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霊能者・宜保愛子の「未公開テープ解禁」の特番、「このあとすぐ」の引っ張り演出で生じた視聴者の焦れ

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

1980年代から1990年代前半にかけて一大ブームを巻き起こした霊能者・宜保愛子さん。7月13日放送『真夏の絶恐映像 日本で一番コワい夜』(テレビ東京系)では、「伝説の霊能者・宜保愛子 テレビ未公開テープ解禁!その特殊能力のルーツがついに明かされる!」と題し、2003年に亡くなった宜保さんの特集が番組内で組まれた。

アラフォー以上の世代にとって宜保さんは、テレビで頻繁に観ていた懐かしい存在。また、バラエティ番組での石橋貴明(とんねるず)のモノマネも当時印象的だった。

ただ結論として今回の特集は、視聴者的には物足りなさがあったようにうかがえた。

「このあとすぐ」と言いながらなかなか始まらない、引っ張り演出

『真夏の絶恐映像』は18時25分からスタートした。真偽不明の恐怖映像ほか、タレントが心霊スポットでロケをする様子などが放送された。

ところが宜保愛子特集は、19時台、20時台、21時を回っても始まらなかった。そして番組開始から約3時間が経った21時半頃、ようやくスタートした。放送終了の約20分前のことである。

当時のテレビ好きにとっては、この宜保愛子特集は注目だったはず。しかし大反響とまでいかなかったのは、特集がなかなか始まらないことに多くの視聴者が焦れてしまい、途中で脱落したことによるものではないか。実際に番組放送中、SNSをチェックしてみると「まだ始まらない」「観るのをやめた」といった旨を投稿する視聴者が見られた。

視聴者のストレスのひとつとなったのが、「『このあとすぐ』的な引っ張り演出」である。

恐怖映像やロケ映像の合間には、「伝説の霊能者・宜保愛子の誕生秘話」という告知VTRを何度も挿みこむなどして、煽りに煽った。ところが前述したように、特集を観ることができたのは番組開始から約3時間後である。そのあいだ、いろんな幽霊は出てきたものの、“主役”の宜保さんはなかなか姿を現してくれなかった。

かつてのテレビ番組では、今回のように注目度の高い映像やコーナーなどを、「このあとすぐ」と言いながらすぐに観せない引っ張り演出がたくさんあった。

しかし今は、観たいものを瞬間的に観る時代である。たとえばTikTokでは、わずか数秒で興味を引くことができなければスルーされてしまう。そんなスピード感に慣れてきたなか、いくら主な視聴者ターゲットがアラフォー以上とは言え、3時間以上「『このあとすぐ』的な演出」で視聴者の関心を引っ張り続けるのはさすがに難しいものがあったのではないか。

注目度が高いものを番組の放送開始後、すぐに観せる必要はない。ただ「いつ観せるか」という、構成面でのバランス感覚がより重要な時代になってきていることは間違いない。

「25時間もの肉声テープ」としながら、放送されたのはわずか

肝心の宜保愛子特集は、宜保さんの体験談を作品化していたオカルト漫画家・東堂洸子さんの証言が軸となった。

まず東堂さんによる宜保さんとのエピソードが流れ、CM。そのあと「誕生秘話、このあとすぐ」という短い告知VTRがあって、またCM。再開し、東堂さんによる宜保さんのエピソードがもう一度あって、またもや「誕生秘話、このあとすぐ」の告知を挿んでCM。ようやくメインの「テレビ未公開テープ」の内容が明らかになったのだが、「25時間に及ぶ音声のなかには、特別な力にまつわる興味深いエピソードがあった」としながら、わずか数分でそのテープ内容の公開は終わった。

テープ内容は、4歳のときのとある事故により左目を負傷し、それから霊視ができるようになったというもの。宜保さんの肉声と再現VTRで、当時の状況を振り返った。そして締めは「宜保さんは命の尊さを訴えていたのかもしれない」である。

25時間分の肉声テープがありながら、そのテープの詳細のほとんどが分からなかった。3時間半の特番のメインとしては、薄味な内容だったのではないか。また、同じ文言や映像が何度も繰り返された上、頻繁にCMが挿みこまれたことでVTRが細切れになるなどし、番組展開が前に進んでいるように感じられなかった。宜保愛子さんという懐かしい存在をピックアップしていたが、その番組構成自体が前時代的であったように思えた。

ただ、伝説の霊能者が遺した25時間もの肉声テープとあって、もしかすると放送できないような恐ろしい内容だったのかもしれない。放送禁止レベルだったため、ほとんどカットしなければならなかったのであれば、短尺でやや淡白に映った宜保愛子特集の構成も納得できる。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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