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マラソン日本代表・大迫傑が米国からZoomで激白!「来年、東京五輪がなくても“次”の目標を狙うだけ」

山口一臣THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)
今年の東京マラソンで自らの日本記録を再更新した大迫傑選手(ナイキ)(写真:つのだよしお/アフロ)

 本来なら、東京はいまごろ来週開幕のオリンピックに向けて盛り上がっていたことだろう。だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今年3月、とりあえず1年の延期が決まった。各国の代表選手に選ばれたトップアスリートはさぞや落ち込み、モチベーション維持に苦労しているのではないかと思っていたが、意外とそうでもない人がいた。

 大迫傑(ナイキ:29歳)―――。思い出しただけでも胸が熱くなる。昨年9月、マラソン日本代表選考レースのMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)では3位(暫定代表)の成績に終わったが、今年3月に行われた東京マラソンでは、東京オリンピック向けに開発された“ナイキの厚底”の最新モデル「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト」を履いて、自身の持つ日本記録を21秒更新する2時間5分29秒(日本人1位、総合4位)で、「男子マラソン日本代表」の座を確実にした。

【参考記事】大迫傑選手の東京マラソン2020回顧 新しいマラソン大会の構想も語る

 そんな大迫選手が、“本番”を1年後に控えたいま、何を考え、どんなことに取り組んでいるのか。ナイキ本社のある米オレゴン州ポートランドから日本時間の7月16日午前10時(オレゴン15日午後6時)からZoomによる共同インタビューに応じた。大迫選手はそこで、東京マラソンに対する淡々とした思いとともに、“チーム日本”が世界と戦える集団をつくる構想を明らかにした!

 以下、大迫選手との一問一答である(太字は大迫選手の発言)―――。

Zoomを通じてインタビューに応じる大迫選手/画像提供:株式会社アミューズ
Zoomを通じてインタビューに応じる大迫選手/画像提供:株式会社アミューズ

 オリンピック1年前ということで、自分自身の気持ちだったりとか、このコロナの期間、どう過ごしてきたかといった部分を話していきたいと思います。

 1年前ということですが、3月末、オリンピックの延期が決まった段階で、僕の場合はある程度、切り替えは早くできていました。

 ひとつは、東京マラソンの後、オリンピックまで3カ月~4カ月と期間が短かったので、(延期によって)時間がとれたというのと、しっかり練習できるなという思いがありました。

 今回、こういう形でいろいろ考える時間ができたことで、ウィズアスリーツ(※1)とか、僕自身のシュガーエリート(後述)というアイディアにもつながったので、僕としては延期になったことでよかったとは言えないですが、プラスにできたことが多かったと思っています。

 ―――アメリカは感染が広がっていると伝えられていますが、暮らしや、練習で気をつけていることは?

 ポートランドといっても少し郊外、ダウンタウンから車で20分くらいのところに住んでいるので、そんなに怖さを感じるということは正直なところないですね。

 生活に関しても、アメリカにいる期間はコロナ前と今とで、そんなに変わっていないと感じています。というのも、普段から必要以上の外出はしていませんし、練習も一人でやることが多かったりとか、あっても少人数で集まってやるという感じなので……。

 気をつけることでいえば、屋内ではマスクをするとか、手洗いはもちろんですが、スーパーに行くときはマスクだけじゃなくてソーシャルディスタンスにも気を配るようになったりしたり。でも、そのくらい。なので、あまりストレスは感じていないです。

  ―――練習への影響は?

 そこはほとんどないですね。トレッドミル(ランニングマシン)が自宅にもありますし、自分自身のことで言うと、これから上げていく段階、要はトレーニングを始めていく段階で(アメリカに)帰って来られたので、そんなに焦る必要がなかった。ちょうどいいタイミングでチームメートと練習を始めることができた。そういう形だったので、コロナのせいで練習がおろそかになったということはなかったと思います。

 ―――世界の主要なマラソン開催が全般に不透明になっています。オリンピックに向けてもう1本走りたいといった意向は?

 いまの段階で申し上げることはないですね。今後、どうなるかわからないし。状況を見ながら決めていけたらと思っています。走れたら走れたでいいのかもしれないですが、走れなかったら走れなかったで、それに応じた準備をするだけなので。とくに自分としての希望は考えていない状態です。

 インタビュー前日の15日、大迫選手はツイッターで〈大迫傑が大学の枠を超え、世界で戦う為に強さを求める選手が集まるチーム@elite_sugar発足いたします〉と発表していた。その第一弾として、8月17日~24日に少人数での短期合宿を行うという。「シュガー・エリート」、いったいどんな構想なのか?

