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【PC遠隔操作事件】「事件は『ツリ』でした」(第14回公判傍聴メモより)

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

【犯行声明メールについて】

――平成24年10月9日と10日の2回送っているが、宛先は?

1回目はある弁護士宛てに、2回目はその弁護士が出演している時間帯にラジオ番組に。

――そこで事件の目的はなんと書いた?

警察と検察をはめてやりたかった、と。

――それは本当の目的か。

ではない。むしろ世間を騒がすことの方が大きかった。というより、そっちが100%。そう書いたのは、一種のキャラクターづけみたいなもの。ネットでいう「ツリ宣言」でした。

――「ツリ」とは?

人の反応をえることを目的としたもので、嘘や作り話で構成されることが多い。

――犯行声明メールは「ツリ」と?

事件そのものがツリで、メールがツリ宣言。犯行声明メールでツリの仕掛けを説明し、作り話も入れておくことで、そのメールへの憶測で盛り上がる。ツリ宣言であると同時に新しいツリでもある。

――メールで、「ある程度のタイミングで誰かにこの告白を送って、捕まった人たちを助けるつもりだった」とあるが、事件起こす前から、誤認逮捕があった場合は、そのつもりだったのか。

はい。タイミングは未定でしたが、いずれ何らかの行動をしようと、漠然と思っていました。

――10月9日に送ったのはなぜか。

10月に入ってから、遠隔操作の可能性が高い、誤認逮捕の可能性が高く釈放した、という報道があった。新種の謎のウィルスを創ったのは誰かという憶測がいろいろある中、ツリ宣言による燃料投下です。

――ラジオ番組にも送信したのは?

1日経って反応がないので、一応送っておこう、と。ツイッターで、その弁護士がラジオに出ることを知ったので。

――放送中に送ったのは?

ニュースの番組で意見や感想を受け付けていたので、もしかして番組の中で読み上げられるかも、という期待も少しあった。

――2つのメールはまったく同じか。

微妙に違う。10日の報道で初めてiesysという名前が出たので、9日の弁護士宛てのメールでは、「まだ公表されていませんが」と書いたが、10日のメールでは「すでに報道されているように、iesysです」とした。

――ほかには?

9日の段階では、三重と大阪の方を釈放したという報道はあったが、福岡の方はまだ報道されていなかった。それで「福岡の○○さんを助けてあげてください」と書いた。10日になって、福岡の方も釈放されたと報道されたので、10日のメールにはその内容を反映させた。

――事件について事細かに調べているが

Yahoo!のリアルタイム検索で、「遠隔操作」をキーワードに最新の情報を得ていた。

――次々に逮捕者が出ていた時は、どう思っていたのか。

やってしまったというか、成功してしまった、という罪悪感はあったけれど、思うように警察が騙されてくれた満足感があり、手応えを感じていた。

――iesys事件の一人目、Aさんが逮捕されてすぐに犯行声明をしなかったのは?

せっかくなので、警察だけじゃなく、検察がどう反応するのか見てみたかった。起訴するのかしないのか、注目してみていたので、すぐには公表しなかった。

――犯行声明はどこで作成したのか。

自宅です。

――虚偽の自白をさせられた人もいる。その当時の心境は?

やってやったぞ、と。自分がすごくとんでもないことをした認識はある一方で、それを満足に感じる自分もいて、複雑だった。

――最初から報道機関に犯行声明を送らなかったのはなぜか。

新聞やテレビ局は代表電話はあるが、代表メールアドレスはなく、どこに送っていいか分からなかったので、マスコミに送るというのは候補としてなかった。

――警察に送らなかったのは?

下手すると握りつぶされると思った。

――「遊んでくれてありがとう、また遊びましょうね」とあるが、「遊び」とは?

その時点では、全く考えていない。いずれ何らかのやりとりで、たとえばiesysのソースコードを公開するとかの候補はあったが、実際に何をするのかは、全くノープランだった。

――この時点では、警察がどういう捜査をしても自分にたどりつかないと思っていたか。

はい。

――その自信の根拠は?

