【Jリーグ判定検証】オフサイド誤審の背景とは? 現代ルールが複雑化する理由は”お母さん”?
『2017 第4回JFAレフェリーブリーフィング』では、J1第14~18節、J2第17~22節、J3第11~16節で起きた事象について、レフェリングの説明が行われた。
今回は『オフサイド』、『遅延行為』、『アドバンテージ』の3点について。
プレーをしたのはオフサイドポジションにいた選手?
ひとつめはJ2第21節の京都サンガ対ザスパクサツ群馬、後半41分のシーン。
群馬のMF松下裕樹が蹴ったフリーキックから、FW盛田剛平がヘディングでゴールネットを揺らす。しかし、副審の旗が上がり、オフサイドでゴールは取り消された。この判定は妥当だったのか? 審判委員会の副委員長、上川徹氏は次のように説明した。
「これも残念な判定でした。オフサイドポジションに1人いますが、シュートを決めたのはオンサイドの選手(盛田)です。オフサイドポジションにいた選手(一柳夢吾)は、誰に対しても妨害をしていません。近くに守備側の選手がいますが、自分から(一柳のほうへ)動いただけ。これは妨害とは考えません。GKに何か影響を与えたとも考えられません。もう少し副審として、(判断を)ウェイトするべきです。ボールが近くに来ただけで急いで判断してしまいました」
オフサイドポジションの判定と、その選手がプレーをしてオフサイドの適用対象者と認められるまでには、タイムラグがあるところがポイントだ。副審はオフサイドの選手と、オンサイドの選手を切り分けつつ、次のプレーを冷静に見守る必要がある。
正しい得点が取り消される誤審になってしまった。試合結果を左右する判定だけに、副審は自分が持っている情報を主審に伝えて、共有する時間を作っても良かったのかもしれない。
次のシーンは、J2第22節ジェフ千葉対カマタマーレ讃岐の前半13分。千葉はフリーキックのこぼれ球から、MF羽生直剛がミドルシュートでゴールをねらった。これは讃岐のGK清水健太にセーブされたが、こぼれ球をFWラリベイが押し込み、ゴールネットを揺らした。讃岐の選手はオフサイドを主張したが、ゴールは認められている。この判定は妥当だったのか?
「GKのセーブは意図的なプレーではありますが、意図的とは考えません。跳ね返ったボールをシュートしても、これは最初に(羽生が)蹴った瞬間に、どこにいるのかを判断しながら、オフサイドポジションにいた選手がプレーをしたなら、オフサイドは適用されると判断します」(上川氏)
つまり、千葉の羽生がミドルシュートを打った瞬間、ラリベイはオフサイドポジションにいた。そのラリベイがGKのセーブしたボールを押し込んだ場合、オフサイドが適用されなければならない。ゴールを認めたのは誤審。本来はオフサイドで取り消されるべきゴールだった。
また、羽生のミドルシュートに対して、千葉の選手がGKの手前で頭にかすらせているようにも見えるが、仮にこれが触れたとしても、ラリベイはその時点でもオフサイドポジションにいる。いずれにせよ、オフサイドの適用が妥当なシーンだった。
しかし、なぜ、このオフサイドを副審は見極められなかったのか?
