アトピー性皮膚炎の症状改善に役立つ天然化合物 - 最新の研究動向
【アトピー性皮膚炎と酸化ストレスの関係】
アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患です。遺伝的素因や環境因子など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。古くから、アトピー性皮膚炎の病態に酸化ストレスが深く関与していることが報告されています。
酸化ストレスとは、活性酸素種(ROS)の産生と抗酸化機構のバランスが崩れた状態を指します。大気汚染や感染、精神的ストレスなどが引き金となり、皮膚では炎症性サイトカインの過剰産生や、バリア機能の破綻を招きます。アトピー性皮膚炎患者の皮膚では、健常人と比べて酸化ストレスマーカーが高値を示す報告もあります。
【アトピー性皮膚炎に伴う心理的ストレス】
アトピー性皮膚炎は、痒みや不眠、見た目への悩みから、患者のQOL(生活の質)を大きく損ないます。それにより、うつ病や不安障害、失感情症(感情を認識・表現することが難しい状態)など、心理的な問題を併発するリスクが高くなります。
心理的ストレスは、皮膚バリアの機能低下や炎症の悪化につながるため、アトピー性皮膚炎の症状をさらに悪化させる悪循環を生じます。ストレス管理も含めた多角的なアプローチが、アトピー性皮膚炎の治療において重要だといえるでしょう。
【天然化合物によるアトピー性皮膚炎の治療可能性】
ステロイド外用薬や免疫抑制剤などの従来治療に加え、天然由来の抗酸化物質を活用する試みが注目されています。フラボノイド、アルカロイド、テルペノイド、イソチオシアネートなどの化合物は、炎症の抑制と酸化ストレスの軽減により、アトピー性皮膚炎の症状改善に寄与する可能性があります。
たとえば、コーヒーに含まれるクロロゲン酸やカフェ酸は、皮膚の酸化ストレスを和らげ、抗酸化酵素の発現を高める効果が示されています。オウゴンから抽出されるフラボノイドであるウォゴニンは、抗炎症作用を発揮します。これらの天然化合物を従来治療と組み合わせることで、ステロイド外用薬の使用を減らせる可能性も期待できます。
さらに興味深いことに、クロロゲン酸やケルセチンなどの一部の化合物は、抗うつ作用や抗不安作用も有することが示唆されています。アトピー性皮膚炎に伴う心理的な問題に対しても、効果が期待できるかもしれません。
しかし一方で、コーヒーに含まれるニッケルなどの金属がアトピー性皮膚炎を悪化させることもあり、患者さんそれぞれに合わせた対応が必要です。
アトピー性皮膚炎は、多くの患者さんを悩ませる難治性の皮膚疾患ですが、酸化ストレスや心理的ストレスに着目した新しい治療戦略が開発されつつあります。天然化合物のもつ抗酸化・抗炎症効果は、アトピー性皮膚炎の症状管理や、QOL改善に役立つ可能性を秘めています。
参考文献:
- Bertino, L., Guarneri, F., Cannavò, S.P., Casciaro, M., Pioggia, G., & Gangemi, S. (2020). Oxidative Stress and Atopic Dermatitis. Antioxidants, 9(3), 196. https://doi.org/10.3390/antiox9030196
- Chang, Q.-X., Lyu, J.-L., Wu, P.-Y., Wen, K.-C., Chang, C.-C., & Chiang, H.-M. (2023). Coffea arabica Extract Attenuates Atopic Dermatitis-like Skin Lesions by Regulating NLRP3 Inflammasome Expression and Skin Barrier Functions. International Journal of Molecular Sciences, 24(12), 12367. https://doi.org/10.3390/ijms24212367
- Int J Mol Sci . 2024 May 4;25(9):5020. doi: 10.3390/ijms25095020.