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皮膚症状にも要注意!ロング・コビットの見落とされがちな症状と対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【ロング・コビットの定義と実態】

ロング・コビットとは、COVID-19の急性期症状が回復した後も、長期にわたって症状が持続する状態を指します。国立医療技術評価機構(NICE)の2021年のガイドラインでは、COVID-19感染後4週間以上続く症状をロング・コビットと定義しています。この定義は、医療従事者だけでなく、一般の方にもわかりやすい基準となっています。

しかし、最新の研究で、ロング・コビットを自覚している患者の多くが、電子カルテ上でロング・コビットと診断されていないことが明らかになりました。英国の10の長期追跡調査の参加者6405人のデータを分析したところ、896人(14%)がロング・コビットの症状を自覚していたにもかかわらず、そのうちの48人(5.4%)しか電子カルテ上でロング・コビットと診断されていなかったのです。この結果は、ロング・コビット患者の多くが適切な医療を受けられていない可能性を示唆しています。

電子カルテ上の診断率が低い理由としては、ロング・コビットの症状が多岐にわたり、医療従事者がロング・コビットと認識していない場合があることが考えられます。また、患者さん自身が症状をロング・コビットと結びつけていない、あるいは医療機関を受診していないケースもあるでしょう。ロング・コビット患者の実態を正確に把握するには、電子カルテデータと患者報告の両方を組み合わせた調査が不可欠です。

【診断率の違いと見過ごされている皮膚症状】

さらに、ロング・コビットの診断率は年齢や人種によって異なることもわかりました。中年層(平均45.8歳)では診断率が高い一方、若年層(平均25.2歳)と高齢層(平均63.4歳)では低くなっています。この違いは、各年代の医療アクセスの差や、ロング・コビットの症状の現れ方が年齢によって異なることが影響しているのかもしれません。

ロング・コビットの症状は多岐にわたりますが、皮膚症状も見過ごされがちな症状の一つです。COVID-19感染後、皮疹や脱毛などの皮膚トラブルを経験する患者さんは少なくありません。皮膚は身体の中で最も大きな臓器であり、ウイルス感染の影響を受けやすいと考えられています。また、皮膚症状は患者さんの外見に直接影響するため、QOLの低下にもつながります。

ロング・コビットの皮膚症状は、患者さんのQOLを大きく低下させる可能性があるため、積極的に皮膚科を受診することをおすすめします。

【ロング・コビットへの対策と今後の課題】

ロング・コビットの診断率を上げるためには、私たち医療従事者がロング・コビットの多様な症状を理解し、適切な診断名を付けることが重要です。そのためには、ロング・コビットに関する最新の知見を医療従事者に広く周知する必要があります。また、電子カルテシステムにロング・コビットの診断名を登録し、簡単に選択できるようにすることも有効かと思います。

患者さん自身も、ロング・コビットの症状を正しく理解し、適切な医療機関を受診することが大切です。ロング・コビットの症状は時間とともに変化することがあるため、症状の変化に敏感になり、必要に応じて医療機関を再受診することをおすすめします。また、ロング・コビットの症状は日常生活に大きな影響を与えるため、家族や周囲の人の理解と支援を得ることも重要です。

日本でもロング・コビットに悩む患者さんは多いと考えられます。英国の事例を参考に、日本でもロング・コビットの実態把握と対策の強化が求められます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

1. ロング・コビットに関する全国調査の実施

2. ロング・コビット専門外来の設置と拡充

3. ロング・コビットの診断・治療ガイドラインの作成

4. ロング・コビット患者さんの就労支援と社会的理解の促進

ロング・コビットの研究には、電子カルテデータと長期追跡調査データの両方を活用し、患者さんの声に耳を傾けることが欠かせません。また、ロング・コビットは世界的な課題であり、各国の研究者や医療従事者が協力して取り組むことが重要です。日本も国際的な研究ネットワークに積極的に参加し、ロング・コビット対策のエビデンスを蓄積していくことが期待されます。

ロング・コビットは、COVID-19パンデミックがもたらした新たな課題ですが、患者さんと医療従事者、そして社会全体が協力して乗り越えていくことが必要です。一人一人が自分にできることを考え、行動に移すことが、ロング・コビットを克服する第一歩となるでしょう。

参考文献:

- Knuppel A et al. The long COVID evidence gap in England. Lancet. 2024 May 7. doi: 10.1016/S0140-6736(24)00744-X.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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