「オミクロン株は軽症だから3回目のワクチンは接種しない」は得策か? 第6波に備える医師の見解
全国のコロナ病棟、年明けの第6波に備える
日本は今が集団免疫のピークにあります。2021年7月~10月に、約1億回も新型コロナワクチンが接種されています。すさまじい接種スピードです。これに加え、極めて高い日本の感染対策レベルにより、第5波後の感染者が抑制できているのだと思われます。素晴らしいことです。
海外では、「ワクチン2回接種」の上にあぐらをかいてしまい、社会的な感染対策がおろそかになっていることから、新規感染者数がなかなかおさまらない国が多いです。
さて、「オミクロン株は軽症だから、3回目ワクチンは不要」という意見を耳にすることが増えてきました。医療従事者でさえもそういった人がおり、3回目接種を希望する人数は2回目より少ない印象です。
イギリスの動向を見る限り、2022年1月以降、日本にもオミクロン株による第6波が襲来する未来を考える必要があります。各自治体も病床の配備をすすめており、全国のコロナ病棟に勤務する医療従事者は、ある程度覚悟しています。
最前線で新型コロナと向き合ってくれる医療従事者が助けを呼んでも、マドハンドのごとく無限に助けに来てくれるわけではないので、病床を増やしても焼け石に水的な部分があるものの、どの自治体もかなり病床キャパシティを増やした状態で2022年を迎える気合いの入りようです。
3回目接種は国際的に推奨されている
新型コロナワクチンを2回接種した人は、ウイルスと戦う細胞性免疫は十分活性化されているのですが、ブレイクスルー感染を防ぐ力が不足しています。3回接種することで、オミクロン株のブレイクスルー感染を中等度防ぐことができることが複数の研究から示されています(表)。ただし、数ヶ月~半年くらいで次第に減衰することが示されており、そこまで長続きはしないようです。
新型コロナワクチンで最も大事な役割は、ウイルスが体内に入れないよう、ウイルスのスパイクタンパクに抗体をくっつけて邪魔をすることです。しかし、変異ウイルスの場合、このタンパク自体が変異しておかしくなっているので、ワクチンによる抗体が十分に作用しません。しかし多少相性が悪かろうが、抗体の数が多ければ、数の力によりブレイクスルー感染を予防する効果が発現されます。ただ、上述したように効果がそこまで長続きしません。
そのため、体に新型コロナのことを記憶させ、細胞性免疫に期待することが重要です。また、重症化を防ぐ効果は高いことから、国際的には現在3回目接種が推奨されています。
オミクロン株は新型コロナ重症者数を増やす?
新型コロナワクチンを2回接種した人が重症化しにくいとはいえ、感染者数が増えれば事情は変わります。イギリスでは現在、過去最多の新規感染者数が報告されており、すでに新規感染者の9割がオミクロン株という状況です(2021年12月23日13時追記)。
これまでの日本の流行は、肺炎があるような「中等症I以上」が入院対象でした。この患者数がコロナ病棟のキャパシティを超えたとき、医療逼迫が起こりました。
もしオミクロン株の重症化率が低くても、感染者数が欧米のようにケタ違いに多くなってしまうと、「感染者数×重症化率」の積が大きくなって中等症I以上の患者数も増えてしまいます。これが第6波の医療逼迫につながるのではないかと専門家は警戒しています(図1)。
実際、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は12月15日に「(オミクロン株による)重症度低下のメリットよりも、感染性の高さによるデメリットのほうが上回る」という声明を出しています(1)。
■ECDCの声明
- 欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)諸国では、すでにオミクロン株の伝播が進行しており、今後2か月以内にオミクロン株患者のさらなる急増が予想されます。
- オミクロン株が今後さらにEU/EEAで感染拡大する可能性は「非常に高い」と言えます:現在デルタ株が最も流行していますが、2022年2月にはオミクロン株が最も優勢となるでしょう(図2)。
- オミクロン株の重症度がデルタ株以下であっても、感染性の高さとそれによる患者急増は、重症度低下のメリットを上回ると思われます。そのため、オミクロン株はさらなる入院や死亡を増やす可能性があります。
- デルタ株の現行感染を減らし、オミクロン株の感染拡大を遅らせ、管理可能な状態に維持するために基本的感染対策の強化が重要です。各国がワクチンの追加接種を展開する時間を確保することで、医療逼迫を防げます。
- 患者数急増にそなえ、2回ワクチン接種および追加接種を継続的に勧奨することが重要です。
ワーストシナリオを現実にしないため
医療逼迫によって困るのは、救急診療やがん診療といった通常診療がまともに行えないことです。実際、関西第4波、関東第5波では救急車を呼んでも搬送できない事例が多発しました。
また、オミクロン株に感染した後の後遺症がどのくらい存在するのかもまだよく分かっていません。
蓋を開けてみれば「日本の対策が功を奏した」という結果になってくれるのが理想ですが、決して楽観シナリオに基づいて動くべきではありません。相手はこれまで幾度となく苦しめられてきた新型コロナであり、油断禁物です。
第5波収束後の現在のような温度感を維持する、すなわち「感染者数をおさえながら経済も回す」を目指すのであれば、若年層も含め、広く3回目接種をすすめる必要があります。
ゆえに、「オミクロン株は軽症だから3回目のワクチンは接種しない」よりも、「ワクチンを2回接種した中途半端な状態でオミクロン株と対峙するのではなく、集団的自衛を目指し医療逼迫を回避するため、3回目接種をすすめる」というワーストシナリオを想定した戦略のほうが、現時点で私たちが取るべき最善手と考えます。
(参考)
(1) Assessment of the further emergence and potential impact of the SARS-CoV-2 Omicron variant of concern in the context of ongoing transmission of the Delta variant of concern in the EU/EEA, 18th update. (URL:https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/covid-19-assessment-further-emergence-omicron-18th-risk-assessment-december-2021.pdf)
※2021年12月25日8時30分 オミクロン株に対する3回目接種の効果に関する知見が集まってきたので、一部文章を改変しています。