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お父さんをお父さんらしくする方法:小泉進次郎環境相立ち会い出産報道から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:お父さんみんなが良いお父さんになれますように。(写真:アフロ)

<父としての自覚を持ちにくい男たち。お父さんは、お母さんと同じ親だとはいえ、「周回遅れのランナー」です。そんなお父さんをお父さんらしくする賢い方法をお伝えします。>

■小泉進次郎環境相に男児、立ち会い出産

「小泉環境相は、妻でフリーアナウンサーの滝川クリステルさんの出産に立ち会い、母子ともに元気だと明かした。」(小泉進次郎環境相に男児 立ち会い出産「ほっとしている」:Y!ニュース)

小泉環境大臣は、自分も父のような父になりたい、育児休暇も取得すると語っています。育児休暇取得には賛否があるようですが、良いお父さんぶりを早速発揮しているようです。

しかし、世間一般ではお父さんがすぐに良いお父さんになるのは、簡単なことではありません。多くのお母さんが、不満を持ち、イライラするほどです。

■お父さんがお父さんらしくなることの難しさ

赤ちゃんが「おぎゃあ」と生まれた瞬間に、父と母は同時に生物学的な父と母になります。出産届を役所に出せば、父と母は同時に法律的な父と母にもなります。

けれども、心理的にはどうでしょう。父と母は同時に心理的な父と母になるわけではありません。多くのお父さんたちは、心がついていきません。父としての自覚が持てないのです。

■お父さんは一周遅れのランナー

多くの女性たちは、幼いころにお人形さん遊びをします。ままごと遊びをします。女の子たちはお母さんの役を演じて、子育てごっこを楽しみます。これは、将来にお母さんになるための心の練習とも言えるでしょう。

怪獣とウルトラマンの人形で戦いごっこをする男の子たちとはずいぶん違います。

そして女性たちが、幸せな結婚をし、望んでいる妊娠をすれば、心は幸福感に包まれます。まさに「おめでた」です。妊娠中の体の不調や出産の不安はあるものの、おなかの中の赤ちゃんを愛します。

胎児が成長し、胎動を感じたりすれば、「赤ちゃんがおなかをけった!」と大喜びです。最愛の我が子の存在を実感します。

子供の名前を考えたり、ベビー用品を買いそろえるのも、とてもうれしい作業です。

お父さんも、もちろん、うれしくないわけがありません。妻と共に喜び、出産の準備も一緒に行います。

けれども、多くのお父さんたちは、子供のころからお父さんになる練習をしてきたわけではありません。胎動を感じて大喜びする妻と同じ気持ちで喜べる夫は、それほど多くはないかもしれません。

まだおなかにいる赤ちゃんに、妻と一緒に愛をこめて笑顔で語りかけるようなことを本心からできるのは、例外的にすばらしい父親だけでしょう。

赤ちゃんが生まれるまでに、幸せな母親たちは、十分に母親になる心の準備ができています。けれでも、多くの父親はその準備が不十分なのです。

もちろん、子供が生まれたことはうれしいのですが、同時に父と母になったとはいえ、お父さんは周回遅れのランナーのようなものです。並んでいるように見えますが、一周遅れなのです。

■父親としての自覚を持たせるための立ち合い出産(立ち合い分娩)

父としての自覚を持ちにくい男性に、父親としての自覚を持たせやすい良い方法の一つが、立ち合い出産(立ち合い分娩)です。私も二人の子供の出産に父として立ち会いました(お父さんになった私:心理学者の立ち合い出産と父としての子育て:Y!ニュース有料)。

特別な立ち合い方でなくても結構です。出産のもっとも感動的な場面だけの立ち合いで結構です。出産の場に立ち会うことが、父としての自覚を高めると言われています。

夫婦で協力して、「良い出産」ができれば最高です。「良い出産」は医学的な意味だけの良さではなく、その場が喜びで満たされるような出産です。初めて我が子を見たお母さんが感動できる出産です。

ただし、立ち合い出産がいつも上手くいくわけではないようです。ひどい例では、酒を飲んでやってくるお父さんもいます。あるいは、まじめなお父さんでも自分が気分が悪くなって倒れてしまえば、ひんしゅくを買います。

妊婦さんが夫に頼って甘えすぎて、スムーズな出産にならないこともあるようです。

夫婦が協力し、二人の子供の誕生を共に経験できたなら、お父さんも早くお父さんらしくなることができるでしょう。

■お父さんをお父さんらしくする方法

お母さんだって、女性だからといって生まれつき母性があるわけではありません。様々な経験を通して、お母さんらしくなっていきます。男性も同様です。お父さんらしく父性を発揮するには、経験が必要です。

本来は、お母さんと同様に、強く子供を愛し、深く子育てに係われれば良いでしょう。でも、みんなができるわけではありません。お母さんがイライラして文句を言えば、良いお父さんになるわけでもありません。

ここは、工夫が必要です。なにしろ、周回遅れのランナーなのですから。

お父さんの子育ては、しばしば「良いとこ取り」と言われます。細かいことまで指導するのはお母さんの役割で、遊んだり、おもちゃを買ってあげるのは父の役割だったりします。「ずるい!」というお母さんもいます。

けれども、これもお父さんをお父さんらしくする工夫の一つです。立ち合い出産で、良い場面だけ見せるのも、工夫であり、不慣れなお父さんへの配慮です。

多くの家庭で、お父さんはお母さんよりも子供と接する時間が少ないでしょう。当然子供も、お母さんの方が好きになります。でも、そのままでは父と子の関係が深くならず、お父さんがお父さんらくなれません。

そこで、工夫しましょう。赤ちゃんの子育ては大変です。夫がぼんやりしていれば、妻のイライラは高まります。「あんたも、手伝ってよ!」と厳しく言いたくもなります。

でも、辛い辛い子育てを夫にも押し付けるのではなく、楽しい子育てを夫にも参加させてあげると考えた方が上手く行くかもしれません。

子供が幼い時期は短いものです。あっという間に大きくなってしまいます。妻のためにも、子供のためにも、夫自身のためにも、夫を上手に子育てに参加させましょう。

少し大きくなれば、たとえば、お父さんが体を使った遊びで子供と遊ぶ。お小遣いをお父さんから渡す。おもちゃ屋さんに行くときは、お父さんも一緒に行く。お父さんが、時々子供のためにお土産を買ってくる。お父さんはお風呂で遊んでくれる。こうなれば、子供はお父さんになつきます。

お父さんが帰ってくると、子供は大喜びで「おかえりー!!」と飛びついてきます。

苦労して赤ちゃんを育てる、子供がなつく、子供に愛され信頼され抱きつかれる。そんな体験が、お父さんをお父さんらしくさせていきます。

器用なお父さんなら、自分から子育てを行い、スムーズにお父さんらしくなっていけるでしょう。でも、不器用なお父さんもたくさんもいます。

お父さんが子供と過ごせる時間を増やす。子供との思い出をたくさん作る。そんな工夫で、どのお父さんも、きっと良いお父さんになれることでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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