トーアを使っていて送信元が割れた話は一件も聞いていないので。

【自殺予告メールについて】

――送った理由は?

犯行声明メールの最後に「また遊びましょうね」と、次に何かすることを臭わせていたが、何をするかは固まっていなかった。とりあえずツリ。こういうのを送ったら、警察やマスコミはどう反応するのかな、と思った。

あと11月10日ころに、「犯人が致命的なミスか」という報道があった。2ちゃんねるへの書き込みはシベリア掲示板経由でやっていたが、1回だけシベリアを経由しないで直接書き込まれたものがあって、それは犯人がミスしたんだ、というものだった。

――ミスだったのか。

この時もトーアは使っていた。トーアを使うと、シベリア経由以外は書き込めないが、たまにトーアの出口ノードの割り当てによっては、まれに2ちゃんねるに書き込み可能なことがある。その時にたまたま書き込みが可能だったというだけ。

――ミスしたのではとの不安は?

ありません。

――なのに自殺予告をしたのは?

ミスしたという報道につられた形で、それに反応するメールを送ってやろうと。ミスしました、自殺しますと送ったら、どう反応するだろう、と。

――画像をつけたのは?

自殺予告メールに添付された画像
自殺予告メールに添付された画像

なんとなく、文章だけじゃなくて画像もつければ沸き立つのでは、と。(見る人は)アニメキャラの意味を調べるでしょうし。マスコミに出てくる、自称専門家という人がどう反応するか、と思った。私はアニメには興味はなく、たまたまあの人形を持っていただけなのに、「フィギュア萌え族だ」とか「アニメおたくだ」とかプロファイリングして、「あー、つられてる」と。犯人がどういう人物なのかミスリードさせるのが目的だった。

――画像に改変は?

画像自体の改変はないがexif情報に手を加えた。

――新聞紙を使ったのは?

自宅の床を隠したかったから。紙なら何でもよかった。万が一警察が来た場合、自宅のフローリングと一致すると言われないように。あと、神奈川新聞を手に入れられる範囲に住んでいる人じゃないかとミスリードさせることもあった。

――どこで入手したか。

職場の帰りに武蔵小杉駅の中のコンビニで。ふだんは、東京都内だけを通って通っていたが、南武線で神奈川県を経由する方法を調べたら、武蔵小杉駅経由が一番早いと分かったので。

――メールに使う用語をネットでいろいろ検索しているのは?

文面作成するため。

――自宅PCはデータの消去可能だが、勤務先でも検索していたのは?

自分にたどり着くことはないと油断していたので、深く考えることなく検索してしまった。パソコンの中には残らない配慮はしていたが、プロキシサーバかかっていることは知っていたのに、配慮がかけていた。

【雲取山について】

――雲取山山頂にUSBメモリを埋めるのはいつ頃から考えていたか。

自殺予告メールを送って、ちょっとしてから次の行動として、年が明けてすぐに謹賀新年メールを送ることを考え、そこで前々から考えていたソースコードを公表しようと思った。ただ添付するのではつまらないので、クイズ形式にして、景品として贈られるようにしたらおもしろい、ネットの中ではなく、現実社会のどこかにしたら斬新だろう、と。登山が趣味で雲取山に登ろうと思っていたこともある。普通の人が普通に取りに行くのは難しい場所に埋めておくのが面白いだろう、と思った。

――自殺予告メールの後、どれくらいでそう考えたか。

1週間くらいしてから。

――元日に狙いをつけたのは?

「今から死にます、さようなら」と言った人がいきなり「あけましておめでとうございます」と言ったらインパクトがあるだろう、と。山の頂上を指定したので、マスコミ各社が登山競走するんじゃないか、「うちの局が」「うちの社が」とこぞって雲取山に集まるのではないか、と期待した。

――人に埋めるところを見られるとは思わなかったのか。

一応考えたが、12月初旬は日が短いので日帰り登山は少ないだろう、と。朝6時に上り始め、昼前には山頂につくのであまり人はいないだろうと思った。

――準備した道具は?

