昭和の食文化、のり弁当。 今後の行方は・・・
昭和の象徴、「のり弁当」のこれまで
「のり弁当」といえば、昭和の高度成長に伴い、のりと醤油をまぶしたカツオがご飯にしかれ、当時、安価だったちくわのフライ、魚フライを大胆にのせることでわかりやすくボリューム感を訴求。店舗内オペレーションも簡易であり、パートさん、アルバイトさんでもすぐに出来る。顧客にとっても、片手で持って一気に食べられ、手軽な値段でブルーカラーの心をわしづかみしたのだ。そして瞬く間に、その名をこの世に広めることとなる。機械化、そしてオペレーションもよくよく考えての弁当であり、大量生産の申し子と言える。
しかし今、その「のり弁当」も原料の高騰などから昭和の香りがなくなりつつある。
外食の「牛丼」 中食では「のり弁当」
弁当業界で上位3位以内に君臨するのが「のり弁当」。プレナスでは6か月連続、1位に君臨し続けている(現在2位)。勿論、各社、毎年、商品のブラッシュアップに余念がない。
しかしその一方で原料の高騰が厳しいのも事実。近年、魚のフライについては、02年以降、買い付け輸入が減少に転じている。競争の激化から価格が高騰しているのだ。ちくわの原料となる冷凍すり身では、各社、取扱いに違いがあるにせよ、国内、国外いずれも2008年から減少傾向となっている。ベトナムに焦点をあてると、2008年まで日本向けに製造していたが、タイ、中国、韓国に移行されている。
のり弁当 売上NO3位以内 繰り返される価格競争
とはいえ、不思議なことに売り上げの上位3位以内にランクインされる商品なのに、これまで幾度となく価格競争が繰り広げられていた。
外食で言えば牛丼の低価格化、そして中食では「のり弁当」なのだ。
リーマン・ショック前後、弁当価格は、幾度か、社会状況で翻弄された。なかでもスーパーの弁当の低価格化から「のり弁当」も煽りを受けた。
業界関係者から幾度となく「リーマン・ショックで顧客の買い物動向ががらりと変わった。弁当の低価格は元に戻らないし、ダメージは大きい」との声が聞かれた。しかしリーマン・ショック前後ではなく、低価格化はそれ以前にコンビニが生鮮に力を入れはじめ、危機感をもったスーパーがこぞって低価格化に走り、リーマン・ショックで追い打ちをかけ、価格は戻らず定着してしまったのだ。今はようやく価格が戻りつつあり、200円台といった間違った方針をたてている企業は少なくなった。
リーマン・ショックの2008年前後の2007年そして2009年の「のり弁当」の価格を見てみよう。プレナス、ハークスレイ、オリジン弁当、かまどやを比較してみると、プレナスは、リーマン・ショック後、変化なく2007年、2009年、いずれも290円維持。かまどやも300円で変更をかけていない。ハークスレイでは2007年350円から、2009年290円となり60円引きとなっている。オリジン弁当では、2007年300円から2009年290円に変更している。
2013年から現状まで弁当専門店
2014年、消費税導入が8%に引き上げられた後、4月の動きをみると、前年度より2人以上の世帯の消費支出は前年同月比の4・6%減少となっている。5月では8・8%減となっている(総務省参照)。為替の関係もあり、他社との動向に目が外せない商品として「のり弁当」はあげられてきた。
プレナスでは2012年から、「のり弁当」320円(税込価格)を時間限定(10時から15時まで)で値引きを行っており、50円引きを実施(エリア限定)。現在も平日昼割を行っている。オリジン299円(税込価格)、かまどや300円(税込価格)と同価格、もしくは僅差である。4月導入後、各社の価格が出揃い、それを見計らって、プレナスは、より拍車をかけるべく、1週間期間限定で5月14日まで100円値引きを打って出た。5月8日から14日まで、のり弁当4種類を320円から220円、340円から240円、420円から320円、460円から360円とした(いずれも税込価格)。
これまでも「のり弁当」は、販促の一環として、期間限定で価格の上下動を繰り返されていた。しかしこれほどの大幅な値下げは記憶になく、2014年の消費税の引き上げにより、「他社の追随を許さない」という意気込みが感じられた。人気NO1である「のり弁当」で客数を増やし、夕方以降は高単価の「幕の内弁当」で客単をアップする狙いもあった。大胆な価格を打ち出すには、それなりの商品力、綿密に練られた価格設定があってこそ、「のり弁当を買いに行こう」という来店動機につながると考えられた。
多くの場合、追随する形で1週間後、ハークスレイは320円(税込価格)の「のり弁当」にから揚げを追加し販売。後発での参戦は、インパクトに欠け、かまどや、オリジン弁当は参戦せず、静観状態であった。
苦戦する弁当業態
さて長くなったが、今、弁当業態は苦戦状態が続いている。大きな要因として弁当そのものの顧客のニーズではないだろうか。
嘗てのように「ボリューム」ということで訴求することも難しく、企業側の決めたおかずに顧客は満足しなくなっているのかもしれない。
そしてスーパーも含め、あらゆる業態で、今、「のり弁当」の対比として「幕の内弁当」もクローズアップされなくなっている。中食の弁当価格設定が500円までが多い中、「幕の内弁当」はその価格設定内では難しく、「のり弁当」についてもすべての食材が高騰し、過去の手法、昼は「のり弁当」で大量販売、夜は「幕の内弁当」では通用しなくなっている。
現在(2019年1月31日)の各社の「のり弁当」の価格について
ほっかほっか弁当 税込み360円
ほっともっと 税込み300円
かまどや 税込み300円
オリジン弁当 税込み320円
となっている。
ちなみに幕の内弁当はオリジン550円、ほっともっとはジャスト500円となっている。
今後
昭和、そして平成も終わりに近づこうとしている。
「のり弁当」は片手で持って食べられ、注文されたのち、さっとフライを揚げてポンとのりの付いたごはんにのっける。和ののりとは一見、相反するフライ、そしてソースで頂く。ちくわも衣には青のりが付いていて、それを口にほおばると香りが広がる。これまでの弁当の概念を崩す商品ですぐに提供でき極めて優れた商品といえた。もちろん価格も然り。
さて今年は消費税が引き上げられ、軽減税率もあって、イートインなどを考えると、昭和の香りがする「のり弁当」がどのような立ち位置になるのか興味深いところだ。