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終わらない「ロング/クロス」論争 スーツケースを持って乗車する場合はどちらが優位?

小林拓矢フリーライター
関空方面への快速では大きな荷物を意識した座席となっている(写真:イメージマート)

 ロングシートか、クロスシートか。どちらが一般列車の座席として優れているかは、長い間鉄道ファンや利用者の間で議論になり続けている。

 かつては、関東の通勤型電車ではロングシート、近郊型電車ではクロスシートというふうに使い分けがされていたが、通勤型と近郊型の区別がなくなり、セミクロスシートの列車がごくわずかにあるのみで、そういった列車でもクロスシートの部分は少なくなっている。

 しかし関西では、新快速を中心に転換クロスシートが多くの列車で提供されており、着席サービスがいいと一般には考えられている。

 どちらもいい点と悪い点があり、一概にはいえないというのが現実的なところではあるものの、クロスシート、とくに転換クロスシートがちょっとデラックスな車両として認知されていることは多くの人が認めるところだろう。

 しかし、転換クロスシートの、「きちんと進行方向に向かって座れる」というのが、デメリットになる場合もある。

大きなスーツケースと転換クロスシートの相性の悪さ

 このところ、何度も泊りがけで出かけている。そのたびに、キャスターつきのスーツケースを、転がして歩いている。

 新幹線のような、長時間乗車する列車では、スーツケースのことは問題にならない。荷棚においておけばいいのだから。特大荷物スペースを使用するという方法もある。なにせ座り続けているのだから、荷物のことは気にしなくていい。

 ところが、新大阪で新幹線を降りて新快速に乗り継いだ際に、困ったことが起きた。転換クロスシートに座ろうとしたら、荷物の扱いに困る状況が発生した。荷棚に置くには乗車時間が長すぎ、床に置くには多くの人が乗車しており、かなり邪魔なのである。

 筆者は周りの乗客に頭を下げつつ、棚に上げたり床に置いたりを繰り返した。

 また別のところでも転換クロスシートの列車で荷物に難儀したこともあった。新千歳空港を出て、新千歳空港駅から南千歳駅までの1駅間を利用した際に、転換クロスシートの車両に乗ることになった。

 たった1駅なので立っているしかない。荷物を上げ下げしている時間はない上、床においておいたらほかの乗客の邪魔になる。もうこれはしょうがない。荷物置場は当然埋まっている。

 新千歳空港方面の快速「エアポート」は、古い721系は転換クロスシートであり、新しい733系はロングシートである。このあたり、大きい荷物と「ロング/クロス」を考える上では、参考になりそうだ。

快速「エアポート」はロングシート車が近年投入されている
快速「エアポート」はロングシート車が近年投入されている写真:イメージマート

意外と混雑しやすい転換クロスシート車両

 転換クロスシートの車両は、多くの人が座れるいっぽうで、意外と混雑しやすい。車内に人が立てるスペースが少ないため、乗客を詰め込めるようにはなっていない。JR西日本の新快速は、長距離利用することを前提にして走らせている。

 JR西日本の関西空港方面への列車には、転換クロスシート1人がけと2人がけの組み合わせの車両が使用されているものもあり、このあたりは大きい荷物の人に配慮したものといえる。しかし、着席可能者数が少なくなるという問題が発生する。

 大きな荷物と、転換クロスシートで着席者数を増やすのは、相性が悪い。

 ロングシートに座り、自身の前にスーツケースを置くようにすることで、かえって着席可能者が増えることもあるのだ。

 新幹線や特急、飛行機を降りて通勤・近郊型電車で移動する際に、大きな荷物をどうするかはけっこうやっかいな問題である。スーツケースと転換クロスシートの短距離乗車は意外と相性が悪く、ほかの乗客のことを考えると立っているしかないということもある。そういう意味では、一般にはあまり好まれないロングシートは、混雑さえしていなければ大きな荷物を持っていても問題が起こりにくいということもいえるのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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