「副審はその選手(ラリベイ)が、大きく(集団から)外に出たので、除外してしまいました。真ん中にいた千葉の3人の選手にフォーカスしました。しかし、最後の瞬間、ラリベイがいるのに気付いたが、同じぐらいのラインにいたものと思ってしまった。やはり、除外してしまったことがいちばんの問題です」
たしかに、ラリベイは最初にフリーキックに飛び込んだ後、そのまま前へ通り抜け、プレーに絡まないような雰囲気が出ている。しかし、実際にはこぼれ球が2度続き、最終的にはそのラリベイの下にボールがこぼれた。そこまで行く可能性は低かったのかもしれないが、監視の対象から除外してしまったことが、この誤審を引き起こした。
「讃岐にとってはこの試合で、得点に絡むプレーが2つ、判定ミスになってしまいました。映像で見る限り、大きなミスと我々は考えますし、非常に讃岐に対して申し訳ない気持ちではあります」
主審と副審にはアセッサー(評価をする人)から、厳しい指摘が行われたはず。少なくとも主審の中村太氏は、この試合後、今のところは試合の割り当てから外れているようだ。割り当てから外れるということは、審判としての給料が得られなくなる、ということ。どんな処分が行われたのかは、あまり公開されないが、審判も非常に厳しい世界で生きているのは確かだ。
3つめのシーンは、J1第18節サガン鳥栖対川崎フロンターレの後半13分。
左サイドからドリブルで侵入した川崎のDF車屋紳太郎がクロスを入れ、DFエウシーニョが合わせてゴールに流し込んだ。オフサイドはなく、ゴールが認められたが、この場面の判定は妥当だったのか?
「非常に難しいですが、最初は戻りオフサイドにも見えます。ただ、ボールの位置とディフェンスの足の位置を見る限りは、同じラインにいて、オフサイドではありません。正しい判定を下してくれました。これは副審の判断をサポートします」
スピード感もあり、難しい見極めだったが、レフェリーの判断は正しかった。
Jリーグで増えつつある遅延行為
「最近、若干ですが、遅延行為が多くなってきています。選手にもやめましょうと伝えたいです」(上川氏)
遅延行為にはどのようなケースがあるのか。たとえば、J1第17節の柏レイソル対鹿島アントラーズの後半アディショナルタイム。3-2で勝っていた鹿島の土居聖真が、遅延行為でイエローカードを受けている。主審は佐藤隆治氏。
「審判が笛を吹いてプレーを止めているのに、ボールをクリアしました。実際の試合でも警告が示されています」
あるいはJ2第22節のV・ファーレン長崎対愛媛の後半13分。1-0でリードしていた長崎のFWファンマが交代を告げられ、一度はベンチに向かうも、その足を止めて引き返した。
「反対のチーム(愛媛)も交代を示したのですが、その番号を見て、なんだ自分じゃないんだと、戻って来ました。4th(第4審判)は(ファンマがベンチに向かって)動いていたので、次の交代を示したのですが」
交代ボードはひとつなので、両チームが同時に交代をすれば、一度ボードを掲げた後、数字を修正して、反対チームの交代番号を示すことになる。それをファンマは勘違いしたようだ。ここで主審はファンマにピッチから出るように示し、本人も歩き始めたが、もう一度ボードを指しながら戻ってきたため、主審の岡宏道氏はファンマにイエローカードを出すことになった。遅延行為の意図があったかどうかはわからないが、少なくとも、主審から指示を受けた時点では従わなければならない。
「実際に起きている事象ではあります。遅延は増えているので、クラブには注意を喚起したいと思います」
逆に良かった事例が、J1第15節の川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島だ。主審は西村雄一氏。
「反則があって、黄色の6番(青山敏弘)が詰め寄って行きます。ここでありがたいのは、他のチームメイトは対立が大きくならないように振る舞ってくれたこと。レフェリーは選手が集まってきたので、2~3歩引いて監視しています」
「そして、対立の原因を作った選手を外に出して、最初に6番(青山)のチャレンジに対するイエロー。それを押し倒したということで、21番(エドゥアルド・ネット)にもイエロー。お互いがとても納得してくれています。良いゲームを作ろうとした選手の意識の表れでした」
アドバンテージの適用
最後はアドバンテージの適用について。
