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秋元才加がAKB48卒業から7年でハリウッド・デビュー 「侍を意識してキャラクターとして演じました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『山猫は眠らない8』でハリウッド・デビューした秋元才加(撮影/松下茜)

AKB48を7年前に卒業して、女優として個性を磨いてきた秋元才加が、人気シリーズ最新作『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』でハリウッド・デビューを果たした。謎の暗殺者役で持ち前の身体能力を活かしたアクションを見せ、キャスト・クレジットでは2番手に記されている大役だ。この抜擢に至るまでの経緯を振り返ってもらう。

美空ひばりさんのような表現に憧れてました

秋元才加は2006年にAKB48に2期生として加入。男前なキャラクターとルックスで独特の存在感を放ち、チームKを初代キャプテンとして引っ張った。2013年に卒業後は、三谷幸喜の舞台や映画に出演したり、ドラマのメインキャストを務めたり、女優としてキャリアを重ねてきた。

――AKB48に入った頃から、女優にも意欲はあったんですか?

秋元  幼少期から本を音読したり、劇で何かになり切るのは好きでした。本の世界に入り込んで「この人はどんなキャラクターで、どんな話し方をするのかな?」みたいなことを考えて、1人遊びをしている子どもだったんです(笑)。何かになり切っているときは自分を忘れられて、その時間がすごく楽しくて。歌ったり踊ったりするのも好きでしたけど、美空ひばりさんとかマイケル・ジャクソンさんのような、歌の範ちゅうを越えた表現に憧れていました。

――最初からすごいところに目が向いていたんですね。

秋元  逆に「アイドルになりたい」という感覚はあまりなかったかもしれません。(プロデューサーの)秋元康さんが大好きな美空ひばりさんの作詞をしている方だから……ということでAKB48に入りました。

――表現という点では、歌でも演技でも境目は感じてなかったような?

秋元  そうですね。お芝居ならお芝居の、バラエティならバラエティの表現をして、スイッチが違うだけ。あまり切り離して考えてはいませんでした。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

小さい頃から映画は観るより自分が出たくて

――自分で映画やドラマを観たりはしてましたか?

秋元  テレビの『ロードショー』でやる映画は家族全員で観る決まりがあって、スティーブン・セガールさんの『沈黙』シリーズとかアクションものも観ていました。でも正直、そこまで好きだったわけではなかったです。観ていると「自分がやりたい」と思ってしまって。

――デビューもしてないうちから(笑)?

秋元  そうなんです。「プレイヤー側に立ちたい」というのが常にありました。

――AKB48加入後に、わりと早くから映画やドラマに出演していましたが、ハリウッドも当時から見据えていたんですか?

秋元  あまり意識はしていませんでした。もともとダブルでフィリピンにルーツがあって、海外は身近ではありましたけど、ファンの方に「ハリウッド映画に出られたらいいね」と言われると「そうだね」と答えつつ、「出られるわけがない」と思っていて(笑)。リアリストで、あまり夢を持たないタイプなんです。でも今回、海外の作品に抜擢していただいて自信になったし、当時のファンの方の想いに応えられたのは嬉しいです。

アクションを取るか普通の女性を演じるか

――アクションに関しては、もともと合気道をやっていたんですよね?

秋元  小4から中学の途中まで、5年くらいやっていました。道着を着て、二段になってからは袴を穿いて、小学校での稽古に通っていました。

――自分から「やりたい」と?

秋元  祖母と母親が強い女性が好きだったんですね。「男性に守られるのでなく、自分の身は自分で守れるようになりなさい」と口酸っぱく言われて育ってきました。そのために何か習うことになって、空手、柔道、合気道とあった中で、空手は「あなたの性格だとイラッとしたら男の子にも手を出しそうで危ない」と言われて(笑)。合気道は相手の力を利用して技をかけるので、「こっちがいい」となりました。

――運動神経はもともと良かったんですよね?

秋元  そうですね。運動会では「秋元はすごいね」と言われてました。

――役者として本格的にアクションに取り組んだのは、ドラマ『牙狼<GARO>』のキャラクターからスピンオフで主演映画となった『媚空-ビクウ-』(2015年公開)辺りからでしたっけ?

秋元  そうですね。その前に『ウルトラマンサーガ』や(AKB48ドラマの)『マジすか学園』でもアクションはありました。自分では特別アクションをやりたいわけでもなかったんです。でも、お芝居をやっているうちにそういう役が来て、たぶん向いているんだろうなと。そっちの世界観で活きるヴィジュアルや体形なんだと、薄々気づきました。

――自覚的にアクションを武器にしようと?

