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狂犬となりながら、何もできなかった噛ませ犬

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
イヴァン・レドカを判定で下したダニー・ガルシアだが、試合内容はお寒かった(写真:Splash/アフロ)

 ニューヨーク時間、1月25日に行われたダニー・ガルシア(31)vs.イヴァン・レドカ(33)戦は、元2階級制覇(WBC/WBAスーパーライト級、WBCウエルター級タイトル)王者のガルシアが3-0(117-111が2名と118-110)の判定勝ちを収めた。しかし、見応えのまるで無いファイトだった。

 

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME

 <噛ませ犬>としてリングに上がったレドカは、終始、攻撃の糸口を掴めず、第9ラウンドにガルシアの左首に噛み付くという醜態を晒した。

 試合後、ガルシアは言った。

 「ヤツは俺に噛み付きやがった。マイク・タイソンのように。レフェリーにもそう告げたよ。多分、縫うような傷になるんじゃないかな。ストリートファイトじゃあるまいし、ボクシングで噛み付かれたことなんて初めてさ」

 元々、実力差のある2人の対戦であった。ガルシアは、エロール・スペンス・ジュニアやマニー・パッキャオとの対戦を熱望し、チューンナップ戦としてサウスポーのレドカを選んだ。

 とはいえ、元チャンピオンは格下を詰め切れず、衰えを伝えた。パッキャオ戦が実現しても、勝利は難しいであろう。 

 

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME

 レドカにとっては自身の存在を知らしめる千載一遇のチャンスであったにもかかわらず、反則を犯すことしかできなかった。哀れな男である。今回の敗北後、レドカは現役続行を表明しているが、こんなファイターに未来がある筈もない。

 バークレイズ・センターにやって来た8217名のファンは、虚しさだけを覚えたに違いない。

 私は試合前「<噛ませ犬>にも牙がある筈だ。レドカは、あのアイラン・バークレーがトーマス・ハーンズをKOしたような魂のファイトを見せることができるか」と書いたが、とんだ思い違いであった。

 

撮影:著者 魂のファイター、アイラン・バークレー
撮影:著者 魂のファイター、アイラン・バークレー

 バークレーとレドカでは、ボクシングに向かう覚悟も、決意も、そして志も違い過ぎる。バークレーがハーンズに挑んだファイトについては、拙著『マイノリティーの拳』で詳しく記したが、またあの魂の一戦の映像を見たくなった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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