Yahoo!ニュース

女子ゴルフの朴セリ、現役最後が“最下位”でも感動フィナーレで終わった理由

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
引退式後、後輩たちと記念撮影する朴セリ(写真提供:KLPGA)

本日から始まる日本女子ゴルフツアーの「富士通レディース」。目下、賞金ランキング1位のイ・ボミはオープンウィークとして韓国に戻っているため出場しないのは残念だが、その韓国では昨日から「KEBハナバンク選手権」が開催されている。

同大会は全米女子ゴルフツアーのアジアツアーのひとつで、2002年から韓国で開催されている。初代王者は朴セリだ。

朴セリといえば、1998年にいきなり「全米女子オープン」と「全米プロゴルフ選手権」を制して韓国に空前のゴルフ・ブームを巻き起こした人物。現在、アメリカ、日本、韓国には彼女の影響でゴルフを始めた選手が多く、イ・ボミ、申ジエ、チェ・ナヨンなど“朴セリ・キッズ”であることを公言する女子プロたちは多い。

“韓国女子ゴルフ界のセクシークイーン”とされるアン・シネも朴セリに多大な影響を受けたという。

韓国メディアの取材で「朴セリプロがLPGAツアーに進出したことで韓国女子ゴルフは大きな人気を得た。私も“朴セリ・キッズ”のひとり」と語っているだけでなく、自身のSNSで朴セリとの2ショットも公開している。

以前、インタビューしたとき、「宇多田ヒカルが大好き」と聞いて「今どきの子だな」とも思ったが、アン・シネにとっても朴セリは憧れの人物なのだ。

(参考記事:イ・ボミ、キム・ハヌルに続け!! 韓国美女ゴルファー、アン・シネ独占インタビュー

そんな朴セリが現役引退を表明したのは今年3月。その後はリオデジャネイロ五輪で韓国女子ゴルフ代表の監督を務めたり、最近は国民体育祭典(韓国の国体のようなもの)で聖火点灯者を務めたりしていたが、昨日の「KEBハナバンク選手権」初日がプロゴルファーとして最後のラウンドとなった。

成績は8オーバー76位タイ。最後のラウンドが最下位という形に終わったが(棄権)、ラウンド前は「100打以内で収めるのが目標」と語っていただけに悔し涙はなかった。むしろ最終18番ホールは涙が止まらなかったという。

そして迎えた引退式。父パク・ジュンチョルさんと抱擁すると、韓国女子ゴルフ界の“生きる伝説”は人目もはばからず号泣した。

韓国女子ゴルフの強さの影には“ゴルフ・ダディ”の存在があるとよく言われるが、パク・ジュンチョルさんはその元祖だ。1998年に一度、韓国の大田市まで赴いてパク・ジュンチョルさんを取材したことがあるが、ギラギラとエネルギッシュで娘のためにすべてを捧げてきたというオーラに圧倒されたものだった。

(参考記事:仕事も財産も投げ打って娘に賭ける韓国“ゴルフ・ダディ”たちの実情

ただ、そのパク・ジュンチョルも年を取った。引退式に登場した少し老けたパク・ジュンチョルの姿を写真で見たとき、「あれから20年近くの歳月が過ぎたのか」と感慨深くなった。

もっとも、その20年の間に韓国女子ゴルフは驚異的な飛躍を遂げている。

今回の「KEBハナバンク選手権」にも、朴セリ監督のもとリオ五輪を戦ったチョン・インジ、キム・セヨン、エイミー・ヤンなど“ファンタステック・フォー”が顔を揃えたし、チェ・ナヨン、ジャン・ハナ、ユ・ソヨン、キム・ヒュージョといったアメリカツアー組はもちろん、パク・ソンヒョン、コ・ジニョンなど伸び盛りでアメリカ進出も秒読みと言われる韓国国内の若手たちが多数出場している。

そんな後輩たちに囲まれて引退した朴セリ。引退式にはなんと、韓国人初のメジャーリーガーでもあるパク・チャンホも駆け付けているのだ。

2人は故郷が同じで、同じ時期にアメリカで活躍したこともあって、義理の兄弟の契りを交わした仲。パク・チャンホも現在は引退し、多方面で活躍しているが、4歳年下の朴セリにこんな言葉を送ったという。

(参考記事:韓国人メジャーリーガーの先駆者パク・チャンホは今、どこで何をしているのか

「俺とお前はナム(木)だ。ヨルメ(実)になったことはない。ただ、ナムが育って実ができるように、今では多くの後輩たちが実になってそれぞれ頑張っている」

そうなのだ。韓国ではパク・チャンホの登場によってメジャーリーガーが増え、朴セリの出現によって前出した通り、多くの子供たちがゴルフを始め、立派なプロゴルファーに育っている。偉大な先駆者たちが切り開いてきた道を後輩たちが続いているのだから、朴セリにとってはこれほど喜ばしいことはないだろう。

韓国女子ゴルフを大きく飛躍させ、後輩たちの道標として20年近く走り続けてきた朴セリ。「ゴルフ選手・朴セリではなく、指導者としてゴルフ発展のために努力する人間になりたい」という “生きる伝説”の第二の人生にも、幸多かんことを願うばかりだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事