秋元  本格的に習おうかとも思いましたけど、日本でアクション作品はそこまで多くないですし、私は筋肉が付きやすくて、すぐ体が大きくなってしまう。そうなると普通の女性が演じられなくなるので、迷っていて。そんな矢先に『山猫は眠らない』の話が来ました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

自分の個性は強さや鋭さだと再発見できました

秋元才加のハリウッド・デビュー作となったのは『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』。凄腕のベテラン狙撃兵、トーマス・ベケット(トム・べレンジャー)が主人公のシリーズだったが、前作では息子で同じく狙撃兵のブランドン・ベケット(チャド・マイケル・コリンズ)が主役に。今作で秋元が演じるのは、この親子を狙う謎の暗殺者、ユキ・ミフネ。CIA、ロシアの傭兵、日本のヤクザの訓練を受けてきた役どころだ。

――『山猫は眠らない8』では、日本人の殺し屋役のビデオオーディションがあったそうですね。

秋元  そうです。『こんな動きができます』というアクションを撮って送って、その後、台本を読んで英語のチェックをしていただいたりして、最終的に役をいただきました。

――準主役のレディ・デスことユキ・ミフネ役に選ばれて。

秋元  今まで日本では、自分の強い個性が良い方向に出る場合と悪い方向に働く場合がありました。気の強い女性や仕事ができるキャリアウーマンみたいな役はいただくけど、普通の女性は演じにくくて。この『山猫』で、私の個性は強さや鋭さだと再発見できました。日本人目線とはまた違う、海外の人が料理したアジア人の秋元才加を見ることができたのも、すごく新鮮でした。

――大きなライフルを使ったガンアクションは初めてでしたっけ?

秋元  デビュー間もない頃に『聖百合騎士団』という映画でマシンガンを撃つシーンがありましたけど、本格的なのは初めてでした。カナダで実弾を使ったガントレーニングもさせていただいて、警察OBの方に手取り足取り教えてもらったり、贅沢な時間でしたね。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

“静”の部分を担って合気道が活きました

――実弾でライフルをブッ放すって、どういう感覚でした?

秋元  体幹を鍛えてなくて筋肉の付いてない人が撃ったら、危ないと思いました。反動で体を支えられなくなるので。かと言って、吹っ飛ぶほどの反動があるわけでもなくて。今はライフルもいろいろ改良されて、5種類くらい撃たせてもらいましたけど、サイレントな感じのものもありました。それでもモックの軽い銃で練習していたら、自分の中でリアリティがなくて、お芝居をするときの気持ちも変わっていたでしょうね。練習で使ったライフルより、劇中で持っているもののほうが重くて、10キロ弱あるんです。

(C)2020 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc. All Rights Reserved.
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――片手で軽々と担いでいるように見えましたけど。

秋元  すごく重かったので、撮っているときだけグラグラしないように頑張って、カットがかかってから「えーっ! またやるの?」という感じでした(笑)。

――劇中ではほとんど表情を変えていませんでしたね。

秋元  自分がハリウッドの作品の中のアジア人としてどう映っているか? そこが一番興味があったし、怖さや不安もありました。アメリカ人のチャドが“動”の部分を担うとしたら、日本人の私が担うのはたぶん“静”の部分。武士、侍、忍者……。そういう重みを求められていると思ったので、ピョコピョコしたらいけない。侍のように肝が据わっていてブレない。そんなことを意識して、役を作っていきました。

――動き的には重心が揺るがない感じですか?

秋元  そうです。そこは合気道で習ってきたものが、フィジカルにもメンタルにもすごく活きたと思います。

――ブランドンとの立ち回りでは、蹴りや関節技も繰り出していました。

秋元  アクションを練習する時間もちゃんと作ってくれました。私は自分で力があるほうだと思っていたのが、「もっと重みのある本物のパンチをしてくれ」とも言われて。次にチャンスがあったら、さらに筋力を付けていきたいです。

――そういう面でも、ハリウッドのレベルは高いんですね。

秋元  シガニー・ウィーバーさんもシャーリーズ・セロンさんも、銃を持っている場面とかを見ると腕がすごいんです。そのくらいやらないと、アクションシーンに説得力が出ない。だから皆さん、自然にああいう体になっていくんだなと、勉強になりました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

ハリウッドではドシンとした存在感で勝負

――今回のアクションで特に苦労したことはありました?

秋元  紐で刃物を投げる技はすごく難しくて。監督の中で忍者のイメージを取り入れたんだと思いますけど、途中で「できない!」ってメゲそうになりました。でも、カメラマンさんがアクションを撮り慣れていて、「ミスしたかな?」と思ったところも、すごく迫力が出ていて感動しました。「私、めちゃめちゃカッコイイ!」と自分を誉めてあげたくなったくらいで、世界はすごいと思いました。

――カッコよかったし、たぶん海外の人が見たら不気味な、得体のしれない東洋人のたたずまいも出ていたと思います。『ブラック・レイン』の松田優作さんを彷彿させるものもありました。

秋元  あの松田優作さんの狂気はヤバいですよね。日本人が観てもオーッ……となるような。日本人がハリウッドで何で勝負できるか考えたら、存在感がドシンとした方が起用されている気がするんです。重厚感とは違って、日本語で何と言ったらいいかわかりませんけど、優作さん然り、高倉健さん、渡辺謙さん然り、ドッシリした俳優さんが多いですよね。

