田植えで地方創生ができるのか? こどもの日にいすみ市で行われた田植え体験リポート
いすみ鉄道が走る千葉県のいすみ市は、毎年ゴールデンウィークの季節になると田植えが行われています。
昨日5月5日は、いすみ市が企画している「いすみ米オーナー制度」のオーナーの皆様方を招いて、田植え体験が行われました。
筆者は昨年いすみ鉄道の社長を退任した時に、いすみ市長からいすみ大使の称号をいただいておりまして、そのいすみ大使としてお招きいただき、田植え体験に出かけてきました。
里山の田んぼに集まった参加者の皆様方。
東京、埼玉、群馬など関東各地から約100名の皆様方が集まりました。
準備完了。
いよいよ田んぼに向かいます。
この田植えの指揮を執るのはドロンズ石本さん。
石本さんも筆者と同じくいすみ大使で、5年程前にテレビ番組の企画でいすみ市内に数か月間居住したのをきっかけにいすみ市にはまってしまったということで、以来毎年この田植え体験にいらしています。
「ちょっと腰をやっちゃいまして」
ということで、今年はマイクを持って田植えの指揮を執ってくださいました。
スタート!の合図で一斉に田植えが始まりました。
子供たちだけでなく、大人もキャーキャー、ワーワー歓声が上がります。
ドロンズ石本さんの軽妙なトークで、田植えがどんどん進んでいきます。
田植えができないような小さな子供たちは田んぼの横の水たまりで何かを捕まえている様子。
こんな小さな水たまりですが、カエルやオタマジャクシを捕まえようとみんな必死です。
これが田舎の価値なんですよね。
田んぼから出ると足元はこの通り。
どろどろですが、これが楽しいんですよね。
東京新宿からご参加の鈴木剛さんご家族。
お兄ちゃんの陽くんは小学校5年生。
1年生の時からこの田植えに参加していて、もう5回目だそうです。
妹のともちゃんは7歳。
今年から田んぼに入れるようになったそうです。
鈴木さんファミリーは東京出身のおじいちゃんがいすみ市に半分移住をしているそうで、夏休みにも毎年大原の海に来ているとのことでした。
このぐらいの年齢の時にこういう体験をすると、その体験は一生の宝になると思います。
この田植え体験を主催したいすみ市農事組合法人みねやの里の代表、矢澤喜久雄さん。
「都会の皆さんにこういう経験をしていただくことでいすみを身近に感じていただきたい。」と数年前から毎年オーナー募集を行って、年ごとに参加者が増えてきているそうです。
この後、矢澤さんたちみねやの里の婦人部の皆様方が用意された田舎料理のお昼御飯を参加者皆さんでいただいて、山の中で蕗を刈ったりなどの体験で田舎を満喫して半日の田植え体験が終了。
この後、6月には除草作業、8月下旬から9月にかけて稲刈り体験、そして9月下旬には収穫祭と、年に4回の田舎体験、農業体験コースです。
いすみ市の太田洋市長さんです。
筆者も長年懇意にさせていただいている方ですので、ざっくばらんに尋ねてみました。
「市長、この体験は手間ばかりかかって大変でしょう。」
筆者がそう尋ねると、
「いやいや、そんなことはありませんよ。都会の人たちにこういう田舎を体験していただくことはとても重要なことです。1年に4回、それを毎年やっていくことで、いすみ市を身近に感じていただき、子供さんたちにはいすみ市を故郷に思っていただく。そういう繰り返しが地方創生につながるんですよ。」
確かにその通りかもしれません。
地方の特産品を買っていただくという直接的な現金収入も大切ですが、なぜその地域の特産品を買うのかという根本的な部分に付加価値を付けていかなければ、結局は価格の勝負になってしまいますし、価格の勝負になればスケールメリットが出ない田舎の商売では太刀打ちできなくなりますから、価格で勝負することなく、体験を通じてお客様それぞれの心の中にストーリーを作っていく。
こうすれば田舎の将来を作り上げていくことになると筆者は感じました。
日本全国、地方創生というと比較的高齢の方々の財布を当てにする商売をしているところが多く見受けられます。
中には観光地物価になっているところも多く、それが地方創生だと考えられているところもたくさんあるようですが、何年にもわたって家族ぐるみの体験を通じて、家族の思い出がいすみ市の思い出になる。
そういう気が遠くなるような長い道のりですが、本当の意味での地方創生は、こういうところから始めていくことではないか。
いすみ市の田植え体験に参加して、そんなことを感じました。
▲いすみ市のオーナー募集要項。(2019年は既に締切)
1家族3万円でオーナーになると、年4回の農業体験といすみ米30kg。
いすみ米のおいしいお米は10kg約5000円ですから、30kgで15000円。
残り15000円が年4回の農業体験ということになりますね。
この金額が安いか高いかはそれぞれの考え方によると思いますが、矢澤さんたち農事組合法人の皆様方の事前準備などのお手間を考えると、ふつうなら「余計な仕事」になると思います。
でも、農家の皆様方は逆にこの体験を楽しみにされているご様子で、「いすみ市を知っていただきたい。お米がどうしてできるかを知っていただきたい。」という強い思いで、都会のファミリーの方々に楽しい思い出を持って帰っていただくことを信念に行動されているということが筆者にも伝わってきました。
▲秋の稲刈り体験の様子。
令和の時代に活躍する子供たちの思い出の原風景が、ローカル線沿線に広がる田んぼの風景になる。
気の遠くなるような話ですが、目先の利益だけを追うような戦略ではなく、長い時間をかけて地域の価値を知ってもらうような地方創生の戦略をいすみ市は着実に進めているようです。
ところで、今回の田植え体験参加者にいすみ市の太田市長さんからお土産に配られたのが大原駅前の酒蔵、木戸泉さんのこのお酒。
いすみ米の無農薬最上級米を使って作られた「純米いすみ」。
100パーセントいすみ市産です。
ドロンズ石本さんではありませんが、ほぼ同一体形の筆者も腰をやってはいけませんので田植えよりもやっぱりこちら。
農協の直売所で買ってきた地元のきゅうりやいすみの魚で一杯やったら、こちらも100パーセントいすみになりました。
▲自宅に帰って鉄道模型を見ながら一杯の図。
いすみ市は1年を通じていつでも楽しめる素敵なところ。
田植え、草取り、稲刈り、収穫祭と1年に4回もいすみ市にやってくれば、そのファミリーにとっていすみ市がマイブームになりますね。
昭和から平成にかけては「いろいろなところへ出かけること」が旅行でしたが、令和の時代は「気に入ったところに何度も出かける」スタイルの旅行が主流になるような、そんな仕掛けを作っているいすみ市の田植え体験でした。
すべてにおいて費用対効果ばかりが当たり前のように言われている今の時代の商売ですが、こういう気の長い将来に向けた投資のようなビジネスは田舎だからこそなのだと思います。そして、そういうことが真の意味での地方創生につながると、いすみ市の田植え体験に参加して筆者は確信しました。
どうぞ皆様も風薫る5月、ふらりといすみ市を旅してみてはいかがでしょうか。
※使用写真は特におことわりがあるものを除き、筆者撮影です。