USBメモリ、ビニール袋2つ、園芸用スコップと軍手です。

――軍手はいくつ買ったのか

3セット100円だったので、3双です。

――USBメモリはどこで?

新宿のソフマップ。

――スコップは?

職場近くの100円ショップ。30センチくらいの片手で持てる小さなもの。金属製で、黄色く塗られていた。

――ビニル袋2種類とは?

片方はジッパーが青、片方はピンク。

――どこで買った?

青は職場近くの100円ショップ、ピンクは自宅近くのスーパーです。

――同じ場所で買わなかったのは?

特に意味はない。100円ショップのがペラペラで頼りなかったので、もう1つ買った。――軍手は何のため?

登山で手を保護するのと、あとは指紋やDNAをつけないように。

――DNA検出されない配慮をしたのか。

購入する時からビニル袋に包まれている軍手を買って、USBメモリを扱う時には新品の軍手を使った。

――丙社の勤務はどうだったか。

仕事はますますプログラムが読めない、書けない、不調が続いていて、悩んでいた。このままでは迷惑がかかるので、来週にでも休職を申し出よう、と思っていた。

――12月1日の時点では休職は決意していたのか。

上司に説明して認めてもらえればいいな、と思った。ただ、そのためには仕事が報告のように進んでいないことも打ち明けないといけない、打ち明けたら怒られるかなと、それも悩んでいた。

――この時の状態は?

違う自分がいるようだった。仕事は不調なのに、レジャーや犯罪に関わる行為は調子がいい。違う自分が同居しているようだった。

――11月30日に丙社の仕事を終えてから夜の内に車で移動した。

はい。

――宿泊は?

奥多摩湖北側の駐車場に止めて車中泊。

――山荘に宿泊しなかったのは?

日帰りで行こうと思っていた。上で宿泊すると名前を書かなきゃいけない。山荘の人や他の登山客の記憶に残るのもよくない。

――翌朝は?

5時半頃に起きて、車を運転して登山口まで移動し、6時頃から上り始めた。

――ルートは?

鴨沢ルート。

――七つ石山は?

山頂を通る方を選択した。単純に登山を楽しむためにも行っているので、せっかくだから途中の山にも登ろう、と。

――USBメモリはどのように?

ビニル袋、ダイソーの青いジッパーのに入れて、それをジップロックに入れ、さらにジップロックに入れて3重の状態で運んだ。

――なぜ?

埋めるには二重にしておいた方がいいかな、保護になるかなと思った。さらに外側のジップロックは指紋やDNAをつけないため。

――途中で人に会ったか。

七つ石山のところの小屋のトイレを借りた時に管理人と言葉を交わしたが、他には人に会わなかった。

――どんな気持ちだったか。

趣味として登山を楽しむ気持ちと、あとはお宝を隠してやるというので、通常の登山の楽しみが2倍になってワクワク感があった。

――山頂に着いたのは?

10時40分頃。

――他に人は?

1人もいません。

――山頂の滞在時間は?

40~50分。

――1人でいたのは?

最初の5分くらいのみ。

――あとは他の人がいた?

はい。

――以前、山頂で1人になったことはないと言っていたが。

嘘でした。

――山頂に着いて何をしたか。

急いで荷物を下ろし、スコップとUSBメモリを取り出し、埋める場所を探しました。

――最初はどこに埋めようと?

