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ワクチン接種後に「お風呂に入ってよいですか?」と多くの人が聞く理由

倉原優呼吸器内科医
(写真:PantherMedia/イメージマート)

ワクチン接種後、お風呂に入ってもよいか?

新型コロナワクチンに限ったことではありませんが、私がワクチンを接種した後、一定年齢以上の人から必ずと言ってよいほど受ける質問があります。それが「お風呂に入ってもよいですか?」です。

これは私が研修医の頃からずっと尋ねられる質問で、インフルエンザ、肺炎球菌など、ありとあらゆるワクチンの接種後に聞かれます。海外にはこのような質問をしてくる人はおらず、日本独自の現象のようです。

ちなみに、ワクチン接種後は入浴しても何ら差し支えありません。厚労省のウェブサイト(URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0041.html)には「ワクチンを接種した日に入浴することに特別な問題はないと考えられます。注射した部位を強くこすらないようにしましょう。ワクチンを接種した後に、入浴した場合としなかった場合での、免疫のつき方や、副反応の違いなどを比較した研究はありませんが、入浴により何か不具合が起きる可能性は低いと考えられます」と明記されています。

厚生労働省・新型コロナワクチンQ&A
厚生労働省・新型コロナワクチンQ&A

基本的には、即時型アレルギーが予想される注射後1時間を経過すれば、入浴に問題はありません。

終戦後のワクチン施策とお風呂文化

さて、なぜ日本では「お風呂に入ってもよいですか?」という質問が出るようになったのでしょうか。これは「終戦後のワクチン施策」と「日本独特のお風呂文化」が影響しています。

終戦後まもなく、占領軍の指導の下に「予防接種法」が制定され、12疾患(痘瘡・ジフテリア・腸チフス・パラチフス・百日咳・結核・発疹チフス・ペスト・コレラ・猩紅熱・インフルエンザ・ワイル病)の予防接種が始まりました。接種を断った場合に、罰則が科せられる「義務接種」として導入されました。予防接種をこれほど広範囲に、かつ強制的におこなう制度は海外でも例のないことでした。

赤痢や腸チフスについては、ワクチンよりも市井の衛生状態のほうが重要だったと思いますが、とにもかくにも、子供の死亡はその後減少しました。

さて、終戦後から1970年代までは、家にはお風呂がないことが当たり前でした。そのため、銭湯などの大衆浴場に通う人が多かったのです。寒空の中テクテクと歩いて、銭湯まで往復すると、湯冷めして風邪をひいてしまう可能性もあります。ワクチンの副反応で熱が出ることもあるので、「ワクチン接種日は風呂に入らないほうがよいのではないか」という見解もありました。

また、当時の銭湯には衛生的でないところもあったため、接種した皮膚から菌が入り込むリスクもあったかもしれません。

上記の経緯から、ワクチン接種日は入浴を避けたほうがよいのでは、という話になったのです。

今の銭湯は衛生的だ
今の銭湯は衛生的だ写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

高度成長期に入り、国民の所得の増加とともに自宅のお風呂普及率が高くなってきました。こうして、銭湯は徐々に衰退していくことになりました。

現代においても、ワクチン接種後に「お風呂に入ってもよいですか?」と聞かれる理由は、この習慣に基づいた生活指導が、おそらく国民の記憶に残っているからではないかと考えられます。

副反応の発熱時やBCGワクチン接種時は注意

ワクチンの副反応で熱が出る場合があります。新型コロナワクチンも、当院の職員接種では2回目の接種後、熱が出たという人が複数いました。明らかに発熱がある場合、しんどければ解熱鎮痛薬を飲むほうがよいと思いますが、39~40度も熱があるのに、無理して入浴する必要はありません。脱水や気分不良を起こしかねません。

■参考記事:新型コロナワクチン接種後の発熱・疼痛 解熱鎮痛薬を飲んでもよいか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210517-00237645/

BCGは、他のワクチンとは異なり、9本の針を皮内に押し込んで接種します。個々に差はありますが、接種部位がじゅくじゅくと赤くなる子供がいます。入浴自体には何ら問題ありませんが、揉んだりこすったりすると、傷口の痛みが強くなったり、腫れがひどくなったりする恐れがあるので注意してください。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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