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IMF、英国は2023年にG7で成長率が最低と予想(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ウクライナ戦争によるインフレ加速で英経済はリセッションの淵に=スカイニュースより

ロシア・ウクライナ戦争の勃発後、英国ではインフレ圧力が一段と高まり、リセッション(景気失速)懸念が広がる中、IMF(国際通貨基金)が4月18日に発表した、最新の世界経済見通しを受け、英国内でリセッションをめぐる議論に一石を投じている。

IMFによると、英国の経済成長は2022年には米国に匹敵する3.7%増(前回1月予測時は4.7%増、2021年実績は7.4%増)と、堅調な伸びとなるものの、2023年には1.2%増と、急減速し、「G7(先進主要7カ国)中、最下位に落ちる」と警告している。

英予算責任局(OBR)も2022年の成長率見通しは3.8%増と予想している。3月の月次GDP伸び率は前期比0.1%減(2月は同0%増)に急減速。1-3月期も前期比0.8%増と、低い伸びとなったにもかかわらず、前年比では一見して高い伸びとなるのは、「1年前のGDP伸び率がコロナ禍のロックダウン(都市封鎖)により、かなり落ち込んだことによる、いわゆるベース効果で、1-3月期の成長率が前年比では8.7%増と、今年で最も高い伸びとなる可能性が高くなる、数字のまやかしがある」(4月17日付英紙サンデー・タイムズのデイビッド・スミス経済部デスク)という。

イングランド銀行(英中央銀行、BOE)が5月5日の金融政策委員会で発表した5月金融政策報告書では、英国の成長率は2022年4-6月期に前年比3.2%増(前回2月予測も同3.2%増)、2023年4-6期に同横ばい(同1%増)、2024年4-6期に同0.2%増(同1%増)、2025年4-6期に同0.7%増。また、通年ベースでは、2022年は3.75%増となるが、2023年には0.25%減と、前回予測の1.25%増からマイナス成長となる。2024年は0.25%増(前回予測は1%増)に回復すると予想している。市場でも英国経済がスタグフレーション(景気後退にもかかわらず、インフレ率が上昇する状態)に向かっているとの見方が多く、一部ではすでにリセッション(景気失速)の初期段階にあるとの見方もある。実際、5月金融政策報告書では今年10-12月期にGDP伸び率は前期比でマイナス(市場予想は0.6%減)となる見通しだ。

また、IMFはインフレ率でも英国は2023年が5.3%上昇と、「G7中、最大のインフレ国となる」と指摘している。ドイツの2.9%上昇やフランスの1.8%上昇、イタリアの2.5%上昇に比べ、英国は2-3倍も高く、インフレ高騰が続く。ちなみに英国の3月のインフレ率は前年比7%上昇(2月は同6.2%上昇)と、30年ぶりの高い伸びだ。

これを受け、英国議会では最大野党・労働党の影の財務相であるレイチェル・リーブス議員が英紙ガーディアン(4月18日付)で、「IMFの最新データは政府の経済・社会政策が間違っていることを示す」とし、リシ・スナク財務相の増税による財政再建を目指した春の予算案(補正予算案、3月23日発表)を痛烈に批判。同紙のリチャード・パーティングトン経済部記者も「政府は、ボリス・ジョンソン首相とスナク財務相が(官邸でのロックダウン中のパーティー開催により)刑事違反に問われ、前例のない罰金を科され、すでに深刻な政治危機にある中、このIMFのデータ公表は政権に追い打ちをかける。今冬にエネルギー価格が再び上昇すれば、政治混乱は必至だ」と見る。

官邸パーティー疑惑はまだ余罪があり、警察は捜査を続行中だ。議会も事実究明の調査に乗り出す。与党・保守党内でジョンソン支持派の最右翼スティーブ・ベイカー議員(元英・EU離脱担当相)も4月21日の議会審議で明確に首相辞任を要求し、サジを投げた。首相の党内での求心力はガタ落ちで、労働党への政権交代に発展すると見られている。

今後の政局を巡る新たな見方は、ジョンソン首相の後継者と見られているスナク財務相の失脚が避けられず、保守党の政権継続が危ぶまれるというものだ。大富豪のアクシャタ・マーシー夫人の非居住者資格を利用した海外所得の納税免除が庶民の怒りを買った上に、スナク氏自身もパーティー疑惑に巻き込まれている。英紙フィナンシャル・タイムズのロバート・シュムリスク政治デスクは4月20日付コラムで「6カ月前、野党のリーダーらは、スナク氏が次の総選挙でライバル(新首相)になると懸念していた。若いスナク氏のスター性と人気度の高さは、ジョンソン首相の“プレミアリーグ”が崩壊した場合に備え、強力なプランBとなるということで保守党を安心させていた」とした上で、「(スナク氏の人気凋落は)保守党にとって深刻な戦略的打撃だ。プランBを失っただけでなく、12年間、政権の座にあった保守党のブランドをさらに更新するという最大の野望も失われた」と論じている。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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