山頂として注目される標識があって、そこにうめようかなと思って根元の地面を掘ろうとしたが、固くて歯が立たなかった。他の場所も何カ所か試してみたが固かった。三角点だけ土質が違って、そこだけは浅くですが掘ることができた。

――掘るのに要した時間。

5分もかかっていない。人がいない間にすませました。

――その後どうした。

この時点ではビニル袋は二重になっていた
この時点ではビニル袋は二重になっていた

小さい穴だが、埋められる程度には掘ったので、いわゆるUSB写真を撮影しました。撮り終えて、これから埋めようと思ったら、左の方から人が来るのが見えたので、作業を中止してスコップを隠し「こんにちは」と挨拶しました。

――穴は隠さなかったのか。

これだけ小さい穴なので、自然にできていてもおかしくない。不思議には思われないだろうと思い、隠しませんでした。

――USBメモリを埋めるタイミングはどうしたのか。

しばらく山頂で景色を見ながら人が減るのを待っていた。粉雪が降ってきて、人が減ってきて、3人くらいになった。それまで自分の足下に穴がくるようにして、三角点に腰掛けていた。穴がここに来るようにしていた(と、自分が座っている椅子を引いて、足の間を指さす)。誰もこっちを向いてない時に、埋めて、スコップを使わず、足だけで土をかぶせて埋めた。それから、「このへん写真」に相当する写真を撮影した。

――どんな気持ちだったか。

人が予想より多くて大変だったけど、なんとか隠すことができたという達成感を感じた。

――他の人はどうしていたか。

景色を見たり、鍋を出して調理したり、私がシャッター押しを頼まれて押してあげたりした。

――埋めた後はどうしたか。

急ぎはしなかったが、荷物をまとめて下りた。

――使った道具はどうした?

スコップは登山道から投げ捨てた。軍手は自宅で捨てた。

――家族には、雲取山に行くことを話したか。

母には、奥多摩の自然歩道を歩いてくるとだけ言った。登山というと、心配性なので遭難の心配をするので、気遣ったのと、これから大きなことを起こそうとしている雲取山を母に言いたくはなかった。

――山頂で写真を撮った機材は?

富士フイルムのファインピックスというデジカメです。

――埋める前の写真を撮った時に、ビニル袋は?

二重です。

――どうして、二重のまま埋めなかったのか。

これだけ小さい浅い穴では、二重のまま埋めようとすると、ビニル袋がはね上がって、土をかけても見えてしまうかもと思い、仕方なく二重は諦めてぺらぺらの100円ショップの袋だけで埋めることにした。

――弁護団は、5月16日に警察が発見したものはジッパーが青であり、これは合成写真ではないか、と主張したが。

うまい具合に、都合のいい筋書きを考えてくれたな、と。

――その時のカメラは?

タイ旅行に行ったときに紛失してしまった

――USBメモリの写真は加工したか。

修正しました。もっと広角で、三角点全体が写るように撮っていた。その再、明るさのホワイトバランスが白い石に合ってしまっていたので、土が少し見えづらい状態だった。明るさ調整のフィルタをかけて、地面を少し明るくする修正を行った。あと、ビニル袋の真ん中にジップロックのロゴがあったので、フォトショップで消した。

自分で撮った写真には雪の粒が写っていたので、ヤマレコの写真を勝手に拝借した
自分で撮った写真には雪の粒が写っていたので、ヤマレコの写真を勝手に拝借した

――「このへん」写真はなぜ自分で撮ったものを使わなかったのか。

下山してから気がついたのですが、途中で粉雪が降ってきて、白い雪の粒が写り込んでしまっていた。メールの設定は10月下旬に仕込んだことにしたかったので、雪が写っているのはまずい。10月に登った人の写真を使わせてもらった。

――なぜ10月にしたかったのか。

犯行声明で「また遊びましょう」と思わせぶりなことを書いたので、その直後からこういうことを計画していたんだぞ、という設定をしたから。自分は10月には行ってないんだから、犯人ではない、というのもあった。

――ヤマレコの写真をそのまま使ったのか。

そのまま使うとグーグル検索で同じ画像を探されてヤマレコの写真とバレてしまうので、微妙に回転させて使った。

――警察の動きはどうチェックしたか。

ネットニュースやテレビで。

――報道を見て、どう思った?

