「夜勤」の人や「乳幼児の親」は「どんな仮眠」をとるのがいいのか
医療や介護、警備員、長距離交通機関や運輸、24時間操業などの従事者、まだ離乳しない子育て中の親など、夜間に眠ることができない人は多い。夜勤中に仮眠時間が設定されているところも多いが、どんな仮眠のとり方が最も効果的なのだろうか。最新の研究から仮眠のとり方を探る。
看護師の仮眠についての研究
夜勤の従事者は、2交代制(日勤・夜勤)、3交代制(日勤・準夜勤・深夜勤)などのシフトが多く、3交代制の場合、日勤は8時から16時、準夜勤は16時から24時、深夜勤は0時から8時、などといった内容になっている。シフトの割り当てでは、正循環(日勤→準夜勤、深夜勤→休み→日勤など)と呼ばれる、負担をなるべく減らすパターンが推奨されている。
ただ、日本の労働関係法で、夜勤での仮眠時間について法的規制や具体的な基準はない(労働基準法第34条に休憩時間の取り決めはある)。厚生労働省による改善基準告示や各団体による仮眠時間の推奨が出されているだけだ。例えば、公益社団法人日本看護協会は、ガイドラインで夜勤の途中で1時間以上の休憩を推奨し、連続した仮眠時間を確保することを推奨し、夜22時以降におよぶ勤務で実労働時間が8時間を超える場合、連続2時間(120分間)以上の仮眠をとることを検討するように勧めている。
このガイドラインでは連続2時間(120分間)以上の仮眠がいいとされているようだが、実際には夜勤中にどのような仮眠をとるのがいいのだろうか。これについて最近、広島大学の研究者がある研究を発表した(※)。
この研究は、医療従事者である看護師の16時間夜勤(16時から8時)を想定し、夜間の眠気や疲労感、作業能力について調査している。20代の女性看護師41人を対象に、夜勤の途中に22時から0時まで120分間の仮眠をとる場合(14人)、22時30分から0時までに90分間と2時30分から3時までに30分間の2回の仮眠をとる場合(12人)、仮眠を全くとらない場合(15人)、3条件を比較した。また、英文の原著では仮眠を「nap」としている。
夜勤中に2回に分けた仮眠が効果的
それぞれの条件参加者について、内田クレペリン検査(作業の負荷に関する心理テスト)、体温、心拍数、主観的な疲労感や眠気などについて、夜勤勤務中の1時間ごとに比較検討された。その結果、1度に120分間の仮眠をとる場合や仮眠を全くとらない場合より、2回に分けて仮眠をとったほうが疲労感や眠気が起きにくくなることがわかったという。
例えば、疲労感については、全ての参加グループで4時から9時までに強い疲労を感じたが、2回の仮眠をとった参加者は他の参加者よりも疲労感は低かった。また、眠気については、120分間の仮眠を1回とった参加者は、4時になるとすぐにひどい眠気を感じ、それがシフトの終わりまで続いた。一方、2回の仮眠をとった参加者は6時まで眠気を感じることは少なかった。さらに、この論文では、5時から6時までの間にさらに30分間の仮眠を追加することを提案している。
看護師の仕事は、その性質から24時間体制が求められているが、連続した夜勤は心身ともに負担を大きくし、仕事への影響も出かねない。こうした仕事に従事せざるを得ない人が、どのような仮眠をとるのがいいのかを知ることは、従事者の健康への悪影響を減らすことはもとより、仕事のパフォーマンスと安全性を高めることにもつながるだろう。
夜勤と睡眠の関係
今回の研究について、著者である広島大学大学院医系科学研究科教授の折山早苗氏に話をうかがった。
──夜勤における仮眠はどのように重要なのでしょうか。
折山「夜勤と夜勤中の仮眠の関係は、夜勤前の夜間睡眠が十分とれていれば、夜勤中に出現する眠気も少ないのですが、夜勤前の夜間睡眠が十分とれていないと、夜勤中の眠気も強く、仮眠の寝つきにも影響します。人間はもともと夜間に睡眠をとるので、夜勤によって不規則な睡眠時間をとる生活には完全に適応できません。そのため、夜勤によって睡眠の機会が奪われた場合、勤務者の多くは勤務後の昼間に睡眠不足を補うために睡眠をとります。眠気が増加するのは、概日リズムに加えて、連続して覚醒している時間(睡眠負債)に大きく影響されます。ですので、夜勤後すぐに昼寝をとろうとしても、午前10時ごろは概日リズムの影響から睡眠に適していませんし、長時間の昼寝は夜間の睡眠にも影響すると言われています」
