トヨタが「エンジン原価30%削減」の脅威のプロジェクト 新型コロナ禍でも成功するのか?
CCCR活動とは
トヨタ自動車が最量販タイプのエンジンの製造原価を30%削減するという「驚異的なプロジェクト」(トヨタ系部品メーカー幹部)に取り組んでいる。
まずは中国車に照準
対象は「カローラ」や「ノア」などに採用している「ZRエンジン」で、プロジェクトはサプライヤー(部品などの仕入れ先)を巻き込んで昨年10月から始まり、今年5月を目途に新たな提案を受け付ける予定。プロジェクト名は「CCCR活動」。「Corolla C-platform Cost Reduction」の頭文字から取った。
トヨタの狙いは、中国車との競争に勝つことにある。中国のエントリーユーザーの多くはこれまで、「Bセグメント」と呼ばれる小型車を購入していたが、それが「カローラ」などのCセグメントに移っているのが現状。中国メーカーが力を付け、そのCセグメントで追いつかれつつあるとの危機感がトヨタにはある。さらに、Cセグメントの購入層は将来、「レクサス」などの高級車に移行する重要顧客となる位置づけ。このため、Cセグメントでの競争は負けられないのだ。
品質は「割り切る」
中国メーカーが力を付けている一例を挙げると、民族資本系で勢いがある吉利のセダン「帝豪GL」の最上級グレードの価格が約122万元に対して、トヨタの「カローラ」のエントリーモデルが約120万元。「帝豪」のメーカー保証は4年または走行距離10万キロに対して、「カローラ」のメーカー保証は3年または10万キロ。こうしたデータは吉利が品質で自信を付けていることを物語っている。
さらに中国メーカーは今後、輸出戦略を強化すると見られ、中国以外の市場でも競合になるため、トヨタはコスト面でも優位性を保つために主力部品であるエンジンの原価を30%下げる決断をしたと見られる。
30%原価低減に取り組む方針として、トヨタはまず「割り切る」ことを掲げた。「トヨタ品質」にこだわるのではなく、「現地品質」に切り替え、かつ商品力で負けないようにするという。具体的には、燃費、動力、操縦安定性、居住性など11項目で、中国メーカーが造る競合車と徹底比較し、部品の調達先までも分析する計画だ。
次はハイブリッドの新技術か
トヨタ系部品メーカーの幹部は「徹底的に中国メーカーの調達先のコスト構造を分析するようにとの指示がトヨタから出た」と言う。さらにトヨタは日本の本社に、「中国車両部品分科会」を設け、ボディー、シャシー、電子技術に分けて細かく分析していく。
トヨタは、こうした中国車対策の取り組みを他地域でも積極的に展開する方針をサプライヤーに対して示し、「中国で学んだことを、他機種・グローバルに展開して、他のエンジンや周辺部品も含めて原価を30%落とす」と説明したという。ハイブリッドの次世代技術がターゲットに入っているようだ。
トヨタのこうした原価低減は、開発コストを効率化し、浮かせた部分を、いわゆるCASE領域に回していくための戦略である。トヨタの研究開発費は現在、約1兆1000億円あり、そのうち50%がCASE比率だが、総額を大きく増やさずにCASE比率を60%にまで高めていく計画なので、こうした原価低減を推進している。
サプライヤー再編を誘発
しかし、トヨタ系部品メーカーの業績は全体的に厳しくなっている。その理由は、ここ数年、決算の業績に直結する連結出荷台数(小売りではなく工場から販売会社に出た台数)が890万台レベルで横ばいだからだ。これまでもトヨタは大胆なコスト削減策を展開してきた。その場合、サプライヤーは単価が落ちても台数が増えること、すなわち「面積の拡大」によってカバーしてきたものの、台数の大きな伸びが今後期待できない中で、主力部品の30%原価低減は、サプライヤーの経営に大きな衝撃を与え、場合によってはトヨタ系サプライヤーの再編を誘発するかもしれない。
今の電動化の流れでは、いずれエンジンの生産量は落ちていくだろう。そうした時代を見越してトヨタはサプライヤーも含めて体質を「筋肉質」にしている動きとも見て取れる。
ただ、ここに来て想定外のことが起きた。新型コロナウイルスによる世界規模での生産停止だ。業績に与える影響は、2008年のリーマンショックの時よりも大きいとの見方が浮上している。このため、トヨタは4月に仕入れ価格の値下げ要求をサプライヤーにする予定だったが、夏以降に見送ることにした。トヨタは毎年、年2回の部品の仕入れ価格の値下げ要求をしているが、見送るのは異例の措置だ。
「CCCR活動」が今回の新型コロナウイルスの影響によってどのような影響を受けるか、サプライヤーは注目している。