テレビで雲取山を上空から映していた。警察の人がツルハシを使っているのを見て、「やってるな」と思った。自分としては、マスコミ各社が登山口から競って登山することを想定していたので、ヘリを使ってずるいな~とも思った。

――発見されなかった、と聞いて。

あれ、おかしいな、と。本当は発見したのに見つからなかったと発表していることもチラッと考えたが、1ヵ月放置したので土が浸食されて飛ばされたのかと思った。

――弁護人は、最初からここには埋めておらず、犯人は警察を江の島に導いた、と主張していたが。

都合のいいように推測してくれるな、と。

――5月16日に発見されたと聞いて、どう思ったか。

あれ、あったんだー、と。犯人が後になってから仕掛けたという絵が描けるなーと思った。

――5月16日の発見は変だと思うか。

やはり少し不自然だと思う。あれだけマスコミに流れたので、登山客が何人も掘ったと思う。他の人が探しても見つからないのに、警察が行ったらすぐ出てきたというのは不自然。もしかしたら、本当は他の誰かが発見し、連絡したものを、さも警察が見つけたかのような体裁をとることにした、とも考えられる。あつらえたように立会人が登場し、調書も作っているところに、作為的なものを感じている。

【謹賀新年メールについて】

――5つのクイズはいつ頃つくったのか

12月5日に休職が決まってから、12月中頃タイ旅行に出発するまでの間に

――5つにしたのは?

多すぎず、少なすぎず、で。多すぎてもしつこいし、少ないとすぐ解かれてしまうし。

――最初はトンチャモンとメルディの絵の間にハングルとメルニクス語が書いてある。

あれはトンチャムではない。ウィキペディアのページを調べると分かるように、トンチャムはドラえもんと見分けがつかない。多くの人がトンチャムと思っているものはどこかの新聞社が想像で書いたものらしい。

――なぜこの組み合わせに?

単純に奇抜な組み合わせにしたら、「何、これ?」と物議をかもすと思った

――Q2には破損した多数のファイルが出てくる。 

破損ではなく、PNG画像。モーニング娘。の画像です。

――LoveMachineを使うが、これをいつ知ったか?

昔、高校生の頃、WAREZという違法コピーのソフトをやりとりするコミュニティがあり、ファイルを分割し、画像に偽装してやりとりする文化があり、その時に使われていたのがラブマシーンだった。

――なぜLovemachineを使ったのか

今は違法コピーのやりとりは、ウィニーに代表されるファイル交換ソフトが使われる。それ以前の人しかLoveMachineは知らない。十何年も前から明るい人でないと分からない。マニアックさを出して、問題を解くのを難しくした。

――Q3で詰め将棋を使ったのは?

これまでアニメフィギュアを使ったりゲームキャラクターやアイドルの画像を使って、サブカルチャー、オタク文化に思い入れがある犯人ではと思わせておいて、将棋という伝統的で高尚な趣味を出すことで、犯人は何が好きなのかな?と思わせる。山に仕掛けたのも、おたくだ、インドアだと思わせて、いやアウトドアだと混乱させるのも目的。テレビに出てくる専門家が的外れなことを言うのをニヤニヤしながら眺めるのが、描いた絵だった。

――どこでこの問題を入手?

図書館に行って、「将棋世界」のバックナンバーの中で一番古いものから、詰め将棋の問題をコピーした。

――Q4で音声ファイルに「gyakku」というファイル名をつけているが。

逆再生しろというヒント。ニコニコで普通の音楽を逆再生すると変に聞こえるのが流行ったことがある。

――警察庁長官の氏名をパスワードにすることにしたのは?

事件で、警察庁長官が記者会見に登場した。真犯人である自分としては、戦う相手であるというのがあり、挑発するようなつもりだった。

――警察に反感は?

特にない。

――実際に警察が動き出すまでにどれくらいかかると考えていたか

2、3日くらいかかるだろう、と

実際には、メールを送ってすぐ寝て、朝起きたら解読されていた。思ったより早かったな、と。

【ラストメッセージについて】

――なぜ隠しボリュームにして、USBメモリに入れたキーファイルによる復号という複雑な形にしたのか。

ラストメッセージそのものが景品。USBメモリに入れて隠すことも考えたが、あの時点で書くより、ちょうど一ヶ月あるので、事件に進展があるかもしれないので、記者からの質問もあったので、最新の情報を反映させたうえで送りたかった。

――文章を作成したのは?