――確かに。

秋元  私は日本ではあまりドッシリしたお芝居をしてなくて、むしろ、なるべくやさしく、ソフトに見えるようにしていました。でも今回、海外の作品に出て存在感が軽くならないようにして、画の中にちゃんとい続けることを意識しました。

――それであの空気感が醸し出されたんですね。

秋元  ただでさえアジア人は1人だけで、異質なのが良く見えるか、悪く見えるか。自分ではまだジャッジができませんけど、いい意味で浮いている存在でいられたらいいなと思いながら、演じていました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

イメージしたのは竹のような強さと厳しさです

――アクションもさることながら、ユキ・ミフネの精神性についても掘り下げました?

秋元  設定プロフィールにいろいろ詰まってますよね。リアルな人間として演じるのか、アメコミのキャラクターとして演じるか、すごく迷いました。監督がアメリカのマンガ家さんで、そういうエッセンスもたくさん入れて、いろいろ挑戦する作品だと思ったので、迷いは捨てて、まずキャラクターとしてこの世界に生きることを選びました。チャドさんやトムさんは人間としてそこにいる。1人だけキャラクターがいても違和感があるので、バランスや調和の加減がすごく難しかったです。

(C)2020 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc. All Rights Reserved.
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――でも、そのキャラクター性も体現されていました。

秋元  海外の人が見た日本人のイメージって、どういうものなのか? 『ブラック・レイン』とか(クエンティン・タランティーノに影響を与えた)梶芽衣子さんの『修羅雪姫』とか、いろいろな映画を観ました。今回は名字もミフネですし、強さや厳しさを持ちながら静の部分を担う、竹のようなイメージを作りました。

――現場ではキャストに1人1台トレーラーハウスが用意されていたそうですが、他にもハリウッドならではのことはありました?

秋元  キャストは1人ずつ、運転手さんが車で現場まで送ってくれました。出番までトレーラーハウスでゆっくりできて、毎回温かいミルクとごはんが出て。日本の現場だと“めし押し”といって、ごはんの時間が短くなることもありますが、ハリウッドでは何があっても、ごはんはきっちり1時間取ってました。メイクさんたちも「日曜は家族と過ごす日」ということで、たまたま日曜に撮影が入ってしまったときは、子どもを現場に連れてきてボール遊びをしたりしていました。

――アメリカっぽいですね。

秋元  日本人は真面目で仕事第一になりがちですけど、向こうでは仕事もプライベートも大事にする。「相乗効果でどちらも良くなったらいいよね」って感じで、楽しそうでした。必要以上に自分の身を削らず仕事をしているのが、すごく素敵だと思いました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

イチから積み重ねるのが自分に向いています

――今、女優活動をしている中で、アイドル時代に培ったものが活きている部分もありますか?

秋元  特にAKB48はいろいろなことを経験させてもらったので、よく「度胸が据わっている」と言われます。最初は本当にお客さんの少ない劇場から始めて、コツコツ積み重ねてきて、今に繋がって。個人でのお仕事も小さい役から、少しずつ自信を付けてきました。海外のお仕事もまたイチからで、誰も自分のことを知らない中で、私のお芝居を見て話し掛けてくれたり、誉めてくれたり。そういう人が1人、2人……と増えていくのが、すごく嬉しいです。人間力を試されている感じですけど、そんなふうにイチから積み重ねていくのが、自分に向いているんだと思います。

――ハリウッドでいろいろ積み重ねていく先に、見据えているものはありますか?

秋元  今回は初めてなのに大きい役をいただいて、まず「出てすぐ死なない」という第一段階の目標はクリアできました(笑)。1回出られただけでもすごいことですけど、次は2回目。そこに繋がったら、今度は3回目。そういうふうに積み重ねていけたらいいなと思います。お客さんの分母が全然違うので、世界をより近く感じることができて、海外から日本の良いところも悪いところも見えてくる。逆に、日本から海外の良いところも悪いところも見えるようになる。そういう違った視点が自分の中に培われるので、海外には常に触れていきたいです。

Profile

秋元才加(あきもと・さやか)

1988年7月26日生まれ、千葉県出身。

2006年にAKB48に2期生として加入してデビュー。2013年に卒業して本格的に女優活動をスタート。主な出演作は映画『マンゴーと赤い車椅子』、『ギャラクシー街道』、『媚空-ビクウ-』、ドラマ『黒井戸殺し』、『奪い愛、冬』、『やすらぎの刻~道』、舞台『シャーロック・ホームズ2 ~ブラッディ・ゲーム~』、『ゴースト』、『日本の歴史』など。

『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』

監督/カーレ・アンドリュース 脚本/オリバー・トンプソン 出演/チャド・マイケル・コリンズ、秋元才加、トム・べレンジャーほか

8月14日より公開

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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