アマゾンがゲーム本格進出、初の大作公開で13.4兆円市場に挑戦
米アマゾン・ドット・コムは先ごろ、パソコン用ゲーム「クルーシブル(Crucible)」を公開した。これはウィンドウズ向けの対戦型シューティングゲーム。無料でダウンロード配信し、アイテムなどの課金で収益を得る形をとるという。
今年の世界ビデオゲーム市場1200億ドル規模に
同社がビデオゲーム開発部門「アマゾン・ゲーム・スタジオ」を設置したのは2012年。米経済ニュースのCNBCによると、今回のクルーシブルは、同部門が初めて巨額を投じて開発したゲーム。
ただ、ゲームはこれまでアマゾンの事業の基盤となるものではなかった。
同社は2014年にゲームプレイのネット実況を手がける米ツイッチ・インタラクティブを約9億7000万ドル(約1040億円)で買収した。当時のアマゾンとして最大規模の買収だったが、それ以降、同社はこの分野で目立った動きを見せていなかったという。
昨年6月には、このゲーム開発部門がリストラを実施したと伝えられた。同社はかつて、大型ゲーム3作品を開発していると明らかにしたが、うち1つは開発を中止した。また、同部門は著名ゲームデザイナーを2人雇ったが、いずれも2018年に退社したと伝えられた。
しかし、今回のCNBCの報道によると、米証券会社ウェドブッシュのアナリスト、マイケル・パッチャー氏は、アマゾンがかつて書籍や音楽CDのネット販売で事業を成功させたように、ゲーム配信市場に本格進出するのではないかと指摘している。
米調査会社ニールセンのゲーム調査部門スーパーデータによると、世界のビデオゲーム市場は今年1248億ドル(約13兆4000億円)規模となる見通し。このクルーシブルというゲームはアマゾンの目標達成のための第一歩と考えられるという。
狙いはプライム会員拡大?
もし、アマゾンがゲームコンテンツを本格展開するのであれば、おそらく有料会員サービス「プライム」と連携させるのだろうと、CNBCは伝えている。
これまでの経緯を振り返ると、動画配信や音楽配信、電子書籍といったアマゾンのコンテンツ戦略は、プライム会員の拡大を目的として展開されてきたからだ。
アマゾンは昨年10〜12月期の決算発表で、四半期中のプライムの新規加入者数が過去最高となり、会員数は計1億5000万人を超えたと明らかにした。
米調査会社のCIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)によると、昨年12月末時点の米国のプライム会員数は1億1200万人。
会員の1人当たりのアマゾンにおける支出額は年間1400ドル(約15万円)で、非会員の2.3倍。同社はコンテンツの特典などを通じて、会員数を増やし、売り上げ増につなげている。
アップルやグーグル、フェイスブックなどがひしめき合う市場
ただ、この市場には多くのライバルが参入しており、競争が激化している。例えば、米アップルは昨年9月に定額制ゲーム配信サービス「Apple Arcade」を開始。
先ごろは、ゲームなどのサービスを新たにアフリカや欧州、中東、アジア太平洋地域などの20カ国で提供すると明らかにした。
米グーグルは昨年11月にゲームのストリーミング配信「スタディア(Stadia)」を開始。同社は同12月にカナダ・モントリオールのゲーム開発会社、タイフーンスタジオを買収した。
タイフーンスタジオは、グーグルのスタディア開発部門がモントリオールに設置した制作スタジオに加わった。
米フェイスブックも有名開発会社2社を買収し、バーチャルリアリティー(VR)ゲームの市場で地歩を固めていると、CNBCは伝えている。
- (このコラムは「JBpress」2020年5月22日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて再編集したものです)