ドーナツ状の雪雲はどうしてできる?
蜂の巣やドーナツ状の雪雲は「オープンセル」と呼ばれ、寒気の強さを表す。雪雲の形状は1977年の気象衛星時代の幕開けで研究が進んだ古くて新しい分野。寺田寅彦の随筆にその真髄が見える。
ドーナツ状の雲パターン
冬の天気予報でおなじみの日本海の雪雲。日本列島を埋め尽くすように押し寄せる雪雲をみると、寒波到来を感じます。雪雲の形はさまざまですが、穴の開いた雲にお気づきでしょうか?
このドーナツ状の雲はオープンセル(開細胞)型といって、寒気の吹き出しが強いときに見られる雲です。
日本海南部の水温は真冬でも10度くらいあり、水温と気温の温度差は10度から15度くらいになります。寒気が吹きだすと日本海はまるでお風呂のように湯気が立ち上ります。
この湯気が立ち上るときに雲を作り、冷えた空気は重くなって吹き下ろすという循環が起こります。天気の言葉で言えば、上昇流が雲を発生させ、下降流が雲を消滅させる。この一連の循環により、雲のある所、ない所が規則的に並んだ独特の模様が描き出されるわけです。
寅彦が雪雲を見たら?
雪雲の形状が分かるのようになったのは、それほど古いことではありません。1977年に気象衛星が打ち上げられ、雲をつぶさに観測できるようになってからです。
物理学者であり優れた随筆家であった寺田寅彦は随筆「自然界の縞模様(1933)」のなかで、自然界にある周期性を持って配列したさまざまな縞模様を取り上げていますが、寅彦が気象衛星の雲画像を見たら、さらに深い考察と示唆に富んだ随筆を書いただろうと残念に思います。
寒気の強さと穴の大きさ
このオープンセル型の雪雲は海面水温と気温の温度差が大きいときに発生する雲のため、寒気の強さを表す指標としても使われます。雲の縦横比(直径と高さの比)は20から30と言われ、背の高い雲(発達した雲)ほど雲の直径が大きくなります。蜂の巣から大きなドーナツ状まで、穴の大きさに注目してもおもしろいでしょう。
雪雲の研究は気象衛星時代の幕開けとともに活発になりました。明治から昭和初期を生きた寅彦は科学的な方法が適用できないからといって自然界の縞模様をほとんど顧みない人が多いと憂いつつも、
と述べていて、寅彦の鋭い考察に感心しました。
【参考資料】
気象衛星センター,2000:第3章雲パターン 気象衛星画像の解析と利用 一般気象編,32-33.
鈴木和史,1988:暖気移流に伴うオープンセル,気象衛星センター技術報告 第16号,59-69.
寺田寅彦:自然界の縞模様,ちくま日本文学全集,253-277.