真冬のバッタ、ツチイナゴはモズの早贄の格好の標的=涙目の無念の表情が哀れみを誘う
真冬にトノサマバッタ級の大きなバッタを見かけることがある。地球温暖化もついにここまできたかと、驚く人も少なくない。確かに温暖化で、夏の虫が初冬まで生き残るようになったが、さすがに1月、2月の東京にトノサマバッタはいない。
この大きなバッタは、越冬バッタを代表するツチイナゴ。秋に成虫になって、そのまま冬を越し、春に交尾、産卵するという変わり者だ。
キリギリスには越冬する種類がいくつかあるが、バッタ目(直翅目)バッタ亜科(イナゴやトノサマバッタの仲間)では、成虫で越冬するのはツチイナゴが唯一、オンリーワンだという。
ほかのバッタのように、春、夏に青春を謳歌して、寒くなる前に産卵して一生を終える方が、気楽で楽しいような気がする。それなのになぜ、ツチイナゴは、成虫で厳しい冬を越すのだろうか。冬にはカマキリなどの天敵がいないから、という理由も考えられないではない。
しかし、冬になると大敵のモズが、北方や山地から関東の平地などへ移動してくる。当然ツチイナゴは、モズにとって格好の標的になる。
あの有名なモズの早贄(はやにえ)にされ、枝に突き刺されて息絶えたツチイナゴを見かけることも多い。早贄は、獲物の一部を神にささげる生贄(いけにえ)だという言い伝えもあるが、虫好きの目で見ると、まるで磔(はりつけ)の刑のような早贄は、神聖な行為と言うより、残虐行為に見えてしまう。
野鳥の会の人々や、農家の人々は、イナゴを駆除するモズの働きをほめたたえるのかもしれない。しかし虫好きは、「あの勝ち誇ったようなモズの高鳴きを、ツチイナゴたちはどんなに悔しい気持ちで聞くのだろうか」などとつい虫の立場で考えてしまう。
ツチイナゴと他のバッタを見分ける簡単なポイントは、涙目。ツチイナゴの複眼の下には、まるで涙を流しているような、くっきりと色分けされた模様がある。特に緑色の幼虫の鮮やかな涙目は、命乞いをしているようで哀愁を誘う。いかにも偉そうなトノサマバッタの目と見比べてみると違いは歴然だ。