グーグル、中国への投資を拡大、人工知能の新興企業に数十億円出資
米グーグルが中国への投資を拡大させていると複数の海外メディアが報じている。
米ウォールストリート・ジャーナルなどの報道によると、同社は最近「Mobvoi」(北京羽扇智信息科技)という人口知能(AI)技術を手がける中国の新興企業に巨額の出資を行った。
その金額は4000万〜4500万ドル(約48億〜54億円)と見られている。
===音声検索を手がける企業===
米ブルームバーグや米フォーチュンによると、このMobvoiは「出門問問」(チュメンウェンウェン)という名で知られる企業。グーグルでリサーチ・サイエンティストを務めていた人物が2012年に設立した。
Mobvoiは、中国語の音声検索モバイルアプリや、「Ticwatch」というスマートウォッチと、その基本ソフト(OS)などを手がけている。同社の音声検索アプリの累計ユーザー数は200万人で、スマートウォッチは今年6月に発売して以来、3万台が売れたという。
また、グーグルにはウエアラブル機器向けのOS「Android Wear」があるが、その中国語版では自社の音声検索と音声認識技術を使わず、代わりにMobvoiの技術を採用したと、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
報道によると、グーグルはその投資事業会社を通じて昨年、クラウドコンピューティング向け高速光トランシーバーを手がける中国イノライト・テクノロジーにも出資しているが、同社がこのような投資を中国企業に対して行うのは異例のことという。
===グーグル、中国市場に復帰===
というのも同社はすでに多くの中国事業から撤退しているからだ。
同社はかつて、中国本土で各種のネットサービスを提供していたが、同国からのサイバー攻撃や当局に強いられている検閲が耐えられないとして、2010年に同国本土の検索サービスを停止した。
その後、サーバーを法制度が異なる特別行政区の香港に移し、香港経由で本土向け検索サービスを開始したが、中国本土では事実上多くのサービスが提供されていない。
ブルームバーグによると、中国当局は現在、グーグルのメールサービス「Gmail」や、検索サービス、動画配信サービス「YouTube」などを遮断しているという。
一方で、同社が提供しているモバイルOS「Android」は、中国で販売されているスマートフォンの大半に採用されている。そうし中、先頃、米国のIT系ニュースサイト、ジ・インフォメーションなどが、グーグルは中国本土への復帰を目指しており、年内にもその第1弾となる施策を講じる計画だと伝えた。
これらの報道によると、同社は中国版「Google Play」のアプリストア(アプリ配信サービス)を開設すべく計画を進めており、同国政府関係者やスマートフォンメーカーと協議している。
このアプリストアは、中国市場向けのAndroidスマートフォンにプリインストールされ、市場に出回る見通しで、同社はそうした端末が年内にも発売されることを期待しているという。
===持ち株会社制への移行を完了===
報道によると、かつて中国政府の方針に最も批判的だったグーグルの幹部の1人は共同創業者のセルゲイ・ブリン氏。2010年の中国市場からの撤退の決定は同氏の意向によるところが大きいと見られている。
だが、その後ブリン氏は日常業務から退き、代わって製品開発の責任者、スンダー・ピチャイ氏の役割が増えていった。ウォールストリート・ジャーナルによると、ピチャイ氏は昨年、中国市場に全力で取り組むとし、その意気込みを示していた。
なお、グーグルは10月2日に新会社「アルファベット(Alphabet)」の傘下に各事業会社を置く組織再編を完了した。これにより、グーグルはアルファベットが全額出資する事業子会社となり、その最高経営責任者(CEO)にピチャイ氏が就いた。
ちなみにグーグルの共同創業者でCEOを務めていたラリー・ペイジ氏はアルファベットのCEOになった。また前述のブリン氏はアルファベットの社長に、グーグルの会長を務めていたエリック・シュミット氏はアルファベットの会長に就任した。
(JBpress:2015年10月22日号に掲載)