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「ヒアリ」上陸~正しく怖がるために知っておくべきこと(最終更新17年7月23日)

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
「最凶」の外来種ヒアリが日本国内で発見された。(写真:ロイター/アフロ)

追記(7月23日最終更新)

6月23日にこの記事を書いたのち、ヒアリが各地で見つかっています。

以下環境省の新着情報です(ヒアリが確認されたもののみ)。

ヒアリの日本定着の可能性が高まっており、まさに瀬戸際という状況です。しかし、今迅速な対応をとれば、定着を防ぐことができます。

首相官邸は閣僚会議を開催しました。

ヒアリ拡大を防ぐために、私たちも関心をもって情報を追っていく必要があります。

以下に重要リンクを掲載します。

重要だと思われる記載を引用します。

ヒアリは毒針でヒトを直接加害する国際自然保護連合の世界の侵略種100にもランクされる危険な外来種ですが、日本のマスコミでは衛生被害に関する情報がやや誇張され流布されています。まずは、以下のことを心がけましょう。

1)ヒアリに身体をはわれたら:少数のアリが身体についたときには、躊躇せず手で振り払うか指で潰すことで十分対応できます。むろん、地面などにいるアリをむやみに触ってはいけません。

2)巣を踏んでしまったら:間違って巣(アリ塚)の上に足を踏み入れてしまうと怒ったヒアリが大量に身体に登ってきます。そんなときはもはや手で振り払うことはできません。手足をぶるぶる振るってふるい落としましょう。

3)もし刺されてしまったら:落ち着いて「死ぬことはまずない」と考えてください。利用可能な医療機関が近くにあるならほぼ大丈夫です。毒性が強いと指摘されているヒアリ個体群が生息する台湾でも確実な死亡例はありません。海外での死亡例はすべてアレルギー(アナフィラキシーショック)によるものです。刺されて、しばらくして(数分〜数十分)頭痛、動機、吐き気などで気分が悪くなったり、じんましんがでたら急いで医師にみせ治療してもらいましょう。皮膚科、内科、小児科などほとんどの診療科で対応できます。ヒアリの場合は初めて刺されたときにアレルギー症状がでることがあるのでここは要注意です。ハチアレルギー持ちかどうかとヒアリアレルギーは関係ないです。アレルギー症状がでなければとりあえず安心し、刺された部分の痛みかゆみには市販の虫刺され薬等をぬりましょう。

出典:ヒアリに関するFAQ

なお、一部「ヒアリで人が死ぬことはない」との報道がなされていますが、ヒアリの死亡例はあります。年間100名死亡が根拠が乏しかったというだけです。

文献13は、1989年に発表された初の全米規模のヒアリ死者事例の調査結果ですが、医師などのアンケートなどをもとにダブルカウントを除去したら、少なくとも30人の確実な死亡例が過去にあったとされています。そこでは生々しい描写もされています。たとえば、16ヶ月の赤ちゃんが飼い犬に押されてヒアリの巣に倒れ込んだ例です。アレルギー性ショックで呼吸困難になったその子を、看護師だったお母さんが必死でCPR救命を試みましたが、その甲斐もなく赤ちゃんは脳死になったそうです。

出典:ヒアリに関するFAQ 12 ヒアリで死亡ゼロ? 

過小評価せず、かつ、過剰反応せず、正しい情報で正しく怖がっていただきたいと思います。

「最凶」の蟻、日本上陸

「その日」は唐突にやってきた…

数年間から、関係者が警戒していた小さな生き物…小さくても凶暴すぎる蟻、ヒアリが、ついに日本国内から発見された。

平成29年5月26日に兵庫県尼崎市において発見されたアリについて、専門機関による種の同定の結果、6月9日に特定外来生物であるヒアリ(Solenopsis invicta)と確認されましたので、お知らせします。当該ヒアリは、中国・広東省広州市の南沙港から出航した貨物船内のコンテナ(1個)の内部で発見されたものです。

出典:環境省 ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について

環境省外来生物対策室によると『確認できただけで数百匹以上。卵や幼虫、さなぎもいた。コロニー(集団)をつくっていた』。家電製品が入っていたコンテナだった

出典:神戸新聞記事 強毒ヒアリ、刺されたらどうする? 専門家に聞く

これを受け、コンテナが置かれていた神戸市のポートアイランドを調べたところ、ヒアリが見つかった。

6月16日に、当該コンテナが5月20日~25日の間保管されていた兵庫県神戸市ポートアイランドのコンテナヤード(PC18)における緊急調査で、舗装面の亀裂部等においてヒアリに酷似した個体が確認されました。これらの個体のサンプルを採取するとともに、神戸市と協力しながら、集中的な殺虫剤等による緊急防除を開始しました。

専門家に採取したサンプルについて種の同定を依頼したところ、6月18日にヒアリ(Solenopsis invicta)であることが確認されました。他に緊急調査を実施している神戸市及び尼崎市の地点では、現時点ではヒアリと考えられる個体は確認されていません。

出典:環境省 神戸港における緊急調査で確認されたヒアリについて

どうやらこのヒアリたちは、既にヒアリが定着している中国でコンテナに迷い込んだようだ。幸いまだ迷い込んだだけで、日本に住みはじめたわけではないようだが、サナギまでいたとなると、日本にすでに侵入している可能性も完全には否定できないし、これからもこうしたケースは出てくるだろう。

なぜヒアリは怖いのか

しかし、どうして蟻の発見がニュースになるくらい大きな話題になったのだろう。

ヒアリは漢字では「火蟻」と書く。英語でもfire ant、文字通り火の蟻と呼ばれている。問題になっているのはfire antのなかでも「Solenopsis invicta(S invicta)」で、体長はわずか2-6mm。こんな小さな蟻だが、極めて凶暴(人間の勝手な言い草ではあるが)だという。