──先生は、夜勤の仮眠についてのご研究が多いのでしょうか。
折山「そうですね。例えば、本研究は過去3回行った研究データを使って比較した研究です。実験室での実験の手順(測定項目、測定間隔、食事のタイミングや実験室の室温、湿度、明かり)は同じでしたので、今回、各データを比較し、新しい知見を明らかにしました。看護師の勤務スケジュールでは、夜勤後は翌日まで勤務はないので、夜勤後にさらに昼の勤務がある勤務は設定していません。また、実験室の近くに防音の仮眠室があり、参加者はそこでベッドに横になって仮眠をとるように設定しました」
──今回発表されたご研究は、先生が過去に3回行われたパイロット研究とどのような関係がありますか。
折山「1回目の研究は、120分間の仮眠1回についてです。夜間に120分間の仮眠を22時から0時、0時から2時、2時から4時の3条件を設定し、眠気や疲労感、作業能力を調査しました。結果は、それぞれの効果は仮眠の4時間後に出て、さらに2時から4時の仮眠はその前の1時に眠気の増加を認め、仮眠後の眠気も強く、作業能力も一時的に低下したので、仮眠は遅くとも1時までにとる必要があることがわかりました。2回目の研究では、120分間を90分間と30分間に分けた仮眠についてです。22時30分から0時、2時30分から3時に分けた場合、0時30分から2時、4時30分から5時に分けた場合を比べた結果、どの時刻に仮眠をとっても90分間の仮眠は3時間から4時間、30分間の仮眠は1時間の眠気や疲労感の低減効果を認めました。3回目の研究では、夜勤時の食事の影響を調べるために、仮眠をせず食事を3時30分に350カロリー(おむすび2個)をとる場合ととらない場合の実験をし、食事をとった場合は9時まで空腹感を低減し、反応遅延回数の抑制も認めました。この3回目の実験のデータからは、食事をとらないデータを使い、1回目、2回目、3回目のデータを分析し、今回、120分間仮眠を分割することによる効果を確認しました」
子育て中の親の睡眠不足にも応用
──こうした夜勤と仮眠の関係は、日照時間の違いなど、季節や地域に何か影響を受けますか。
折山「夜間睡眠については、季節に影響を受け、覚醒時刻は夏が冬に比べて有意に前進し、夏は冬に比べて総睡眠時間の短縮や中途覚醒時間や入眠潜時の延長、睡眠効率の低下がみられます」
──研究参加者は20代の女性ということですが、この年代と他の年代は睡眠に違いはありますか。
折山「加齢とともに深睡眠の減少、浅睡眠の増加、中途覚醒の増加や睡眠効率が低下します。そのため、20代の夜勤経験のない女性を対象としました。特に40代から睡眠の質は低下すると言われています」
夜勤を含む交代勤務の従事者は、社会的な交流が減る、家族への負担が増す、有給休暇が取りにくいなど、規則的な昼勤従事者より、生活の質への悪影響が大きいことが知られているが、体調を崩したり、睡眠の質が悪化したり、メタボリックシンドロームの危険性が増したりするなど、健康面への悪影響も無視できない。
また、折山氏は、今回の研究成果について、夜勤従事者だけでなく、子を産んだばかりの親の睡眠不足による疲労を減らすことにも応用できると言う。ただ、理想的な仮眠のとり方については追加の研究が必要とした。
※:Sanae Oriyama, "Effects of 90- and 30-min naps or a 120-min nap on alertness and performance: reanalysis of an existing pilot study" scientific reports, 13, Article number: 9862, 18, June, 2023