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アトピー性皮膚炎治療の進化とSNSから見える患者の声-ビッグデータ解析が明らかにした治療満足度-

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎治療の革新的進展】

アトピー性皮膚炎の治療は、ここ数年で劇的な進歩を遂げています。

2017年3月28日、米国食品医薬品局(FDA)は、アトピー性皮膚炎に対する初めての生物学的製剤としてデュピクセント(一般名:デュピルマブ)を承認しました。

これは、アトピー性皮膚炎治療における歴史的な転換点となりました。

さらに2022年1月14日には、経口薬として初めてヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬であるリンヴォック(一般名:ウパダシチニブ)とサイバインコ(一般名:アブロシチニブ)が承認されました。

これらの新薬は、従来の治療法では十分な効果が得られなかった患者さんに、新たな希望をもたらしています。

【SNSビッグデータが示す患者の声の変化】

研究チームは、世界最大級のSNSプラットフォームであるRedditに注目しました。

Redditには、アトピー性皮膚炎に関する複数のコミュニティ(サブレディット)があり、合計で約10万8千人のメンバーが参加しています。

分析対象となったのは、2005年6月から2023年12月までの投稿で、総数は573,788件に及びます。

これらの投稿は、人工知能を用いて以下の3つの期間に分類されました:

- 生物学的製剤導入前(プレバイオロジック期)

- デュピクセント導入後からJAK阻害薬導入前(バイオロジック期)

- JAK阻害薬導入後(ポストJAK期)

感情分析の結果、興味深い傾向が明らかになりました:

バイオロジック期の投稿は、プレバイオロジック期と比較して、明らかにポジティブな内容が増加しました。

さらに、ポストJAK期の投稿は、それ以前の期間と比較して、最も前向きな傾向を示しています。

【具体的な患者の声と今後の課題】

最も頻繁に議論された上位5つのトピックは以下の通りです:

1. ステロイド薬の減量方法について(2,747件)

- 減量のタイミングや方法

- リバウンドへの不安

- 副作用への懸念

2. デュピクセント治療への期待(2,558件)

- 治療開始前の期待感

- 実際の使用経験

- 効果の実感

3. 顔面のアトピー性皮膚炎へのデュピクセントの効果(1,004件)

- 症状改善の報告

- 使用方法の相談

- 副作用の懸念

4. 眼の症状について(540件)

- 結膜炎の発症

- 目薬の使用経験

- 眼科受診の必要性

5. 治療費用に関する相談(382件)

- 保険適用の範囲

- 自己負担額

- 助成制度の利用

最も肯定的な反応があったのは:

- デュピクセント使用後の肌の改善(平均感情スコア:0.332)

- 注射に関する相互サポート(平均感情スコア:0.270)

- 治療開始への期待(平均感情スコア:0.181)

このビッグデータ分析から、新規治療薬の導入が患者さんの治療満足度を着実に向上させていることが分かります。一方で、副作用や治療費用に関する懸念も依然として存在しており、医療提供者側はこれらの声にも十分な配慮が必要です。

本研究には、以下のような限界があることも指摘されています:

- Reddit利用者の年齢層や特性による偏り

- 投稿時点での一時的な感情の影響

- JAK阻害薬に関する投稿数が比較的少ない(全体の6.63%)

しかし、57万件以上という大規模なデータ分析により、これらの限界を補って余りある示唆が得られたと考えられます。

参考文献:

1. Yang AK, et al. Changes in patient sentiment on Reddit through periods of atopic dermatitis treatment. Clinical and Experimental Dermatology. 2024.

2. Tampa M, et al. A New Horizon for Atopic Dermatitis Treatments: JAK Inhibitors. J Pers Med. 2023;13(3).

3. Gao Q, et al. Efficacy and safety of abrocitinib and upadacitinib versus dupilumab in adults with moderate-to-severe atopic dermatitis: A systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2023;9(6):e16704.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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