそこに皆さんが目を向けてくださる。それ自体はもちろんありがたいことです。それと同時に、良い場を提供してもらったんやから、さらにそこを越えるくらいクオリティーの高いものをやらなアカン。そして、環境が整っているということは、もう言い訳できないということでもあるんやでと。その思いもあるんです。

 別に仲悪くなれとか、ケンカをしろとは思わないですけど、新たなシステムができたことでバチバチに笑いでやりあってほしいなとは思います。

理想的な身の引き方

 新喜劇って大所帯ですし、いろいろな人がいます。僕から見ると「こいつ、これでエエんかな…」と思っている若手でも、話を聞いたら、まあまあ満足していたり。

 例えば、リアルな話「月にナンボ欲しいの?」と聞いて「100万円ほしいです」という子と「30万円あれば最高です」という子ではこちらの言い方も変わってきますしね。

 これはね、良くも悪くもだと思うんですけど、さらにリアルな話をすると、よくビックリされるんです。世間的にはほとんど知られてないけど、新喜劇でちょこっと出だしたあたりの子が月にナンボもらっているのかとなった時に、同世代の漫才コンビの子らからしたら「…え?」となるくらいもらっていたりするんです。

 新喜劇は1週間ごとに演目が変わっていきますから、出るとなるとそれだけで1週間は出番が続くことになる。例えば、なんばグランド花月での興行を考えると、多い時で1日3公演はあるわけです。出番が月2週あったらそれだけで40公演ほどに出ることになる。そうなると、いくら一回の単価が安かったとしてもそれなりの額にはなるわけなんです。

 もちろん、若手芸人の中での相対的な額であって、一般的に見たら低いですよ。でも、知名度や人気具合を考えると、同世代の芸人からすると「そんなにもらってるの?」となる。

 ただ、新喜劇の世界では「M-1グランプリ」で優勝するみたいに翌年の年収が1000倍に跳ね上がるみたいなことは基本的にない。ただ、ある程度はもらえもする。どちらかというと、公務員的になりがちというところはあると思うんです。

 そうやって、みんながある程度は食べられるのは良い部分でもあるんですけど、そのままでいいんですかと。セカンドシアターができたことの意味をそれぞれが考えてほしいなとは思っています。

 でもね、やっぱり変化は出てきていると感じます。つい先日も、古い新喜劇の台本を整理しているところをインスタグラムにアップしたら、新喜劇の座員から連絡が来たんです。「昔の台本、見せてもらえませんか」と。

 これまでそんなことを言ってくる座員じゃなかったんですけど、聞いてみたら「僕らみたいな若手でも、セカンドシアター公演で台本作りからやることもあるかもしれないと思いまして」と言ってきたんです。

 通常興行では台本は座長と作家さんが考えるのが一般的で、逆に言うと、普通は座長にならないと台本作りには関わらないものなんですけど、若手の意識が少しずつ変わってきて「自分から動かなければ」になっている感じはしています。

 ここがすごく大切だと思っていて、自分らで何かを作り出そうとなってほしい。その中で「今の座長がやってること、あれ、どうなん?」という感覚にもなってほしい。

 そうやってケツをつつかれる感覚が強くなっていって、こちらが身を引くというのが一番なんでしょうけどね。そして、その時期が早ければ早いほどいいんだろうなと。

多様性の中の新喜劇

 今は新喜劇の中の変化も激しい時期だと思いますし、あと、世の中の変化も大きな時期になっているなとは思います。

 時代の流れとして、背が低いこと、ブサイクであること、太っていること、ハゲていること、そういったことを笑いにする。それはダメだと。急速にそうなっています。

 僕はそういうことに対して必要以上に神経質になっているタイプではないと思っているんですけど、こちらがイジったりする女性座員には「最後、こっちに言い返してきてね」とは言うようになりました。

 こっちがイジる。言われた人間が言われっぱなしになる。そうなると、構図としては良くないんだろうなと。こっちのイジリ以上に向こうが返してきて、それで笑いが生まれる。そうなると読後感というか、空気としてエンターテインメント感がしっかり伝わるというか。

 ま、こんなん言わずもがななんですけど、やる方は愛の表れとして、そしてやられる方も愛だと思って受けているんですよ。そして笑いが生まれたら、イジった方も、イジられた方も、どちらもうれしいわけです。誰もその場にいる人間はイヤとは思っていない。

 普通、この構図なんて分かるものだとも思うんですけど、今の時代は誤解を生まないようにそこをもう一つ分かりやすくしている。そんなところはありますね。

 そして、現状で言うと、そういう気遣いはしていますけど、池乃めだか師匠が出てきたらお決まりの流れはやっていますし、これまでの新喜劇ならではのものをゼロにするということはしていません。それが2022年5月現在の新喜劇です。

 ただ、全てはお客さんの感覚ですから。今の流れがさらに進んでいって、めだか師匠をイジるようなことをやってもお客さんがひいて誰も笑わなくなる。そんな世界が何年後かに来たら、もうそのイジリはしないでしょうし。あくまでも、お客さんありきですから。

 いろいろ言われたりもしますけど、僕らの感覚からすると、ものすごくシンプルなことで「ウケなくなったら、もうできない」。これだけだと思うんです。ウケているということは、それを暴力ではなく、プロレスのリング内でのチョップだと見てくれているんだろうなと。

 事実、今でもめだか師匠が出てきたら、それだけでウケてます。それが今の段階での答えだと僕はとらえています。

 ただ、過渡期でしょうからね。難しいなとは思いますね。でも、一方で考えるのは、新喜劇って普通はコンプレックスというか、学校のクラスにいたらマイナスにとられていたであろう“他人と違うこと”が一転してプラスになる場でもあるんです。

 人より太っている。人より目が離れている。人より声が高い。みんなと一緒がいいという感覚ならばコンプレックスだったことが、新喜劇では武器になる。学校ではシュッとしていて人気者だった人が新喜劇に入ったら「お前、普通やないか!」とつっこまれるようになる。

 コンプレックスをプラスにできる。それを押しつけがましくなく見せるのも新喜劇の意味やとも思うんですけど、そこがなくなるのはどうなんだろうと。せっかく何十年もかけて作ってきたその場をゼロにしたらアカンのちゃうか。そう思う自分がいるのも事実です。

 ま、ホンマはね、こうやってリアルな思いを全てぶちまけるのも笑いにとっては邪魔なことだとも思うんですけどね(笑)。

 「お笑いはそういうことじゃないんだよ」「新喜劇は互いに思いがあってやってることなんだよ」「頭を殴っている棒も柔らかくて痛くないんだよ」とか、そら、全部事実かもしれないけど、それを知れば知るほど笑いにくくなるのもお笑いの世界ですから。

 非常に難しい時代だとは思いますけど、その中でお客さんに笑ってもらえるもの。僕らはそこをただただ作っていきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■すっちー

1972年1月26日生まれ。大阪府摂津市出身。本名・須知裕雅(すち・ひろまさ)。96年、漫才コンビ「ビッキーズ」を結成。NHK上方漫才コンテスト最優秀賞などを獲得するものの、07年に解散。解散後は新喜劇に活動の場を移す。14年に座長就任。吉田裕とのヒットギャグ“乳首ドリル”などを生み出し、人気キャラクター“すち子”としても活動する。新喜劇メンバーとアイドルグループ「NMB48」が出演するミュージカル「ぐれいてすとな笑まん」に出演。大阪公演は5月14日から22日までクールジャパンパーク大阪WWホールで開催。東京公演は5月26日から29日まで明治座で行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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