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「看板枠」の春ドラマ、日曜劇場『集団左遷!! 』を振り返る

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

舞台は「三友銀行」

TBSにとっての「日曜劇場」は、ドラマ部門だけでなく、局としての文字通り“看板枠”の一つです。

春クールは、ご存じのように福山雅治主演『集団左遷!! 』でした。物語の舞台は、『半沢直樹』と同じく銀行。その名も「三友銀行」です。

確かに「三友銀行」は、江波戸哲夫さんの原作小説そのままのネーミングではありますが、なんだか「毎朝新聞」の銀行版みたいで(笑)。ちなみに、半沢がいたのは「東京中央銀行」でしたね。

そして、先日見てきた映画『新聞記者』(秀作です!)は、東京新聞の望月衣塑子記者の本を原作にしていますが、舞台は「東都新聞」でした。

「パターン」の第1章

以前もこのコラムで書きましたが、ドラマ『集団左遷!! 』で困ったのは、第1章と呼ばれる前半が、一向に盛り上がらなかったことです。振り返れば、その原因はストーリーにありました。

三友銀行本部が、効率化とリストラを目的に、12の支店の「廃店」を決めます。該当する支店の支店長たちが集められ、「何もするな」と命令が下りました。

しかし、蒲田支店長の片岡(福山雅治)だけは納得がいかず、責任者である横山常務(三上博史)から、「100億円の融資達成で廃店を見直す」という約束を取り付けます。

さあ、そこからは、片岡支店長と真山次長(香川照之)を中心に、行員たちがひたすら頑張ります。しかし、大口融資が決まりそうになると、それが詐欺だったり、横山から理不尽な横やりが入ったりで、なかなか数字が伸びません。

というか、前半の第1章は、ひたすら詐欺と横やりの繰り返しが続いたのです。つまりパターンであり、見る側も「どうせ問題が発生してうまくいかないんだろうな」と先読みが出来てしまう。そして飽きていきました。

「ダイナミズム」の第2章

後半の第2章に入って、廃店となった蒲田支店の行員たちは散り散りになり、片岡は銀行本部の融資部に異動しました。本部の実権は、専務に昇格した横山(三上)が完全に掌握しています。何しろ、銀行そのものの形態も中身も変えてしまおうという大胆なプランを、ほぼ独断で推し進めていくのです。

銀行が変わらなくてはならないことは、片岡も承知しています。ただ、その進め方が急進的なだけでなく、フェアでないこと、いや背景に不正行為があることが問題で、片岡と真山は、かつての蒲田支店の仲間たちの力を借りながら、その不正をただしていこうとします。目指すは、片岡の言う「正しい銀行」です。

自分の出世と銀行支配のためなら手段を選ばない横山の反撃は凄まじく、また片岡たちが信頼していた藤田頭取(市村正親)も裏切り者か? という展開なども盛り込まれ、第2章には「企業ドラマ」としてのダイナミズムがありました。最後、横山は政治家への賄賂で墓穴を掘ることになります。

ドラマ全体としては、暑苦しいほど熱演の福山さんと、いつも通り達者な香川さん、そして三上さんの怪演などで見応えはありました。

また、どこまでリアルかどうかはともかく、「銀行はいまだにこんなことをしているのか」と少々辟易(へきえき)する内容は、銀行志望の学生が減らないかと心配するほどでした。これもドラマが社会の「合わせ鏡」であることの表れです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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