母子家庭で養育費を受け取っているのは4人に1人!養育費未払い問題の真の原因とは【弁護士が解説】
1 はじめに
日本では、母子家庭への養育費の支払いについて、4人に3人が未払いとなっています。
厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、養育費を受給している母子世帯の母は24.3%となっています(後記※1参照)
また、母子世帯の平均年収は243万円となっており、養育費未払い問題は、母子家庭の貧困率が高止まりしている理由の一つでもあります。
一体どうしてこんなに多くの方が、本来受け取るべき養育費を受け取れていないのでしょうか?
2 養育費を受け取れていない理由とは?
そもそも母子家庭において、養育費の取り決めをしている世帯は42.9%に止まっており、過半数の世帯では養育費に関する取り決めができていません。
その理由としては、「相手と関わりたくない31.4%」、「相手に支払う能力がないと思った20.8%」、「相手に支払う意思がないと思った17.8%」の3つが上位となっています。
私は兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱う法律事務所を経営する弁護士ですが、離婚する際に養育費の取り決めをしないまま、離婚する方は珍しくありません。
とにかく相手と別れたい、離婚して楽になりたいとの一心で、養育費を後回しにしてしまうケースは実際のところ、少なくないのです。
また、養育費の取り決めを行っている世帯でも、「文書あり」が73.3%、「文書なし」が26.3%となっています。
「文書あり」のうち「判決、調停、審判など裁判所における取り決め、強制執行認諾条件付きの公正証書」は58.3%、「その他の文書」は15.0%となっています(後記※※2参照)。
「その他の文書」には、実際には法的に効力がない場合がほとんどです。
つまり、養育費について裁判所で取り決めるか、公正証書にしておかないと、せっかく文書を作っても意味がないということになりかねません。
これが養育費未払い問題の真の原因です。
すなわち、養育費未払い問題を解決するためには、養育費の未払いに対する事後の対応よりも、事前に養育費の取り決めをする比率を上げること、そして取り決めをする場合に裁判所における取り決めもしくは公正証書にできるかということにかかっていると言っても過言ではないのです。
3 離婚後に養育費を請求できるのか?
では、離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合には、離婚後に養育費の請求はできるのでしょうか?
結論としては、離婚後にも養育費の請求は可能です。
まずは元夫婦間で協議をし、まとまらない場合には家庭裁判所に養育費請求調停の申立てを行います。
調停では、調停委員に間に入ってもらい話し合いを進めますが、調停で合意に至らなかった場合には自動的に審判に移行することになります。
養育費支払いの義務は、原則として子どもが経済的に自立するまで続きます。
ただ、過去に遡っての養育費の支払は実務では認められないことが多いので注意が必要です。
4 未払い養育費の差し押さえのための条件
未払いの養育費について、以下に挙げる一定の条件を満たせば相手の給与等を差し押さえることができます。
法律では、未払いの養育費と併せて、支払期限の未だ到来していない将来分の養育費に関しても差押えの申立てをすることが認められています。
給料債権の差し押さえは、相手の給与の手取り額(額面給与から税金・社会保険料・通勤手当等の控除分を差し引いた金額)の半分まで差押えが可能です。
また、相手の給料の手取り額が66万円を超える場合には、手取り額の半分ではなく手取り額から33万円を引いた全額を差し押さえることができます。
① 相手に支払い能力があること
当然のことですが、相手に収入や財産がなければ差し押さえはできません。相手の仕事の状況などは事前に確認しておく必要があります。
②相手の現住所がわかっていること
相手の現住所がわからない場合には、住民票の調査から始める必要があります。住居を転々としていた場合、勤務先などから居場所を特定することができるケースもあります。
また、年金事務所では年金や健康保険の取扱いを行っていますので、勤務先の特定ができる場合があります。
③「債務名義」を持っていること
養育費の差押えをするには「債務名義」を持っていることが条件なっています。
「債務名義」とは、裁判所の判決や調停調書、金銭債権等に関する公正証書(履行期経過後はただちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの)のことです。
一方、協議離婚などの際に相手との間で交わした「覚書」や「契約書」は、公正証書にしていなければ債務名義になりません。
5 養育費未払いのまま音信不通になったとき
従来は「債務名義」を持っていたとしても、相手と音信不通になるなど相手の勤務先がわからなくなれば差押えができなくなるケースが多々ありました。
しかし、現在は法改正によって財産開示制度の強制力が強化され、第三者(各自治体や厚生年金等を扱う団体、銀行や証券会社などの金融機関)からの情報が取得できるようになっています。
6 法務省の検討会議での論議
令和2年12月24日に公表された「養育費不払い解消に向けた検討会議・取りまとめ(~子ども達の成長と未来を守る新たな養育費制度に向けて~)」では以下の問題点が指摘され、改善に向けた対策が検討されています。
https://www.moj.go.jp/content/001337164.pdf
公表された文書では、民法の中に養育費請求権の性質や位置付けを明確に規定し、養育費を取り決める際の考慮要素を具体的に規定することを検討すべきとしています。
また、離婚届と合わせて、養育費に関する取決めを自発的に公的機関に届け出る制度を設けることや、協議離婚時に養育費を取り決めることを原則として義務付けることも検討すべきとしています。
離婚時に取決めができない事情がある場合には、暫定的に一定金額の具体的な養育費請求権を自動発生させる制度を設けることや、養育費請求権の権利者に代わって、国等の公的機関が権利者の養育費請求権を行使し、支払義務者から未払いの養育費を回収し、請求権者に交付するという強制徴収制度の創設も検討すべきとしています。
このように国として法整備や制度改定を行うべきとの方向性は有しているものの、未だ一定の時間はかかるものと推測されます。
7 まとめ
養育費未払いの問題の本質は、離婚時に十分な協議ができないケースが多く存在すること、そして裁判所での取り決めや公正証書にしていないことにあります。
裁判所での取り決めや公正証書にしておきさえすれば、前述の条件を満たすかぎり、給料の差し押さえが可能です。
養育費がからむ離婚をされる際には、将来未払いになり、差押えが必要になることを意識しながら事前にできるかぎりの対策を講じておくことです。
最も重要なことは、離婚前にできる限り専門家に相談することです。
弁護士だけではなく、地方公共団体(市区町村)によっては,相談窓口を設置したり,無料法律相談等を行ったりしているところもありますので,まずは,各地方公共団体に相談されることをおすすめします。
養育費相談支援センターにおいても養育費や面会交流についての相談に応じていますし,全国に設置されている母子家庭等就業・自立支援センターでも養育費や面会交流についての相談に応じているところがあります。
※1 参考元:「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要について」
この調査は5年に1度行われており、直近では令和3年に実施されましたが、結果はまだ公表されていません。
※※2 参考元:厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」