Yahoo!ニュース

あふれるオマージュ&愛、伝説的作品の実写化…。いま新たな「日本ブーム」の始まり?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
秋葉原をヒントに作られた『ゼロの未来』での街の風景

秋葉原にアップルシード、そして懐かしの80年代ゲーム

コミックやゲームといった独自のカルチャーを中心に、日本発の作品が世界各国の映画にさまざまな影響を与えてきたのは、今さら言うまでもない。だからと言って、「世界に誇る日本カルチャー」などと、自国の文化を単純に賞賛するつもりもない。しかし、ここのところ偶然にも、「なぜこんなに!?」と感じるほど、日本愛を感じる外国映画の公開が相次いでいる。

まず、5月16日公開の『ゼロの未来』。

テリー・ギリアム監督は、コンピュータに支配された近未来の都市を描くために、「秋葉原」を参考にしたと告白していする。初来日の際、秋葉原を訪れてカルチャーショックを受け、以来、そのイメージを自作で使いたかったとのこと。カラフルかつ雑然としたムードや、最新型の広告、街の喧噪など、たしかに『ゼロの未来』の都市風景は秋葉原を彷彿とさせる。素直に日本の風景を入れ込んでいた『ベイマックス』とは違い、もっとディープな感覚を味わえる。監督の愛に満ちた「オマージュ」だ。

続いて翌週、5月23日公開の『チャッピー』。

人工知能が搭載されたチャッピーが、人間たちとのさまざまなドラマを繰り広げる。
人工知能が搭載されたチャッピーが、人間たちとのさまざまなドラマを繰り広げる。

こちらのニール・ブロムカンプ監督は、出世作『第9地区』のエイリアンを映像化する際にも、Hondaのロボット、ASIMOを参考にしたと語っていた。この新作では主人公のロボット、チャッピーに、監督が敬愛する士郎正宗へのオマージュが全開。ウサギのようなチャッピーの耳は、明らかに『アップルシード』のロボット警官が模倣され、これは監督自身も認めている。

6月20日公開の『マッドマックス 怒りのデス・ロード

この伝説のアクションシリーズが、日本の「北斗の拳」に与えた影響は有名だが、最新作まで全作を手がけてきたジョージ・ミラー監督は大友克洋の「AKIRA」が大好き。その日本カルチャー愛によって、今回、日本から、アニメ監督やデザイナーとして知られる前田真宏(まひろ)をスタッフとして迎え入れた。彼は悪役のイモータン・ジョーの外見などをデザインしている。じつはミラー監督は、前田氏と『マッドマックス』のアニメ版を製作しようと画策していた。残念ながら実現しなかったが、『マッドマックス』を通して、彼は日本のアニメ/コミックとの相互作用を起こしている。

そしてちょっと先だが、9月19日公開の『ピクセル

巨大なパックマンがアメリカの大都市を襲う!?
巨大なパックマンがアメリカの大都市を襲う!?

日本が生んだ人気ゲームの映画化は、これまでも「バイオハザード」、「スーパーマリオ」などいくつもあったが、本作は懐かしのの80年代ゲームキャラが総登場する。パックマン、ドンキーコング、ギャラガ、スペースインベーダー…etc.といった面々が、NYを舞台に、痛快アクションを繰り広げるのだ。ディズニーのアニメ『シュガー・ラッシュ』もゲームキャラたちの物語だったが、本作は、NASAが宇宙に向けて送ったゲームを、宇宙人が「挑戦状」と勘違いして、ゲームキャラに扮して攻撃してくる、という奇想天外な設定。実写の超大作として話題を集めそうだ。

よくよく考えれば、年末に公開される最大の話題作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も、1977年の第一作は、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』がヒントになっており、2015年は日本のコンテンツが根元にある話題作が途切れない。

伝説的コミック/アニメ作品の実写企画が続々

さらに今後、ラッシュになりそうなのが、日本の作品そのものを、ハリウッドを中心に海外の監督が映画化する動きだ。

今年4月には梅津泰臣の18禁アニメ「A KITE」の実写版『カイト/KITE』が公開されたばかりだし、現在、日本でも公開中で、ダニエル・ラドクリフの頭にツノが生える『ホーンズ 容疑者と告白の角』のアレクサンドル・アジャ監督は、ここ数年、寺沢武一のコミック「コブラ」の実写映画化のプロジェクトを進行中。先日のインタビューでも「絶対に近いうちに実現させる」と意気込んでいた。

今年に入ってからは、「攻殻機動隊」の実写版でスカーレット・ヨハンソンの主演が決まり、2008年頃から実写企画のあった「デスノート」のハリウッド版も、このほど監督が決まり、本格的に始動した。さらに「マクロス」もソニー・ピクチャーズが映画化権を獲得。「宇宙戦艦ヤマト」をディズニーが実写化する『STAR BLAZERS』や、「戦闘妖精・雪風」をトム・クルーズ主演で映画化する『YUKIKAZE』も一応、企画が進行中だ。アニメやコミックではないが、マーティン・スコセッシ監督による、遠藤周作原作の「沈黙」の映画化も間もなく完成をみる。

ただ、「AKIRA」のように何度も製作が中断される例もある。“日本オタク代表”で、『パシフィック・リム』でも怪獣愛を込めたギレルモ・デル・トロ監督も、大友克洋の「童夢」や浦沢直樹の「MONSTER」を実写化させようとしたが、結局、中断。あの「エヴァンゲリオン」実写化の噂も何度も出ては、立ち消え…と、未完成のプロジェクトを挙げればキリがない。

複合的要素が、いま大きな「うねり」を生む

とにかく数だけは多い、日本の作品の実写化企画だが、ここ数年のブームの理由としていくつか考えられるのは…

ハリウッドの原作不足

これは何年も言われてきている事実だが、シリーズや続編に頼るハリウッドは、世界中で映画向けの原作を探し続けている。

2014年『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の成功

日本では大ヒットとまではいかなかったが、世界的には成功。原作は日本のライトノベルで、新たな未開拓の「宝庫」に目がつけられている。

オタク世代監督の台頭

以前からクエンティン・タランティーノのような例もあったが、ギレルモ・デル・トロ、ニール・ブロムカンプのように少年期から日本カルチャーを溺愛してきた人が、大物監督となり、好きな企画を撮れる立場になってきた。多感な時期に、宮崎駿、大友克洋らの作品に強い影響を受け、「オタク」から監督の地位についた人が急増している。

改めて整理すると、どれも「今さら」な理由ではあるが、これらが複合的に効果を上げ、ハリウッドを中心とした海外で、日本の原作が映画化される「うねり」はできあがった。そのうねりが大きくなっているのが、ここ数年の現象なのだろう。

『ゼロの未来』

(c) 2013 ASIA & EUROPE PRODUCTIONS S.A. ALL RIGHTS RESERVED.

配給:ショウゲート

5月16日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館他にてロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

斉藤博昭の最近の記事