J2第21節レノファ山口対松本山雅の後半アディショナルタイム、山口のコーナーキックから松本がボールを拾い、自陣からドリブルを始めたところで、山口のMF三幸秀稔が深いスライディングタックルを見舞った。こぼれ球は松本が拾い、フリーになっている。
「非常に悪い反則ですよね。イエローに値すると思います。レフェリーは松本にアドバンテージを与えます。どうですか? このアドバンテージ。あと1分30秒で試合は終わります。松本は2-1でリードしていますが、スペースがありますし、選手もプレーを続けたがっている。この部分ではアドバンテージは正しいと思います」(上川氏)
松本はボールをつないで運び、相手のアタッキングサードへ到達。そこでボールを奪われ、何度かボールが行き来する展開になった後、松本がクリアしてタッチラインを割った。
「ここでアウトオブプレーになります。レフェリーは反則をした選手(三幸)にイエローカードを出し、2枚目で退場としました。最初の反則が、2枚目のイエローカードだと考えたら、皆さんどうでしょうか? アドバンテージを適用するべきだったのでしょうか?」
その場合、ひとつの問題はアドバンテージを適用したことで、本来は退場しているはずの選手が、その後のプレーに関わってくる可能性があることだ。実際、反則をしたMF三幸はスライディングタックルの後に自陣まで戻り、守備に参加している。
「いろいろな考え方があります。ただ、競技規則が去年いろいろ変わって、アドバンテージを適用した後に、2枚目で退場になる選手が相手のプレーに関わろうとしたり、妨害をすれば、実際にプレーしてなくても、その時点で止めることができるようになりました。間接FKで再開とし、その選手を退場にすることができます」
「今までは止められなかったんです。アドバンテージを適用したら、次のアウトオブプレーまでやらなければいけない。何か反則が他にあれば別ですが。だから、去年の競技規則改正で、レフェリーにとってはアドバンテージを適用しやすい状況になりました」
「ただ、今回の場面だけを見ると、(ファウルが起きた場所から)ゴールまでは遠いですし、周りにディフェンスもいます。仮に同点であったり、松本が負けている場合なら、アドバンテージを適用する考えもあるかもしれませんが、ここだけを見ると、素直にプレーを止めて2枚目のイエローカードで退場させるのが妥当と我々は考えます」
「もちろん、これが相手のゴールに近くて得点チャンスであれば、松本がリードしていてもアドバンテージを適用することは考えられます」
「競技規則がこういうふうに変わってますよ、ということと、みなさんにも考えて頂きたいということで、この映像を使いました」
流すか、止めるか。ファウルがあった瞬間にそのすべてを判断するのは難しかったが、今はアドバンテージを適用した後でも、プレーを止めて選手を退場させるなど、柔軟なレフェリングが可能になっている。
競技規則は改正されるたびにややこしくなっていく印象はあるが、そもそもはファウルなどの不正行為によって利益を得るケースを減らすために、試合の魅力を上げるために、ルールが複雑化していく面が大きい。
プロフェッショナルファウル、なんて言葉もあるが、そうした行為で勝とうとするやり方が横行すると、サッカーの魅力がどんどん失われる。慣れてしまった人は「それも魅力」なんて言うかもしれないが、「子どもに見せたくないスポーツ」になってしまったら、サッカーに未来はない。遅延行為にも同じことが言える。だからルールで制限しようとする。
審判委員会の委員長、小川佳実氏によれば、イングランドはそうした考え方が進んでいるそうだ。たとえば昨年からプレミアリーグでは、選手が抗議のためにレフェリーに駆け寄ってくると、すぐにイエローカードが出るようになった。それは世の中のお母さんたちの意見として、レフェリーを取り囲むような行為を子どもに見せたくないと、マーケティングの結果が元になっているそうだ。
しかし、ルールやレフェリーの介入で矯正するのは、やはり限界がある。また、イタチごっこにもなりがち。究極的には選手の心がけに頼るしかない。
そういう意味では、上記の川崎対広島で、選手たちが両チームの対立をいさめようと動いたこと、あるいは前回ブリーフィングで話題になった、柏の大谷秀和のキャプテンらしい振る舞いは、今一度、その価値が認められるべきだろう。