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3.11死別の悲しみとサバイバーズギルドの癒し:東日本大震災から5年目の日の「津波てんでんこ」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
震災からまもなく5年 陸前高田市 奇跡の一本松(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

■死別の悲しみとサバイバーズギルド

死の悲しみは、どうしようもありません。死別の悲しみを乗り越えるためには、しっかり悲しむことしかありません。

災害時の心のケア:喪の作業:東日本大震災でご家族ご友人を亡くされた方々へ2011.3.15>

それでも5年の歳月が経てば、普通の死別なら徐々に癒されていくものです。けれども、事件事故や大災害での死別は、なかなか癒されません。

死別の悲しみに加えて、生き残った人間としての苦しみがあります。

被災地に行くと、九死に一生を得たという話は頻繁に聞きます。誰かを助けた助けられた話もたくさん聞きます。初対面の方から、死別の話をお聞きすることもありますが、でも、助けられなかった苦しみは、簡単には聞けません。

それだけ、苦しみが大きいのでしょう。握っていた家族の手が離れてしまった、高台に逃げるとき何人もの人を追い越した。そんな話を、簡単にできるわけがありません。

家族であれ、通りすがりの人であれ、なぜ助けられなかったのかという苦しみ。あるいは、なぜこの場所に住み、なぜ壊れてしまうような家を作ったのかという思い。生き残った人々の心の苦しみ。それが「サバイバーズギルド」です。

家族親戚を何人も亡くした方が、テレビのインタビューで親族の集合写真を見せながら語っていました。「家族親戚みんなで行った旅行の写真です。こんな風にはしゃいでいたから、バチが当たったのでしょうか」。

冷静なときには思いもしない考えです。でも、3.11東日本大震災の時のような大災害時には、生き残った苦しみで心が潰されそうになることがあります。

一緒に死んであげられなかったことを後悔している人がいます。手を離してしまったことを悔やみ続け、「私も死ねばよかった」と語る人がいます。

助けられなかった人のことを思い、悔やみ続け「私は生きていて良いのか」と問う人がいます。大勢の人を助けたのに、「何人助けても一人殺したら同じだ」と語る人もいます。

被災地の医療や福祉現場で、全員を助けることはできなかったと、自分を責め続けている人がいます。自分の作った防災マップが不十分だと、後悔し続けている役所の職員がいます。

■「津波てんでんこ」

津波てんでんこは、三陸地方に伝わる古い教えです。津波のときには、家族を探しにも戻ったりせず、各自てんでんに逃げるのだという教えです。古くからの教えですが、さらに多くの関係者の努力によって、この言葉が防災に役立てられました。

今回の東日本大震災でも、津波てんでんこの言葉とともに避難訓練を繰り返した子どもたちがみんな助かった「釜石の奇跡」と呼ばれる成果を上げています。

しかし、津波てんでんこは、ただ自分勝手に逃げろという教えではありません。津波てんでんこは、誰かの指示を待つことなく各自がしっかり判断して逃げなさい、そして目の前の助けられる人は助けなさいという教えです。

■「津波てんでんこ」4つの意味

京都大学防災研究所の矢守克也先生(社会心理学・防災教育学)は、津波てんでんこの意味を4つに分けています。

  1. 自助原則の強調(「自分の命は自分で守る」):凄まじい速さで襲う津波で家族共倒れになる悲劇を防げます。
  2. 他者避難の促進(「我がためのみにあらず」):自分の命を救うことは人の命を救うことにつながります。あなたに声をかけられて逃げる人、あなたの逃げる姿を見て逃げる人がいます。「釜石の奇跡」でも、中学生が小学生を助けて一緒に避難しています。
  3. 相互信頼の事前醸成(事前の準備):普段から災害発生時の話題を出し、どう行動すべきか、どこへ逃げるのかが話し合えます。家族同僚友人が、相手はきっと自発的に逃げていると信頼することで、全員の命が助かる可能性が高まります。
  4. 生存者の自責感の低減(亡くなった人からのメッセージ):大津波の時には、助け合うことと同時に各自で逃げようとと考えることが正しいのだと知ることで、生き残った人の自責の年を癒すことができます。

■津波てんでんことサバイバーズギルドの癒し

津波被災地でお聞きした話です。大きな被害が出た場所ですが、海岸べりに立っていたビルで働いたいた人は、上の階に逃げてみんな助かりました。ところが、一人の人が、地震後に「家族が心配だから見てくる」と、みんなが止めるのも聞かず自転車で出かけました。彼は、そのまま戻ることはありませんでした。

家族を心配する気持ちは当然です。でも、津波でんでんこの教えは大切です。

大切な人を亡くしたとしても、亡くなったあの人も「津波てんでんこ」だと言っていなと思えることが、癒しにつながります。亡くなった方は、「逃げてよかったんだよ」とメッセージを送っています。

津波てんでんこは、家族の問題だけではありません。その地域で、その街で、その職場で、各自が一生懸命努力したなら、それで良いと感じられる教えです。何人もの人を助けた人も、自分が逃げるだけで精一杯だった人も、各自が自分のできる最大の努力をしました。

ただどんな考え方をしても、助けられなかった思いは、ずっと続くかもしれません。それでも、心は少しずつ癒されます。心は、少しずつ前を向いていきます。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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