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ノーベル平和賞、今年はなぜ受賞者予想が難しい?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
今年はだれに?昨年の受賞者発表の様子 Photo:Asaki Abumi

ノーベル平和賞の受賞者が、7日、北欧ノルウェーの首都オスロで発表される。ノーベル賞といえばスウェーデンだが、平和賞だけは隣国ノルウェーで発表・授与されている。今年は376という、148の団体と228人の個人がノミネートされている。

「今年の平和賞は、だれが?」。世界中が注目する平和賞の予測だが、昨年から予測が難しい。「予測の当たり外れ」というよりは、事前の「情報漏洩」がなくなったのだ。

日本では、「オスロ国際平和研究所」(PRIO)が予測する候補者が注目を浴びやすい。だが、地元ノルウェーではあまり注目を浴びない。それよりも、ノルウェー国営放送局NRKと、民間放送TV2が鍵なのだ。2局は、これまで地元での幅広いネットワークを駆使し、発表前に「信頼できる情報源から」と受賞者をスクープすることで定評があった。

「情報がリークされる」というのは、ノルウェーではよくあることだ。特に、政界では日常茶飯事で、関係者と報道陣の間での「ゲーム」のようなものだ。これは、情報の取り扱いに関する考えが異なる文化の違いもあるが、平和賞に関しては、ヤーグラン前委員長の口が軽かったことなども指摘されている。

トールビョルン・ヤーグラン前委員長(元・ノルウェー首相/労働党党首)は、オバマ大統領やEUなどに賞を授与。劉 暁波氏に授与して以降は、ノルウェーと中国の外交関係はいまだに悪化したままだ。ノルウェー外交に悪影響がでることを、好まない人間はもちろん多い。

2013年の政権交代で、保守派陣営が与党となってからは、国会の任命により、カーシ・クルマン・フィーヴェ氏(前・保守党党首)が新委員長に選出された。現在の委員長が、保守党出身だということは、今後の平和賞の推測が好きな方は、覚えておくとよいかもしれない。

話がずれてしまったが、今年の候補者について。委員会のあり方については、これまで批判が続いていた。また、関係者にとっては恐ろしい暴露本が昨年出版されたこともあり、フィーヴェ委員長がリーダーとなってからは、体制の在り方が変わった。

平和賞が「政治的」であることは、関係者は必死に否定するが、平和賞は非常に政治的だと思う。

ノーベル平和賞の暴露本の内容がすごい 平和賞はやはり政治的だった

昨年も、これまでのように情報が事前にリークされることはなく、ノルウェー首相も、受賞者の名前を事前に知らされることはなかったと強調。発表前夜といえば、NRKでは特番などが放送される。

6日の特番で、NRKの国際部チーフのクヌート・ベルグ氏などのスタッフは、「今年はリークがない。もう、想像するしかない」と、正直に口を開いた。リークがあったことが当たり前だったという、これまでがすごいと思うのだが。

ノルウェー国営放送局の予想は?コロンビア和平合意がキーワードに

NRKは、難民危機、気候変動枠組条約、核兵器との闘い、紛争地での性暴力が重要なテーマとしている。

以下が、NRKが予測する候補者だ。TV2も同じような候補リストになっている。

この数日間で、ノルウェーの報道機関が最も話題にしている候補が、国民投票で承認を得られなかったコロンビア和平合意だ。こういう時こそ、平和へとつながるように貢献するべきなのでは、という声が国内では多くあがった。

イラン核協議の最終合意で中心人物となった米国のジョン・ケリー国務長官とイランのザリフ外相。平和賞は同時に3人に授与できるため、EUのフェデリカ・モゲリーニ外交安全保障上級代表など、複数の関係者の名前も挙がっている。

ISの性奴隷だったナディア・ムラド氏。今年の1月にノルウェーを訪れ、NRKの報道番組などで自身の体験を話す。涙を流しながらの告白は、国内に大きな動揺を広げた。受賞者を選抜する委員会は、ノルウェー人によって構成されているため、候補者が現地のメディアを通して報道されることは、ある程度の影響力があると、筆者がこれまで取材した現地関係者はよく話していた。同時に、性的暴力の被害者救済に取り組む、デニ・ムクウェゲ氏との同時受賞も指摘されている。

地球温暖化対策の新たな国際枠組み、パリ協定。議長を務めたローラン・ファビウス氏、クリスティアーナ・フィゲレス氏、潘基文・国連事務総長の名前があがっている。受賞者が発表される7日の前日、6日はノルウェーの来年度の国家予算案が発表されたばかり。首相(保守党)率いる与党の予算案は、排出ガスを出し続けるばかりで、「まったくグリーンではない」と各方面から批判を1日中浴びた。もしパリ協定がまた話題となったら、石油・ガス資源に依存し、環境汚染を続ける国内政策に新たな批判が浴びせられそうだ。

難民危機で主導的な役割を果たした独メルケル首相、シリア紛争地で市民救助に取り組むシリア民間防衛隊(ホワイト・ヘルメッツ)ローマ法王フランシスコロシアの人権活動家スヴェトラーナ・ガヌシュキナ氏とNovaja Gazeta紙も候補にあがっている。

受賞者は、7日、ノルウェー現地時間の11時に発表予定だ。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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