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1億円トーナメント出場の石井慧、判定で惜敗

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
PFLプレーオフで判定負けを喫した石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 総合格闘技のプロフェッショナル・ファイティング・リーグ(PFL)のヘビー級プレーオフが10月31日(日本時間11月1日)にアメリカ・ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイ・イベントセンターにて開催され、北京五輪柔道100キロ超級の金メダリスト、石井慧が出場。優勝候補のデニス・ゴルゾフと5分x2ラウンドの試合で対戦して互角の勝負をみせたが判定で惜敗した。

PFLプレーオフ初戦でデニス・ゴルゾフと対戦した石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)
PFLプレーオフ初戦でデニス・ゴルゾフと対戦した石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 PFLレギュラーシーズンに参戦した13人のヘビー級戦士の中で上位8人だけが出場できるプレーオフ。6月のレギュラーシーズン初戦ではジク・トゥニィウィリーに判定勝ちした石井だが、8月の2戦目ではジャレッド・ロショルトに判定負け。1勝1敗の3ポイントで、プレーオフ最後の枠に滑り込んだ。

 第8シードの石井のプレーオフ1回戦での相手は第1シードのゴルゾフ。6月の試合ではロショルトをパンチで1ラウンドに瞬殺TKO勝ち。8月にはケルビン・ティラーから2ラウンド目にエゼキエル・チョークで仕留めて2連勝。最大12ポイントを得られるレギュラーシーズンで11ポイントを獲得して、文句なしの第1シードでプレーオフに乗り込んできた。

 身長178センチ、体重104キロの石井に対して、ゴルゾフは196センチ、108キロと一回り以上大きい。巨大なゴルゾフはサイズに似合わぬスーパーアスリートで、軽々とバク宙をできる高い身体能力とアイスホッケーの選手としても活躍するバランス感覚も備えている。2016年と17年にコンバットサンボ100キロ級の世界選手権で二連覇を飾ったサンボを武器にするが、打撃も寝技も一級品のコンプリート・ファイターだ。

 戦いの舞台となったラスベガスはギャンブルの街だが、スポーツ賭博も合法で総合格闘技も賭けの対象となる。マンダレイベイを傘下に持つMGMグループは、ゴルゾフの勝利は1.11倍、石井の勝利には6.75倍の配当金を設定。「あまりの倍率の高さに自分で自分の勝利に賭けようかと思った(笑)」と石井が冗談を飛ばすほどにゴルゾフの勝利を予想する声が多かった。

ケージに向かう石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)
ケージに向かう石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 通常、PFLの試合は5分x3ラウンドで行われるが、1日に2試合を戦わないといけないプレーオフ1回戦だけは5分x2ラウンドといつもよりも1ラウンド少ない。

 2ラウンド制のプレーオフ1回戦でゴルゾフと当たることを「ベスト(な組み合わせ)」と言い切った石井は、「勝てます」と勝利を確信してケージの中に入って行った。

 10センチ以上もリーチが長いゴルゾフと向かい合った石井は自分の距離を保ちながら試合を進めていく。

 「(ゴルゾフは)ジャブとストレートの伸びがあり、スピードとパワーもあるので、常に動きながら距離感の練習を積んできました。ミットを持ってもらっても、パンチよりも距離を意識することを念頭に置いて練習をしてきました。相手は大きいので、相手は届くけれども、僕は届かないという距離がある。踏み込めば届くけど、その場ではお互いに届かない距離にいて、攻撃するときに間合いを詰める。攻撃しても、もし(打撃が)当たらなかったらすぐに元の距離に戻る」

 1ラウンド中盤には左のパンチをゴルゾフの顔に当て、そのままケージ際まで押し込む。シングルレッグは切られたが、払い腰でゴルゾフを倒す。

ゴルゾフを金網に押し込んで、シングルレッグを狙う石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)
ゴルゾフを金網に押し込んで、シングルレッグを狙う石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)
払い腰でゴルゾフを倒す石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)
払い腰でゴルゾフを倒す石井慧(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 グラウンドでは石井がサイドを取るが、体勢を整えたゴルゾフは下から三角絞めを仕掛けてくる。石井は上体を起こしながらブロックして、1ラウンド終了の鐘を聞いた。

 「1ラウンド目の判定が大切だと聞いていた」石井は、1ラウンド目を取りに行く戦いに徹して、「内容的には僕のゲームプランがうまくはまって、練習してきたことができたかなという感じはありました」と手応えも感じていた。

 しかし、2人のジャッジは10-9でオープニング・ラウンドをゴルゾフに与える。(残りの1人のジャッジは10-9で石井)。石井が考えていた通り、1ラウンド目の判定が試合の勝敗を左右した。残念なことに2人のジャッジは石井のテイクダウンよりも、手数こそ多かったがダメージを与えられなかったゴルゾフの打撃と極めることができなかった三角絞めを選んだ。

グラウンド技術も高いゴルゾフは三角絞めを狙うが、石井は巧みに防御する(PHOTO:KIYOSHI MIO)
グラウンド技術も高いゴルゾフは三角絞めを狙うが、石井は巧みに防御する(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 「1ラウンドも僕が絶対に取ったと思ったんですけど、ジャッジ2人は向こうにつけた。慣れっこではありますが……」