 ―――大学生とのキャンプについての企画が発表されました。これについても聞かせてもらえますか?

 はい。「シュガー・エリート」という名称で大学生に向けての強化チームをつくる計画です。なぜかというと、強さを求めるには、所属に関係なく集まるべきではないかという考えがあります。僕自身、大学時代に早稲田大学に所属していましたけど、本当に3年目、4年目というのは練習相手に困った経験があります。所属を超えて強い選手が集まるチームがあれば、より世界をめざすために近道になるんじゃないかという思いで走り出しました。

 ―――それは、自分自身に対する刺激を求めてという面もある?

 というよりも、本当に単純に僕の力だけでは世界と戦うっていうのは限界がある。それをアメリカに来てから痛感したので、あまりそこにこだわり過ぎてもいけないのですが、やはり日本人として、「チーム日本」を世界と戦える集団にしたいという思いが出てきた。それは、いままで日本になかったし、それをできるのは僕なんじゃないかと……。

 ―――それにしても、現役のエリート選手が指導に当たるというのは非常に珍しいことですし、なぜオリンピック前のこの時期なのか疑問があります。一般人の考えでは、オリンピックに専念すべきではないかと思うのですが……?

 そうですね。指導するということも大切ですが、それ以上に重要なのが姿勢を見せる、背中を見せることだと思っています。背中を見せるというのは、引退後にはできないし、やっぱりこのコロナの影響でオリンピックが延びたいま、僕らトップアスリートたちがどういう姿勢でどういうふうに競技に取り組んでいくかというところを、若い選手たちに知ってもらいたい。

MGCでは3位に終わった……/画像提供:NIKE
MGCでは3位に終わった……/画像提供:NIKE

 自分にとっての集大成としての東京オリンピックというのがあるので、そこに向けての激しいトレーニングというのはどういうことなのか。後輩選手に、大迫選手ってここまで練習しているんだということを知ってもらったり、自分ならもっとこうできるなっていうところを基準にしてもらいたいって思うんです。それはやはり引退してからだと僕自身は無理だと思っているので、いましかできない。そこが大事だと思っています。それは、やはり東京オリンピック前でなければということで計画しました。

 ―――参加する選手にも、大迫さんのところに行けば強くなれるというような安易な考え方で来てもらっては困るということですか?

 そうですね。もちろん、僕から与えられることも多いと思うので、そこはキャンプの中で、1週間の中で教えられることは少ないと思うのですが、その1週間の中で教えられることをしっかりと伝えて、後は、先ほど言ったとおり、姿勢を伝えるというか、意識的な部分を教えていくというか、ちょっと言い方が難しいですけど……。

 ―――日本的な、中学、高校、大学といった枠組みの中で強くなっていくというやり方について、何かこう変革したいとか、疑問などはありますか?

 それはまったくなくて、ただ、いままでなかったことが不思議なくらい。大学としても実業団としても、ここまでうまく機能しているチームがあって、でも誰もその先を目指す集団をつくろうとしていなかった。それを、つくってもいいと思ったんですね。大学とか実業団に対して疑問があるということではなくて、一緒に協力し合って、一緒に強くしていこうよ、という考えなんです。

 ―――これまでもアメリカ以外の国でも高地トレーニングなどをしていたと思いますが、コロナの影響で移動が難しい。今後のトレーニングプランへの影響は?

 それに関しては行けるところに行って、やれることをやるということで、ケースバイケースで対応することになると思います。走るという競技は高地でなくてもできるので、その辺はストレスも感じていないし、予定もそんなに決まっていないので……。

―――シュガーエリートの名前の由来は?

 ひとつは、僕自身がアメリカでニックネームとして、「すぐる」というのが言いにくいので、「シュガー」って呼ばれていることと、もうひとつ「シュガー」は、悔しい時に出る言葉なんですね。汚い言葉としてじゃなくて、きれいな言葉として。調べたら出てきたんです

 そう考えると、自分自身の競技生活にピッタリの言葉だなと思いました。僕自身がアメリカに来て、悔しい思いだとか、うまくいかないことなどを経験してきた。それがあったからこそ、いまの自分自身があるし、これからの若い選手たちにも、そういう思い、強さに対してのフラストレーションがたまっているというか、常に飢えている状態とか、悔しい思いをしていること、そのエネルギーを強さに変えていこう、一緒に、世界に対して、そのエネルギーと闘っていこうという思いがあります。

 ―――東京オリンピックは大迫選手にとってどういう位置づけですか?

