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「自治体事業仕分けの実際」~1件2万円の電話問合せ?~(東京都府中市)

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

以下は、今年7月に行った事業仕分け(東京都府中市)で取り上げられた事業。まずはさらっと読んでほしい。

事業名:学校教育ネットワーク事業

<目的(事業シートそのまま)>

ネットワークによる情報の共有化することで、これからのネット社会に対して子どもたちが安全・安心に操作できるよう授業等でのさらなる活用促進やビジュアルを含め子どもたちにわかりやすく、興味を持つ授業展開に活用する。また、学校間や学校と教育委員会とのネットワークを密にして学校運営を円滑に進める。

<事業内容(事業シートそのまま)>

【ハード面】

・学校教育ネットワークを通して、情報モラル教育及び情報セキュリティー教育に関するソフトを各学校に配信し、児童・生徒の情報教育や教職員のICT研修に活用できるよう、ネットワーク環境の保守や維持を行う。

【ソフト面】

・児童・生徒に、ネット社会における安全な生活のための学習と健全な態度の育成を図るとともに、教職員や保護者の共通理解を進めるため、配信されたソフトを活用した授業や研修会を実施する。

・学校における情報セキュリティーを推進し、情報漏洩等のトラブルの防止を図るための研修を実施する。

・各学校でのホームページの作成、更新。

・学校への情報提供、連絡の電子化。

<事業費>

約5900万円

主な内訳:学校教育ネットワークシステム保守料 約3800万円/LAN回線使用料 約1900万円/プロバイダ料 約330万円

ここまででわかることは、目的や事業内容を見ると、子供たちの教育の質向上のためのネット活用にかかる事業のようにも感じるが、事業費内訳を見ると、システム保守料や、プロバイダなどの事務的経費がほぼすべて。

こういう事務的経費となると、業務に支障をきたさないよう安全に、かついかに低コストで運用できるかがポイントになる。

仕分けの議論の中心は、ネットワークシステム保守の3800万円について。

サーバーの管理や運用などの契約に関わったことのある人ならわかると思うが、3800万円は一般的にはとても高い。何か特別な機能がない限りは考えられない。

説明では、「普段のメールから、文書や成績管理、学習者情報データベースまで、学校でのあらゆる日常業務をネットワーク化することで紙の量を減らし効率化できる。そのために『学校基本情報管理システム』を構築」とのこと。

確かにうまく運用できればすごいことだ。しかし、すべて出来上がっているのかを聞いてみると、

「現在、ネットワークで運用しているのは学校スケジュール、施設予約、メール、学校日誌」。

え??

今のはフリーソフトもあふれているくらい簡単なものでは? なぜ、他の管理システムは入っていないのか?

答えは、「現在のところ、このネットワーク用のソフトが開発されていない」。

「・・・」

要するに、ハイスペックな器をオリジナルで作ったけれど、中に入れるものが実は少なくて、しかも市販のもので十分だった、ということになる。

さらに、この3800万円の使途は運用なので、主たる業務は電話サポート。1年間の問合せ数が1962件。単純計算すれば、1件当り2万円弱になる。それだけ高い電話問合せも聞いたことがない(他方で1日当たり7,8人がサポートセンターに問合せているというのも多く感じるが)。

このシステムは平成16年度に構築されたもの。構築費と運営費合わせて、今年度予算も含めると、約7億2000万円もかかっている。

私はコーディネーターをしており、何か言い分があるに違いない、実はそれ以外に別なコストも入っているはずだ、と思い担当者に促したが、それ以上のものはなかった。

市民も仕分け人に加わっての議論の中で、結論は「抜本的見直し」。この結論は、来年度の凍結も含めて、ゼロベースでの見直しを意味する。

府中市は競艇場を有し、その売上げもあってこれまでは非常に裕福な自治体だった。しかし、当然のことながら売上げは減少してきており、それに伴って税収も減少している。

ある意味で、府中市は恵まれていたと言える。ただし、これからはより大変になるだろう。一度上げた生活水準を下げるのは困難なことは自治体も同様。

「あれもこれも」から「あれかこれか」へと行政、市民全員の意識変革が必須と言える。

ちなみに、府中市は3年連続の仕分け実施。まだまだ全体的な危機意識は足りないと率直に感じるが、「何かしなければダメ」という感覚が仕分けの議論から伝わってきたのも事実。

何よりも、社長たる高野市長は2日間、かなりの時間傍聴され、じっくり議論を聞いていた。そして最後の挨拶では、これまでの市長挨拶の中でも、トップランクに入るくらいの力の入ったものだった。

今後の府中市に期待したい。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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