だんだんジャズ~Aの巻~カエデにイチョウにプラタナス……枯葉といってもイロイロあるのだ
『だんだんジャズ』とは、毎回3曲ずつジャズの曲を聴き比べながら、なんとな~く、だんだんジャズがわかってきたような気になる(かもしれない)というシリーズ企画です。なんとな~く、だんだんジャズがわかってきたような気になればいいなぁという”ゆる~い気持ち”でお付き合いください。今回は初回、Aの巻です。
●Aの巻のポイント
ジャズが「よくわからな~い」という人は、「だって、いつも違うことをやっているみたいなんだもん」と感じていることが多いようです。「いつも違うこと」=「アドリブ」なのだろうなと思っていたのですが、実は「同じ曲なのに違ったように聴こえる」ということのほうが深刻な問題だったということに、ある日気づきました。それが今回の課題です。Aの巻では、3曲すべて「枯葉」という同じメロディ(であるはず)の曲を聴いてもらいます。しかし、この3曲はとても「同じ曲とは思えない」ほど、違った表現方法で演奏されていることがわかるでしょう。「同じ曲を同じようには演奏しない」ということが、ジャズでは当たり前なのだということに、まずは慣れていただきたいと思います。
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♪キャノンボール・アダレイ「枯葉」
キャノンボール・アダレイは、1960年代のジャズを代表するアルト・サックス奏者。1958年にマイルス・デイヴィスのバンドの一員として録音したのがこの曲を含む『サムシン・エルス』というアルバムで、彼は一躍、ジャズ・シーンのトップへと躍り出ることになった。スウィングのリズム感とビバップの理論、そしてマイルスから受け継いだクールな雰囲気作りを融合させたサウンドは、後に”モダン・ジャズ”と称されるジャズの代表的なスタイルを示していると言っても過言ではない。
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♪ビル・エヴァンス「枯葉」
キャノンボール・アダレイと同じくマイルス・バンドに在籍してジャズ界に大きな功績を残したピアニストがビル・エヴァンス。彼が1959年に自分のピアノ・トリオで録音したのがこの「枯葉」だった。前奏を短く切り詰めてテンポも速く設定し、ピアノとベースが絡み合うように違うメロディを創り出していく行程は、前出のキャノンボールとマイルスによるサックスとトランペットのアンサンブルとはまったく異なる方法論に拠っている。楽器の組み合わせによる印象の違いだけではなく、演奏者がどのような編曲=アレンジをしようとしていたのかを考えることもまた、ジャズの楽しみ方のひとつなのだ。
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♪スーパー・ジャズ・トリオ「枯葉」
ピアノ・トリオの概念を大きく変えた”イノヴェーター(innovator=革新者)”であるビル・エヴァンスに対して、このスーパー・ジャズ・トリオは”ジャズらしいジャズとはなにか”を提示する”エヴァンジェリスト(evangelist=伝道師)”的な役割を果たすことになった。それはある意味で、現在に至るジャズのピアノ・トリオのイメージを決定づけたとも言える。ピアノのトミー・フラナガン、ベースのレジー・ワークマン、ドラムのジョー・チェンバースは、いずれも1960年代のジャズ界をリードしてきた言わば”保守本流”の巨匠たち。彼らを起用させたのが「”ジャズらしいジャズ”を聴きたい!」と切望していた1980年代の日本のマーケットだったということも意味深長である。
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●まとめ
「枯葉」という題材を正三角形で構成するときに、頂点がキャノンボール・アダレイ(実質的にはマイルス・デイヴィス)、そして左右をビル・エヴァンスとトミー・フラナガンがガッチリと固めていると思ってもらっていいでしょう。それぞれが、1950年から60年にかけての「もっともジャズをジャズたらしめた時代」のイメージを伝える”見本市”のような、明確なスタイルをもった演奏になっているということが体感でき、薄っすらとでも区別できるようになってきたらしめたもの。このスタイルの違いが、実は自分の好みの違いを決定づけるものだということを意識しながら聴き比べていくと、自分の好みのジャズに到達できる確率が「グンッ!」と高まりますよ。
ここに挙げた3曲は、2012年に上梓した拙著『頑張らないジャズの聴き方』の「ステップ編」で欄外に掲載していたものを参考にしながら、新たにYouTubeを探し直して選んだものです。