12月下旬になってから。12月22、23日は居合いの合宿があり、29日から31日にかけて静岡の友人の所に行っていて、その間に書いた。

――なぜ記者からの質問に答えようと?

世間的にあそこがナゾだと言われていることに、虚実織り交ぜながら、さらなるツリを仕掛けるという犯人としての行動をしたかった。

――なぜ真実と虚偽を織り交ぜたのか

完全に真実だけだと自分にたどり着くかもしれないというのはあったが、大きかったのはツリ。真犯人というキャラクターの創作です。マスコミやネット住民の反応が見てみたかった。犯人像にかかわる部分は嘘が混じっているが、それ以外はおおむね真実です。

――警察への復讐、とあるが。

真実ではない。確かに昔の事件で逮捕されたが、取調官とはおおむね仲がよく、ネガティブな感情は持っていない。

――誰かに恨みがあるのか?

昔の刑務所の体験で、最初の3人の刑務官には恨みがある。刑務所がどういう所か理解せず、実刑判決を出した裁判官にも、正直、恨みがあった。

――自白偏重や代用監獄などという言葉が書いてあるが。

冤罪ものの映画などを見て、現代の刑事司法の問題はそういうことなのか、と思った。犯人のキャラクター設定で、自分もその被害者なんです、と設定した。

――先に償いをさせられた人間は、事件を起こしていいという論を展開しているが。

キャラクターとして矛盾しないような小説的な意図で書いた。自分とはずれた所にいる新犯人像を創作した。

――あなたに正当化できる理由があるのか。

倫理的には間違っているが、昔刑務所で酷い目に遭った。刑罰の範囲を超えていた。そのために性格が壊された。破綻した人格の人間になったという意識はあって、ほんの少しだけ本心も入っている。被告人の病状を考慮して量刑を決めたとあったが、実際に刑務所に行って、「これでは余計に悪くなる。病状を考慮したなら、執行猶予だろう」と思った。昔の事件で執行猶予がついていたら、今回の事件もなかったと思っている。

――この時点で逮捕を考えたか。

少し不安はあったが、逮捕されることは想像していなかった。主要な所はトーアをつかって、(痕跡も)消すべきところは消しているので大丈夫だろう、と。

――iesysはある程度の能力があれば簡単にできるものか。

簡単かどうかは分からないが、作り方分かれば、技術的にはそれほどでもなく、アイデア力があったのかなというのが自己評価。

――警察や検察は、もっと人の話を聞く姿勢があれば、誤認逮捕は起きないと書いてあるが。

はい。まず横浜のCSRFでは、神奈川県警の反省文にもあったように、白にする捜査もして話をちゃんと聞いていれば、なかったと思う。

大阪のAさんと愛知のBさんは、明らかに不自然な仕込みをしておいた。本名での書き込みとか本人が使ったのではないブラウザを使うとか。本人の話を聞いていれば、防げたのではないか。

――FBIの捜査協力とか百人以上の捜査員での捜査はどう感じていたのか。

脅威に感じていた。もうやめないと捕まってしまうと思っているのに、止められない自分がいる。自分の中に、もう一人の自分がいる感じ。

――『先に償いをさせられた人間はその分の犯罪を犯してもいい』という時論を展開したのは?

中二病にかかったようなキャラクターを創作したかった。

――中二病とは?

漫画やアニメの影響を受けて、かっこよさそうな言葉を使いたがる人のこと。

――ラストメッセージで「私が『負け犬』から復帰するためのリベンジ」とか、自分のことを「壊れている」と言い、「私を壊したのは奴らだ」とも書いてある。それはあなたの気持ちでもあるのか。

創作したキャラクターでありながら、ちょっとだけ本心でもある。刑務所で酷い目にあって壊れてしまったという思いがある。社会のシステムに対する不満は、動機の一つかな、と思う。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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