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上りエスカレーターで前の女性の尻に顔を近付けた男 触らなくても罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 神戸市にある商業施設の上りエスカレーターで、前に立っていた面識のない23歳の女性の後ろで前かがみとなり、その尻に顔を近付けたとして、69歳の男が逮捕された。尻に顔をうずめ、においをかいだ疑いもあるが、「顔を近づけただけで、においはかいでいない」と供述しているという。

 報道によると、発覚の経緯は次のようなものだ。

「尻に何かが当たった感覚のあった女性が、エスカレーターを降りた後、後ろにいた男をスマートフォンで撮影」「男は、その後自ら警察を訪れ、『女性にものがぶつかってトラブルがあった』と相談」「男が2022年9月にも同様の行為をした疑いで逮捕されていたことから、警察が防犯カメラを調べたところ、前かがみの状態から顔を上げる男の姿が写っていた」(2023/8/16 サンテレビ

「卑わいな言動」に当たる

 男は兵庫県の迷惑防止条例違反に問われている。この条例は、公共の場所や公共の乗物において、人に対して不安を覚えさせるような「卑わいな言動」をしてはならないと規定している。電車内での痴漢がその典型だが、身体に触れる場合に限られない。最高刑は懲役6か月、罰金だと50万円以下であり、常習になると懲役1年、罰金で100万円以下と重くなる。

 「卑わいな言動」とは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語・動作を意味する。これに当たるか否かは、行為態様や犯行当時の状況、被害者と犯人の関係といった客観的事情に照らし、被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断することになる。性的な動機や目的を要しない。

 北海道で迷惑防止条例違反に問われた事件だが、約5分間、40m余りにわたって女性をつけねらい、背後1~3mの距離でズボンごしにお尻を11回ほど撮影した行為について、「卑わいな言動」に当たるとした最高裁の判例もある。

 今回のケースも、男が女性の尻に顔をうずめたのであれば完全にアウトだが、女性の供述によるとその尻に何かが当たった感覚を受けたとのことであり、尻に接触するほどの距離まで顔を近づけていることが防犯カメラの映像から明らかとなれば、たとえにおいをかいでいなくても、やはり「卑わいな言動」としてアウトということになる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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