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ブッフォンのようなストーリーを自分自身で作る。サウジ戦で躍動した長友佑都が、試合前に語ったある決意

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

日本代表はホームでサウジアラビアに勝利。その後、ライバルのオーストラリアがアウェーでオマーンと引き分けたため、日本との勝ち点差は3になり、予選突破に大きく前進しました。

この試合のMOMは何と言っても1得点1アシストの伊東純也ですが、吉田麻也と冨安健洋の不在を見事に埋めて無失点勝利に貢献した板倉滉と谷口彰悟、守備の強度を高めながらチャンスの起点にもなった遠藤航、守田英正、田中碧の3ハーフ、冷静なフィニッシュで先制点をあげた南野拓実など、多くの選手が力を結集して手繰り寄せた勝利と言えます。

その中で試合前の約束通り、左サイドバックから攻守に躍動的なプレーを見せた長友佑都の奮闘も見逃せません。特に相手のキーマンであるアル・ムワラドを封じ込んで、サウジアラビアの右サイドからの攻撃を無力化させた守備はA代表デビューとなったコートジボワール戦で、エブエを封じた時を思い出しました。

そのことを長友に伝えると「僕の原点に帰らせてくれたのはあります。精神的な部分で。目の前の相手に負けないとか、魂こめてプレーすることを心がけましたし。ただ、いろんなことを経験するなかで、自分のなかで慢心もあったのかな」と語りました。

「ここまで色んな経験をしてきて、慢心があったのかなって思うんです。一回みなさんに叩かれて、たくさんの批判をいただいてもう一回、自分の魂に火をつけてもらったなって本当に思っていますね。なので今日は本当に20代の頃のようなフィジカルのコンディションでしたし、体も動けましたし。やっぱりこれをベースにしないと僕がW杯ではチームを勝利に導けないし、ということを思いました」

筆者スクリーンショット
筆者スクリーンショット

そうした攻守の奮闘に加えて、ちょっとラッキーな形で付いたアシストに「本当はあれ、狙ってないんですけど、狙ったっていうことに今日はしておいてもらっていいですか」と言いながらゴールを決めた伊東純也に感謝した長友。全てのプレーが完璧だったわけではなく、クロスの精度や自陣での危ないミスパスもありましたが、本当に彼の原点に帰ったようなエネルギッシュなプレーは感動的でした。

「たくさんの批判をいただいたので、皆さんの批判が僕の心に火をつけてくれたなと。改めて批判は自分にとってガソリンで、必要なものだと感じましたね、追い込まれれば追い込まれるほど、逆境になれば、そっちのほうは力を発揮できるっていうところで。ただ、たくさん批判をもらってこのままだと燃えてしまうので、今日だけでいいので、賞賛という名の栄養だったり、水がほしいなと思います」

そう振り返った長友ですが、筆者は中国戦では単純なパフォーマンスの問題だけでなく、戦術的な課題があったという見解を持っていました。それでも左側のお膳立てがあって、右側の伊東純也と酒井宏樹のラインが生きやすくなっていたと長友に伝えると「優しいですね。その優しさは沁みますね(笑)」と前置きして、こんな回答を返されました。

「サッカーは個人だけではできないので、チームの流れや連動があってこそ。ザックジャパンの時もウッチー(内田篤人)がバランスを取ってくれて、僕が上がることができたのはありますけど、今の(酒井)宏樹だって、めちゃめちゃいい仕事しているし、右サイドは絶対に破られない、チャンスを作らせない仕事をしている」

「だから、そこは変わらないんですよね、右サイドが泥臭くやってくれているっていうのが。さっきも言いましたけど、僕なんですよね。僕がもっと躍動できて、もっと動ければ、正直、こういうことにはならないので。僕はすべて自分だなって受け止めている」

「ただ、ザックジャパンのときは(香川)真司が前にいたり、トップ下に(本田)圭佑がいたり連動もできていました。圭佑に入った時にキープをしてくれる信頼もあったりで、僕もガンガン行っていて。そうした連動性や信頼関係が、もっと左サイドで作ってというのをやっていきたい。ただ、僕ですよ。長友佑都ですよ、やっぱり」

筆者撮影
筆者撮影

チームの機能性や役割というのは間違いなく存在する。しかし、長友は自分に矢印を向けて、シンプルに攻守のパフォーマンスを上げることで、批判をある種のエネルギーにして行く心構えというものを感じました。そんな長友に「年齢が高めの選手はすぐ衰えたと言われがちですが、かつてブッフォン(元イタリア代表の守護神)が一度そう言われたところから、その後の大活躍でイタリア国民の掌を返えさせた」と伝えました。

「そのストーリーを自分自身で作れるように。それが本当に意味で感動させられる部分だと思うので、がんばります」

サウジアラビア戦ではその言葉に相応しいパフォーマンスで勝利に貢献した長友ですが、まだアウェーのオーストラリア戦が残っています。「やっぱりW杯で戦いたい。自分の夢は変わらない」としみじみ語った情熱のサイドバックは36歳で迎える4度目のワールドカップで躍動するために、Jリーグから挑戦を続けていきます。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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