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「引退した人とはまた違う目線で観られる」。現役プレーヤー田中隼磨のサッカー解説像とは?

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロスポーツ)

筆者の新著『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』の取材でWOWOWの”実況マエストロ”こと柄沢晃弘アナウンサーに「実況アナウンサーの解説者取扱説明書」というテーマでお話を聞いた時、リーガ・エスパニョーラのゲスト解説者の話題になった。

ゲスト解説者には現役選手もいるのだが、柄沢アナの評価によれば川崎フロンターレの中村憲剛選手と松本山雅の田中隼磨選手は「すぐにピンで解説者がつとまる」資質があるという。中村憲剛選手のサッカーをコトバにするスキルの高さは広く知られているところだが、田中隼磨選手についてはWOWOWの解説を聴いてはじめて、そうした資質を知った人も少なくないかもしれない。

今回の著書ではかつて”名解説者”として鳴らしながら、指導者の道に進んだ松本山雅の反町康治監督に「優秀な指導者はなぜ、優秀な解説者なのか?」というテーマで単独インタビューさせていただいた縁もあり、ミックスゾーンの場を借りて、田中隼磨選手に現役選手なりの解説像を聞いてみた。

ーー今書いている解説者本の取材でWOWOWの柄沢アナにお話を聞いた時に田中隼磨選手の名前が出て、解説者の資質が高いと評価されていました。現役選手としてシーズンオフに海外のサッカーを解説する意味をどう考えていますか?

田中「現役の目線としては引退した人とはまた違う目線で観られると思うし、僕はサイドの選手として、サイドの視点で観ています。WOWOWのスタッフはそれを素直に言ってくださいと言ってくれているので、そういう視点でサッカーを観たことを解説に生かしています。特にスペインリーグは」

ーースペインリーグを見ていて、このサイドの選手のプレーが面白いという発見を解説でも?

田中「そうですね、少しでも。あまりしゃべることは得意ではないんですけど、思ったことを素直に正直に、解説でも話していますけどね」

ーーうまいと思いますけど。そもそも解説のためというよりは普段スペインリーグなどを観て、発見しながら現役のプレーヤーとしても生かしている?

田中「もちろん解説のためではなくて、現役の選手として自分のプレーのために、こういう時はこうした方がいいんだなっていうのは参考になっていますし、そういう目線で観ていますけどね」

ーー今後チャンスがあればそういう仕事は?

田中「そういう話があれば光栄ですし、やっていきたいですね」

ーープレーを観てイメージしたことが、結局は解説にも。

田中「そうですね、そういう先にもつながりますし、またサッカーを知ることも解説に生きてきますし、自分の特徴というのはチームがどういう動きをしていて、どこが足りないかという戦術をしっかり把握することも自分の得意なことだと思っているので、それが解説にも生きていると思います」

試合後の取材でもチームのパフォーマンスや課題について、チームの全体感をベースにしたコメントが多い。もちろん、そこにはサイドならではの視点も加えられるわけだが、俯瞰的にサッカーを捉え、整理し、的確なコトバにできる選手は多くはない。

反町監督に田中隼磨選手がシーズンオフに解説をしていることについて聞くと「悪くないと思う。サイドというポジションからの観かたを求められているんだと思う」と語っていた。

サイドの選手でありながら、上空から俯瞰する様な視野と解析力、それらをコトバにするスキル。ちょうど1年先輩の石川直宏選手(FC東京)が今シーズン限りでの現役引退を発表したが、「先のことはぜんぜん考えられません」と語る田中隼磨選手はまだまだトップレベルの選手として良質なプレーを見せてくれるだろう。

上記の著書でスポーツジャーナリストの中西哲生氏も指摘する様に、サッカーをコトバにするということはプレーのビジョンを高めることにもつながるはず。その才能をこの先の現役生活で生かし、さらにシーズンオフには解説で発揮してほしいものだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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