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3.11の経験と防災情報を活かす:フールプルーフ、フェイルセーフ(愚かでも失敗しても大丈夫なように)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
防災訓練の様子(写真:ロイター/アフロ)

繰り返される標語や、訓練から、どんなときでも適切な行動がとれる態度が生まれます。いろんな人がいても、防災文化が作られれば、みんなが正しい行動をとりやすくなります。

■東日本大震災から5年

3月11日は、特別な日です。特に5年目の今年は、各地で様々な式典、行事が行われ、防災訓練も行われます。メディアでは、多くの震災関係のニュースが流れています。

Yahoo!JAPNも、「あなたと家族を守る、もしもの時の行動や備え」を公開し、防災情報を提供しています。

地震の時は、あわてて外に出ない、揺れが収まったら火を消す、ブレーカーを切ってから逃げる、自動車から離れるときはキーをつけたままにするなど、地震、津波、大風などが来たときの役立つ情報があります。

ネットもテレビも、役立つ情報満載なのですが、さてとっさの時に、実際にできるでしょうか。覚えなくはならないことが、たくさんありあます。

■防災の基本:フールプルーフ、フェイルセーフ

災害心理学の原則です。フールプルーフfool-proof(愚か者でもできるように)、フェイルセーフfail-safe(失敗してもだいじょうぶなように)。

「愚か者でも」というのは、頭が悪い人という意味ではありません。災害発生時には、ほとんどの人が「愚か」になってしまうのです。そんな状態でもできるように、という意味です。

難しい避難機器の操作など、あわてている時にはできなくなります。また1回の失敗で全てがだめになるようなものでも困ります。機械の操作も、避難行動も、シンプルにしておく必要があります。

■避難訓練の意味、キャッチフレーズ:「馬鹿の一つおぼえ」でも。

避難訓練に対して、毎年こんなことしても何の意味があるのかと考える人がいます。しかし、違います。地震が来たら、机の下に隠れる。この避難行動の練習を、毎年毎年繰り返すことで、実際の地震のときにも机の下にもぐれます。ただ地震の話を聞いて講義を受けただけではできないのです。

「地震だ、火を消せ!」の標語も、かなり国民に浸透しました。これは、関東大震災からの教訓でしょう。昭和時代の我が家には、町内会で配られた「地震だ、火を消せ!」と赤い字で書いてある紙が張ってありました。耳にたこができるほど聞いて、毎日その言葉を見ていて、はじめてとっさのときに行動がとれます。

ただし、現在では多くの火を使う機器が地震発生時に自動消化するようになっています。また、揺れているときに無理に火を消そうとしてけがをする事例もあります。そこで今では、「揺れが収まったら火を消す」に代わりました。

津波てんでんこ」も、昔から伝わる言葉を使った非難訓練です。災害社会工学者の片田敏孝先生を中心に8年間にわたる教育が行われたおおかげで、岩手県釜石市内の小中学校では、全児童・生徒計約3千人うち生存率99・8%という「釜石の奇跡」が達成されました。

たとえば災害心理学の実験で、ビルの中にいる人に「地震が発生しました。避難してください」と言うと、エレベーターに向かってしまう人が多くいます。いつもエレベーターを使っている人は、階段ではなく、エレベーターの方向に向かってしまうのです。

ブレーカーを落とすのも、車のキーをつけたままにしておくことも、繰り返し繰り返し聞き、訓練を重ねることで、少しずつ身につくことでしょう。

■わかっていたことなのに

地震のへ警鐘は、ずっと以前から、常に鳴らされ続けてきました。また災害心理学の本を読めば、大災害発生後には、支援物資やボランティアが殺到し混乱すると以前から書いてありました。しかし1995年の阪神淡路大震災のときには、そのとおり混乱が発生しました。事前の対策はなされていませんでした。

この災害心理学の出版社の人から聞いたのですが、阪神淡路大震災の後、各地に自治体に本の宣伝をしたそうです。けれども、大して売れなかったと言っていました。震災が起きても、なかなか人も行政も変わろうとはしません。

東日本大震災のあとに、その前から出ていた本で読んだことです。その本には、タバコのパッケージに「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」と警告表示があるように、かつて津波被害があった場所には、「ここは津波被害のあった場所です(この場所まで高い津波が押し寄せたことがあります)」と警告表示を出せというすすめが書いてありました。

専門家達はわかっていたのです。地震や津波がいつ来るかはわかりませんが、防災のための情報を出していたのです。もしも東日本大震災の前に、このような津波警告表示が各地に張ってあったら、一人でも二人でも命が救われいたでしょう。

わかっていても、伝わっていなければ、知ろうとしなければ、意味がありません(伝え方が不器用な専門家側も問題もあるでしょう)。

新潟県では、2004年に中越地震が発生しました。そのわずか3年後2007年には、中越沖地震が発生しました。ある関係者は言っていました。「まさか、こんなに早く次が来るとは思っていなかった」。そしてさらに2011年3月12日東日本大震災の翌日に、新潟県と長野県の県境で「長野県北部地震」が発生しました。

地震のたびにビルや高速道路は強くなります。阪神淡路大震災が発生せずに新潟県中越地震が発生していたら、高速道路や新幹線は、もっとひどい被害を受けていただろうと言われています。

災害によって、法律が変わったり、建物が変わったりはします。しかし人の心と行動は、なかなか変わりません。

■3.11から防災文化を作ろう

個人の行動が変わるために、全体が変わる必要があります。

災害の記憶、3.11の記憶が、行事やモニュメントや震災遺構、標語や歌や訓練によって「社会の記憶」となり、そうして私達の思いと行動が少しずつ変わっていきます。こうして防災文化が作り上げられ、言葉や行動が定着すれば、様々な防災情報も実際に役立てることができるのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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