被害状況

■生態系に関わる被害

極めて攻撃的で、節足動物の他爬虫類、小型哺乳類をも集団で攻撃し捕食することが知られている。

集団で攻撃することにより鳥類の営巣・雛の生育に影響を及ぼした例がある。

■人の生命又は身体に関わる被害

刺されると、アルカロイド系の毒によって非常に激しい痛みを覚え、水疱状に腫れる。さらに毒に対してアレルギー反応を引き起こす例が、北米だけでも年間で1500件(本種を含めた"fire ant"全体の件数)近く起こっている。

出典:特定外来生物の解説 ヒアリ

家畜を死傷させ、また、刺された人が死亡するケースもある。公園など人がいるそばに巣をつくるため、子どもや老人が被害を受ける可能性があることが危惧されている。

経済的な被害も甚大で、アメリカでは年間5000億円もの被害が出ているという。

原産地は南アメリカ。亜熱帯、温帯でも生息できるため、現在環太平洋地域に広がっており、日本はヒアリがいる国に包囲されていると言っても過言ではない。

アメリカでは、環境科学の名著と言われる「沈黙の春」(レイチェル・カーソン著)が、ヒアリの拡大のきっかけを作ったと言われているという。

1962年にこの本が出版され、世界的に大きなインパクトを与え、DDTやBHCなどの強力で安価な農薬は全面的に使用を禁止された。

それから50年。『沈黙の春』は世界に何をもたらしたか。これはあまり顧みられない不都合な真実だが、ヒアリや外来昆虫に関しては、当時アメリカ農務省が心配していたことが現実になっているのだ。日本からの外来甲虫であるマメコガネは駆除できずに、他の大陸にまで飛び火させるほど大繁殖させてしまい、ヒアリにいたっては多大な国家的損失を与え、地球規模の大害虫にしてしまった。

出典:academist Journal 未来のノーベル賞はここにある! イチオシ研究発掘メディア 研究コラム インタビュー イベント クラウドファンディング 村上先生のアリ研究記(2)- 小さな侵入者”ヒアリ”を退治せよ!

ヒアリに刺されたら…

もしヒアリに刺されたらどうすればよいだろうか。

ヒアリの毒への反応は人によって大きく異なります。刺されたときには安静にし、急激に容態が変化する場合には速やかに病院に行きます。

出典:ストップ・ザ・ヒアリ 環境省自然環境局 野生生物課外来生物対策室

基本的には、ハチに刺されたときと同じ対応であり、ヒアリ特有の対策が必要というわけではない。

しかし、ハチに刺されて亡くなる人は年間20人もいる。現段階でヒアリに刺される可能性のある人は、ハチに刺される人よりはるかに少ないし、軽症で済むことがほとんどだが、命の危険にさらされる可能性があることは肝に銘じたい。

以下の資料を参考にされたい。

ヒアリの毒が死をもたらすのは、アナフィラキシーを引き起こす可能性があるからだ。

アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」をいい、これに血圧低下や意識障害を伴うと、アナフィラキシーショックという(日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドラインより。こちらからダウンロード可能)。

ちょっと難しいので、簡単に解説すると、ヒアリと接触して皮膚や粘膜が赤くなり、じんましんが出る、かゆくなる、息が苦しくなる、ふらつく、意識が遠のく、吐き気がする、吐くといった症状があらわれた場合、アナフィラキシーと考える。

そういう症状が出た場合、横に寝せ、すぐに助けを呼ぶ(救急車を呼ぶ)ことが必要だ。

救急隊が到着するまでは、仰向けにして足を30センチメートル程度高くする、呼吸が苦しいときは状態を起こす、吐いているときは顔を横向きにするといった対処で、息ができるようにする。急に立ち上がるのは禁物だ。

ヒアリに接触する可能性がある人で、過去にハチに刺されたことがある人など、アナフィラキシーの経験がある人などは、アドレナリン自己注射薬(商品名エピペン)を携帯することが効果的な場合がある。また、抗ヒスタミン薬の内服薬を持っておくことも効果的かもしれない。いずれも、医師に相談してどうするか決めてほしい。

ヒアリに関心を

ヒアリの侵入を防ぐため、ヒアリは「特定外来生物」に指定されており、飼育、運搬等が禁止されている。違反すると最大懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金が課される。

今から9年もまえ、2008年に発売された「ヒアリの生物学 ―行動生態と分子基盤―」(東正剛・緒方一夫・S.D.ポーター 共著 海游舎)のウェブサイトの紹介文には以下のように書かれている。

侵入しても顕在化するまでに数年を要するので,すでに侵入している可能性は否定できないが,侵入して数年以内であれば根絶させ,定着を防ぐことも不可能ではないだろう。いったん定着した後の莫大な損失を思えば,まずヒアリの侵入・定着を防ごうとする努力こそ大いに価値がある。

出典:ヒアリの生物学 海游舎ウェブサイト

ヒアリが国内で見つかった今、まさに定着を防ぐ瀬戸際にあると言っても過言ではないだろう。ヒアリの定着を防ぐために、環境省や農林水産省、国土交通省、自治体の方々のご尽力をお願いしたい。

こんな記事を書いている私自身、最近までヒアリのことを知らなかった。

しかし,日本人でS. invictaを知る人はほとんどいないのが現状である。

出典:ヒアリの生物学 海游舎ウェブサイト

ヒアリの侵入、定着が現実的な危機になっている今、私たちはヒアリに対する関心を持ちつづけ、過剰反応せず、とはいえ無視、軽視せず、冷静にヒアリを恐れていきたい。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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