米テクノロジー企業の株価を高騰させた「ナスダックのクジラ」はソフトバンクGだった 英米経済紙が報道
テスラの株価は6.9倍に
[ロンドン発]米テクノロジー企業の株価を高騰させた「ナスダック(世界最大の新興企業向け株式市場)のクジラ」の正体は孫正義会長率いるソフトバンクグループだったと英経済紙フィナンシャルタイムズ電子版が9月4日報じました。
米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは「ソフトバンクGは今春、アマゾン・ドット・コムやマイクロソフト、ネットフリックス、テスラの株式40億ドル(約4200億円)近くを取得した」と報じました。
このほか開示されていない巨額のオプション取引もあるそうです。ソフトバンクGは両紙にコメントしていません。この報道が本当ならソフトバンクGは「投資会社というより投機的なヘッジファンドと何ら変わらない」と批判されても仕方ありません。
ソフトバンクGが買ったと報じられているテクノロジー企業株の今年最安値と最高値、直近の終値を見ておきましょう。
アマゾン2.1倍(ナスダック)
3月12日1676.61ドル、9月2日3531.45ドル、9月4日3294.62ドル
アルファベット1.6倍(同)
3月23日1054.13ドル、9月2日1717.39ドル、9月4日1581.21ドル
マイクロソフト1.7倍(同)
3月16日135.42ドル、9月2日231.65ドル、9月4日214.25ドル
テスラ6.9倍(同)
3月18日72.24ドル、8月31日498.32ドル、9月4日418.32ドル
ネットフリックス1.9倍(同)
3月16日298.84ドル、9月1日556.55ドル、9月4日516.05ドル
株価指数も3月以降、どんどん上がってきましたが、ここに来て急落しています。
オプション取引のエクスポージャーは5兆3100億円
ソフトバンクGが取得していたのはコールオプション(あらかじめ決めておいた価格で株式を買う権利)で、ウォールストリート・ジャーナル紙は約40億ドル分に達すると報じています。
価格変動のリスクにさらされている資産の度合い(エクスポージャー)は500億ドル(約5兆3100億円)に達するそうです。リスクが大きい分、テクノロジー企業の株価高騰でソフトバンクGは「濡れ手に粟」のボロ儲けになる可能性もあります。
ソフトバンクGは5月18日、2020年1~3月期連結決算の純損益は1兆4381億円の赤字と発表。新型コロナウイルスの影響を受けた米共有オフィス運営会社ウィーカンパニーへの投資で多額の損失を計上したのが原因でした。20年3月期の通期決算の純損益も9615億円の赤字。
しかし8月11日に発表した20年4~6月期連結決算の最終利益は1兆2557億円となり、四半期ベースで過去最高を記録しました。財務内容を改善するため6月に米携帯電話大手TモバイルUSの保有株の大半を2兆円超で売却したのが理由です。
孫会長には先見の明があった?
イギリスでは成功の秘訣は「人が強欲になる時に恐怖し、人が恐怖する時に強欲になることだ」と言われます。新型コロナウイルスの感染爆発で株価が暴落した時に「強欲」になった人は荒稼ぎができたはずです。株価が暴落して金融が緩和されれば、株価は戻るからです。
今回のパンデミックは歴史の針を先に進めました。不採算企業や成長が見込めない産業はデジタル化の加速で淘汰される時期が早まり、逆にテクノロジー企業へのシフトが前倒しになって出現しています。
都市封鎖や社会的距離政策によりリモートワークやオンラインショッピング、オンライン授業、ストリーミング視聴が日常に溶け込んでしまいました。このチャンスを見逃さなかった孫会長には先見の明があったとも言えるでしょう。
孫会長が力を注いでいるのが運用額10兆円を誇る世界最大の新興企業向け投資会社ソフトバンク・ビジョン・ファンドです。そして世界中のAI(人工知能)企業に出資して30年以内に5000社の同志を作る「群戦略」をぶち上げています。
しかし米テクノロジー企業株のオプション取引をすることが果たして長期的な「群戦略」につながるのでしょうか。日本のコアコンピタンスはもはやテクノロジーではありません。日銀が無尽蔵に刷ってくれるおカネになってしまいました。
イギリスではパンデミックで15万人以上の人が仕事を失いました。投機的に株価は高騰しても雇用は元には戻りません。「ナスダックのクジラ」がソフトバンクGだったことは「持てる者(資本)」と「持たざる者(労働)」の圧倒的な格差を世界中に改めて見せつけたように感じました。
(おわり)