 大きな目標のひとつではあるし、自分の年齢からしてもあぶらの乗った時に迎えられる大会だということがひとつ。先ほど「集大成」と言いましたが、集大成のひとつとして狙うべき大会なんじゃないかと思っています。

 ただ、こればっかりはコロナの影響があって、来年あるのかどうかもわからない。ただ単に、それがなくなれば次の目標を狙っていくというだけなので、何としても開催してほしいという思いは、まあないことはないけど(笑)、そこまで強くはないです。なければまた別の目標に向かって自分の価値を上げていく、それだけですね。

 ―――コロナの影響下でこういう姿を見せたいという思いは……。

 そこまでイメージは湧いてないですね。僕らがいま見せられることがあるとしたら、こういう状況下でもしっかり努力を続けることとか、できた時間で違うこと、ウイズアスリーツもそうですし、シュガーエリートもそうですし、そういう後輩のために動いていくこと、そういうことを見せていけたらと思います。

 ―――東京オリンピックに向けての目標などあれば……。

 まだあと1年あるので、とくにないですね。ある(開催される)ことを前提にしっかり努力を続けていく、淡々とやっていくしかないと思っています。ただ、まだそこに向けて明確な目標を立てる段階ではありません。

 ―――東京オリンピックが延期されたことに関するプラスとマイナスは?

 まず、かなり時間が増えたというか、より考える時間が増えたことで、ウィズアスリーツとかシュガーエリートとか、何か新しいことに挑戦しようかなという思いが出てきました。それが延期になったことのプラスというとおかしいけれど、でも僕にとってはこの期間、いまもそうですけど、価値ある時間になっているとすごく感じます。

 ―――刺激を受けた人はいますか?

 特定の人というより、いろんな選手がいます。例えばウィズアスリーツで一緒にやっている寺田(明日香)選手(パソナグループ)とか桐生祥秀選手(日本生命)とか、同じようなことを考えている選手がすごく多いなと……。そういう選手たちに負けないというか、自分も一緒になって考えていきたいという思いが出てきたのは事実です。

 来年(オリンピックが)あるかどうかわからないという部分はマイナスかもしれませんが、延期したということ自体に対しては、個人的な意見ですがマイナスは思い当たらないなと思っています。

大迫選手が日本新記録を叩き出した“ナイキの厚底”最新モデル。見るからに速そうだ/画像提供:NIKE
大迫選手が日本新記録を叩き出した“ナイキの厚底”最新モデル。見るからに速そうだ/画像提供:NIKE

 ――――最後にシューズについてうかがいたいのですが、アルファフライのローンチからは5カ月経って、日々の練習でも使っていると思いますが、改めて前モデルのヴェイパーフライとの違いなどありましたら……。

 大きく変わった点としては前足部にエアが入ったことで多少重くなった感じはするんですが、実際に走って慣れると、重さは気にならなくなります。逆に、エアが入ったことでより反発性が上がったという印象はすごく受けました。

 よく、走り方を変えたんじゃない?って聞かれるんですが、そこまで大きく変える必要はないと思っています。走る中でちょっと重心の位置が変わったとか、外側接地だったのがちょっと内側になったなとか、そういう感覚があるくらいですね。

 初めて履いたときに、ちゃんとエアを使うような走りができる位置を探したというか、そういうのはありました。ただ、(本番用のシューズなので)練習では、正直まだそんなに履いていないんですよ。練習では(ナイキの)フリーとかペガサスとか、筋力を高めることができるシューズを意識して使うようにしています。

【参考記事】「フルマラソン2時間切り」達成時のシューズ 業界騒然のナイキ「アルファフライ」、ついに市販へ#シューズ

 これからも、マラソン日本記録保持者として日本の陸上界をリードしようとする大迫選手から目が離せそうにない!

※ウィズ・アスリーツ・プロジェクト=大迫、桐生、寺田の陸上各選手がインターハイ中止となった高校陸上選手のために立ち上げた支援プロジェクト「日本生命 高校陸上ウィズ・アスリーツ・プロジェクト」

THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)

1961年東京生まれ。ランナー&ゴルファー(フルマラソンの自己ベストは3時間41分19秒)。早稲田大学第一文学部卒、週刊ゴルフダイジェスト記者を経て朝日新聞社へ中途入社。週刊朝日記者として9.11テロを、同誌編集長として3.11大震災を取材する。週刊誌歴約30年。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。2016年11月末で朝日新聞社を退職し、東京・新橋で株式会社POWER NEWSを起業。政治、経済、事件、ランニングのほか、最近は新技術や技術系ベンチャーの取材にハマっている。ほか、公益社団法人日本ジャーナリスト協会運営委員、宣伝会議「編集ライター養成講座」専任講師など。

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