 最終の2ラウンドでは距離を詰めてきたゴルゾフがキックを多用してくる。

 2ラウンドの鍵となったのは、終盤に「猪木アリ状態」となった場面。

 「僕がタックルに行くとすぐにブレイクがかかるのに、僕が下に引き込んだときには、相手は寝技に付き合う気もなく、ただ蹴っているだけなのに全然ブレイクがかからない。あそこで亀になって立ち上がるのも良かったかもしれませんが、相手は2メートルあって、パンチもすごくハードなので、あそこでリスクは犯せない。相手が自分のガードに入ってくればすぐに立てるんですけど、相手が立っている状態では……。安全策を取ったのが裏目に出てしまいました」

「安全策を取ったのが裏目と出てしまった」2ラウンド終盤の場面(PHOTO:KIYOSHI MIO)
「安全策を取ったのが裏目と出てしまった」2ラウンド終盤の場面(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 残り20秒を切ってから、そこまで立った状態からキックとパンチを連発していたゴルゾフが寝技を仕掛けてくる。

 オモプラッタから三角絞めを狙ってきたが、石井はゴルゾフを持ち上げるとマットに叩きつけたところで試合終了のゴングが鳴らされた。

 試合の結果は3人のジャッジの判定に委ねられ、1人は19-19の引き分けとしたが、残りの2人は20-18でゴルゾフを支持して、0-2で判定負けを喫した。

 試合に惜敗した石井は「僕がやれることを見せられたのは大きかったです。相手はすごく強かったし、他の試合を観ても僕以外の相手には簡単に勝つほどの実力なので、(そんな強豪と対等に戦えたのは)自信にもなりましたが、やはり勝ちたかった」と勝利を逃したことを悔やみ、「体重も身長もリーチも全く違う大きい選手に勝つ姿を見せたかったので、そこは残念です」と唇を噛んだ。

 ゴルゾフが50発もの打撃を当てたのに対して石井は僅か6発と手数の違いは明らかだったが、ゴルゾフの打撃は石井にダメージを与えられずに「パワー・ストライク」(力強い打撃)はたったの2発しかなかった。

ゴルゾフの右ハイキックはブロックした左手を払い除けて石井の頭にヒット(PHOTO:KIYOSHI MIO)
ゴルゾフの右ハイキックはブロックした左手を払い除けて石井の頭にヒット(PHOTO:KIYOSHI MIO)

 試合後にはツイッターで「僕の戦い方には結果が求められる」と呟いた石井に、その真意を尋ねてみた。

 「選手には二通りのタイプがいる。勝っても負けてもエキサイティングな試合をする選手と、勝ちがどうしても求められる勝ってナンボの選手。僕は勝って、結果を出さないと僕の戦い――戦術――は評価されない。それは生まれつきのものだったりもするので、どうこう言っても仕方ない。生まれつきパンチが強い選手もいれば、瞬発力が凄い選手もいる。僕は明らかにヘビー級の中で小さいし、手も短く、ディスアドバンテージがある。そういう中で勝つには戦術を練らなければいけない。僕はもともと柔道家で、もし僕が(ゴルゾフと)殴り合ったとしても、負けてしまいます。日本のプロモーターの中には「なんで殴り合わないんだ」という人もいますけど、キックボクシング出身の選手に「なんでお前は寝て戦わないんだ」とは言わない。総合格闘技であっても自分の得意・不得意はある訳で、僕の戦いは戦術が大切なので、結果が求められる戦い方だと自分で受け入れています」

 「試合がしょっぱい」と批判を浴びても、自分の信念を貫き通して、勝つことで結果を残してきた石井。今回は負けてしまったが、ヘビー級の中でもトップクラスの実力を誇るゴルゾフと互角の戦いを見せたことで、彼が追い求めてきた道が間違ってはいないことを証明してみせた。

 「負けて学ぶことよりも、勝って学ぶことの方が多いんですよ。勝てば自信もつくし、学びも多い。勝負ごとですから、勝つこともあれば、負けることもあります。次の日が来れば新しい日が始まります。今回は持っている力を全部出し切って、みんなに見せれたと思っています。結果だけは付いてきませんでしたが、努力を続けていけば、いつか噛み合う日が来ると思っていますので、今日からまた継続して努力をしていきます」

 12月31日に100万ドルの優勝賞金をかけてニューヨークで決勝戦を戦うプランが消滅してしまったが、すでに石井の下には複数の海外団体から年末の大会出場のラブコールが届いていると言う。

 UFCに次ぐアメリカ第2位の総合格闘技団体であるベラトールは、12月29日にさいたまスーパーアリーナで日本大会を初開催する。

 年末の日本大会出場に関して「まだベラトールから呼ばれていないので……(笑)。呼ばれれば、選択肢としては考えます」と日本での試合出場を否定はしなかった。

 「試合が続くと、どうしても試合の準備に追われて、スキルアップの練習ができない。この数ヶ月はしっかりとスキルアップの練習を積むのもあり」と言う石井だが、今回の試合も日本からの注目度は高かっただけに、4年ぶりに石井が年末に日本で試合をする姿を見られるかもしれない。

年末のベラトール日本大会ではヒョードル対ランペイジの試合が行われるが、そこに石井とミルコの師弟コンビも参戦して、ヘビー級戦士として成長した姿を日本のファンに披露するか?(PHOTO:KIYOSHI MIO)
年末のベラトール日本大会ではヒョードル対ランペイジの試合が行われるが、そこに石井とミルコの師弟コンビも参戦して、ヘビー級戦士として成長した姿を日本のファンに披露するか?(PHOTO:KIYOSHI MIO)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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