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嫌われ者ハーベイ・ワインスタインに対する本音、あちこちで炸裂

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ケイト・ウインスレットは、オスカー受賞スピーチでワインスタインに感謝しなかった(写真:ロイター/アフロ)

 かつてオスカーを牛耳った男が、仲間たちから追放された。西海岸時間14日、アカデミーは、セクハラ問題で世間を騒がせているハーベイ・ワインスタインの処分について緊急会議を行い、彼の会員資格を剥奪することを決めたのである。出席したのは、スティーブン・スピルバーグ、トム・ハンクスらを含む役員54人。決定には3分の2の票が必要だったが、賛成の票は、それを大幅に上回ったそうだ。

 ワインスタインが手がけた作品は、これまでに、のべ300以上のオスカーノミネーションを手にしてきている。「L.A.TIMES」に、”the Oscars”ではなく”the Harvey’s”と呼ぶべきか、と言わしめたこともあるほどだ。 受賞スピーチでも、彼は何度となく名指しで感謝をされてきた。だが、成功は全部自分の手柄にし、ライバルを陥れることも厭わない彼を良く思わない人も少なくなく、彼が凋落した今、これまで溜まっていた本音が、あちこちで聞かれるようになっている。

「ブリジット・ジョーンズ」シリーズでワインスタインと組んだこともあるイギリスの映画会社ワーキング・タイトル・フィルムズの代表エリック・フェルナーは、「Screen Daily 」に対し、今ワインスタインの身に降りかかったことを聞いてうれしく思うと語った。「僕は彼のことが全然好きじゃなかった。彼の仕事のやり方も、クリエイティブなふりをするところも。女性の扱い方もだ。彼は、僕の身近な人にもそれをやったから、僕は知っているんだよ。あいつには我慢がならない」と、ぴしゃりと言うフェルナーは、コーエン兄弟らなど業界の大物がいる前で、ワインスタインに面と向かってはむかったこともあると告白している。だが、もっと強く立ち上がるべきだったとも言う彼は、「だから、今日は良い日なんだ。何年も言いたかったことを、僕らはみんな、言うことができるんだよ」と述べた。

「俺がお前にオスカーを取らせてやる」

 ワインスタインがプロデュースした「愛を読むひと」でオスカーを受賞したケイト・ウィンスレットは、受賞スピーチでワインスタインに感謝の言葉を捧げていない。それは意図的だった。「L.A.TIMES」に対してウィンスレットが語ったところによると、「受賞したらハーベイに感謝するように」と周囲から言われていたのだが、「失礼な行動をする人に感謝する義理はない」とはねつけたのだそうだ。

 ウィンスレットは、ミラマックスの「乙女の祈り」で映画デビューを果たしている。そのことを誰よりも覚えているのがワインスタインで、「君に最初の映画をあげたのが誰だったか忘れるな」と、ウィンスレットを見るたびに言ってきたらしい。「愛を読むひと」でウィンスレットが候補入りした時も、「俺がお前に勝たせてあげるからな。俺がやってやる」と、恩を売りつけた。だが、肝心の撮影現場では、スティーブン・ダルドリー監督や彼女に相談もなく、もうお金がないからと予定より4日早く撮影をやめさせるなど、クリエイティブ面での理解や支援はなかったという。ダルドリーが、オスカーの時期に間に合うように作品を完成させるのは無理と言った時のワインスタインの激怒ぶりは、当時も広く報道されている。ウィンスレットの担当エージェントの女性が、彼から毎回のように侮辱の言葉を浴びせられるのにもうんざりした彼女は、以後、ワインスタインとは仕事をしないと決めた。今回の事件に関しても、「この罪に対して最も重い刑罰が与えられることを願う」と語っている。

弟も言葉の暴力をたびたび振るわれた

 ワインスタインに最も近い人であるはずの弟ボブも、実は彼と疎遠な関係にあった。西海岸時間14日の「The Hollywood Reporter」で、ボブは、この5年の間、兄と個人的な会話をしたのは10回くらいだと打ち明けている。

 彼は兄からたびたび言葉の暴力を受け、時には肉体的な暴力を振るわれることもあった。ミラマックスの一部として、ホラーを中心にした別のレーベル、ディメンション・フィルムズを立ち上げてからは、意図的にニューヨークにいる兄を離れ、自分はL.A.のオフィスでディメンションに専念したという。セクハラについては、既婚の兄がほかの女性にも手を出していることは知っていたものの、ここまでひどいとは思わなかったと主張。「自分が知っていたのは、彼が傲慢で、いつも他人をひどい形で扱う人だということ。僕のオフィスには、常に、『あなたのお兄さんに、こんなことをされました』と、泣きながら人がやってきていた」と語った。

 実際、ミラマックスとザ・ワインスタイン・カンパニーでは、社員は給料が安くてすむ若い人が中心で、入れ替わりもかなり激しかったようだ。今になって、元社員や関係者も、社風や社内でのワインスタインの行動について、口を開き始めている。隠されてきた汚い真実と抑圧された感情は、これからまだまだ噴出してきそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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