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「吉祥寺」に代わり「恵比寿」が住みたい街ナンバーワンになった理由

斉藤徹超高齢未来観測所 所長
(写真:アフロ)

「恵比寿」が住みたい街ナンバーワンに

毎年、この時期にちょっとした話題となるのが、「東京の住みたい街ランキング」です。長年、吉祥寺がナンバーワンの常連でしたが、昨日発表された株式会社リクルート住まいカンパニーによる『SUUMO(スーモ) 2016年版 みんなが選んだ住みたい街ランキング 関東版』調査で1位となったのは「恵比寿」でした。ついに、あの吉祥が陥落か!、と巷でも話題になりました。

今年のベスト3は、恵比寿、吉祥寺、横浜でした。表1はスーモが調査を開始した2010年以降の上記ランキング都市の推移を示したものです。近年では、吉祥寺、恵比寿、横浜、自由が丘の4都市が常連として名を連ねており、特に恵比寿は直近の3年間、2位の座を続けて獲得していました。この表から読み取る限り、恵比寿が首位になる土壌は十分に整っていたと考えても不思議ではありません。

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住みたい街ランキングの変遷

住みたい街ランキングの過去の変遷をたどってみれば、それぞれの時代を背景に人気の街が変化しているはずです。しかし、スーモ調査の開始は2010年であり、それ以前にさかのぼって見ることが出来ません。

調べてみると、KADOKAWAのタウン情報誌『東京ウォーカー』が1998年から住みたい街ランキング調査を実施していました。(ただし調査手法は年によって変更しているので正確な時系列変化ではありません。)

表2は『東京ウォーカー』ランキングの推移を2000年からの15年間、表にまとめてみたものです。

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この表2のランキングを時系列で眺めつつ、続きとして表1を見ると調査主体は異なりますが、さほど違和感なく人気タウンの時系列変化を確認することができます。

この表を元に住みたい街の時代変化区分を行ってみましょう。

【2000~2004年】人気の街の混沌期

この時期は、特に固定されることなく、さまざまな街が入れ替わっています。吉祥寺は2001年に一度2位になっただけです。三軒茶屋、下北沢、中目黒などの山手線西側にある私鉄沿線の街が常連です。駅前に大型店もなく、飲食繁華街と住宅地が混在している、どちらかと言えば大学生が住みたいと思うような街が人気の中心です。カジュアル感覚で住むには今でも最適な街であると言えるでしょう。

【2005~2010年】吉祥寺、自由が丘、下北沢安定期

吉祥寺は2005年に初めて住みたい街ナンバーワンとなりました。以降11年間にわたり1位の座をキープし続けました。最初の3年は吉祥寺、自由が丘、下北沢が上位3位です。自由が丘は更に3年間、2位の座をキープすることになります。ここで上位を占めた吉祥寺、自由が丘は、ある意味で三軒茶屋、下北沢、中目黒よりも、すこしトレンディーでオシャレ度が高い街であったと言えるかもしれません。

【2011年~2015年】恵比寿、横浜躍進期

さらにその後5年間、吉祥寺が1位の座は続きますが、2位、3位は次第に変化して行きます。自由が丘、下北沢に代わり上位にきたのは恵比寿と横浜でした。これは、東京ウォーカー調査、SUUMO調査ともに同じ傾向です。そしてこのトレンドが続く中、恵比寿が吉祥寺を抜いてついに1位の座についたのでした。

吉祥寺がナンバーワンになった理由

なぜ恵比寿が吉祥寺をしのいで、ナンバーワンの座を仕留めたのでしょうか。その理由をひも解くためには、まず何故吉祥寺が11年もの間ナンバーワンを維持し続けたのか、その理由を明らかにすることに鍵があるでしょう。

吉祥寺がナンバーワンになった最も大きな理由は、「都会の利便性」と「自然の快適さ」が一か所にぎゅっと凝縮されたコンパクト性にあると考えられます。しかし、そのコンパクトが高く支持された背景には、近年の就労環境の変化があると私は考えています。

バブル崩壊後、経済低迷が続き、就労環境の低下が続く中、人々は過重労働と言われながらも働くことを余儀なくされています。そのような時代環境で、オフの時間をいかに使うかという意識は大きく変化してきているのではないでしょうか。

休みの日にわざわざ電車に乗って他の繁華街に赴かなくても、一通りの用事が事足りてしまう。これは働いている人々にとってはとても快適なことです。

このような利便性の貴重さは、一人暮らしの時よりも、結婚し、子育て期にはさらに重要となります。専業主婦ではなく、共稼ぎが主流の現在、子どもとの育児や遊び、買い物も一か所で済ませることが出来るコンパクトシティとしての吉祥寺は、このような時代環境を背景に人気タウンの座を長年得てきたのではないかと考えられます。

恵比寿ナンバーワンの理由は「職住隣接志向」の高まりにあり

さて、改めて恵比寿と横浜が躍進した理由を考えてみましょう。スーモ調査の中では、路線の多さ、恵比寿ガーデンプレイスをはじめ、有名レストランや海外から上陸した飲食店など、話題スポットが多く、2016 年春、駅前にアトレの新館ができることも話題になったといった事が記載されています。しかし、私はこのような商業施設の変化に加え、恵比寿という立地性そのものにナンバーワンになった理由が隠されているのではないかと考えています。

恵比寿や横浜にあって吉祥寺にないものは何でしょうか。それは「職場と住居の隣接距離」にあるのではないかと考えられます。確かに吉祥寺は、街としてはコンパクト性には富んでいますが、いざ職場に通うとなると23区内ではなく、都下ということもあり、都心との距離は離れています。私も吉祥寺の自宅から汐留の職場まで約1時間かかっています。しかし、仮にそれが恵比寿になれば通勤時間は3分の1になり、横浜であれば2分の1となります。先に述べた夫婦共稼ぎが当然になった現在、就労しつつ、子育てを行っていくためには通勤時間の短縮も重要な要素になってきます。その意味において、吉祥寺よりもさらに都心に近い恵比寿は非常に魅力的な街であると言えるでしょう・

このように考えると、これからは、適度な都市の利便性と住宅地としての快適さを持ちつつも、これに加えて、自宅と職場の隣接性が住みたい街選びの重要なポイントとなって行くのではないかと考えられます。

超高齢未来観測所 所長

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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