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皮膚科医が伝える「化膿性汗腺炎」の最新治療 - 新薬と創傷ケアのポイントとは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【化膿性汗腺炎とは?治療の難しさと診断のポイント】

化膿性汗腺炎は、皮膚の下にできる腫れや膿み、瘻孔(ろうこう)などを特徴とする慢性の炎症性疾患です。患部は痛みを伴い、膿が出ることもあるため、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させる疾患の一つです。欧米では人口の1~4%が罹患していると言われていますが、日本でも決して珍しい病気ではありません。

HSの治療が難しい理由の一つに、適切な診断の難しさがあります。HSを疑ったら「2-2-6ルール」を当てはめてみましょう。これは「6ヶ月間に2回以上、2つ以上の膿瘍(のうよう)が発症する」という目安です。また、ニキビや毛巣洞(もうそうどう)、うつ病、不安障害、性機能障害、喫煙、脂質異常症、2型糖尿病、高血圧、肥満、多嚢胞性卵巣症候群、炎症性腸疾患、脊椎関節炎など、HSに関連する併存疾患の有無も確認が必要です。

【化膿性汗腺炎の治療薬の選択肢と使い分け】

HSの治療には、抗炎症作用のある薬が用いられます。代表的なのがTNF阻害薬のアダリムマブ(ヒュミラ)で、国内でもHSに適応があります。第III相試験では、40~60%の患者で効果が見られましたが、9ヶ月後には40~50%で効果が減弱したとのデータもあり、注意が必要です。重症度が高い、瘻孔がある、肥満、喫煙者では、特に効果が弱まりやすい傾向にあります。とはいえ、手術前後の使用は安全とされ、増量により効果が期待できる場合もあるようです。

次に、IL-17A阻害薬のセクキヌマブ(コセンティクス)も選択肢の一つです。TNF阻害薬で効果不十分だった患者の約60%で16週までに改善が見られたといいます。女性や痩せ型の方に効きやすい傾向があり、多発性硬化症や心不全、悪性腫瘍の既往がある患者に特に有用とのことです。

IL-17AとIL-17Fの両方を阻害するビメキズマブ(ビムゼルクス)は、第II相試験で用量依存的に高い有効性が示されました。16週時点でHiSCR50(※)が55~60%、48週時点で70%に達したとのデータがあり、重症例や難治例への使用が期待されます。

※HiSCR50:化膿性汗腺炎臨床反応基準で、総膿瘍・炎症性結節数が50%以上減少し、膿瘍・ドレナージを伴う瘻孔数が増えていないことを示す指標。HiSCR90は同様に90%以上の減少を表す。

さらに、JAK1阻害薬のポボルシチニブ(開発コードINCB54707)は、TNF-αとTGF-βの産生を抑え、新たな治療ターゲットとして注目されています。第II相試験の12週時点で、高用量群のHiSCR50が約60%、HiSCR90が約20%との結果が報告されています。

【化膿性汗腺炎の術前・術後ケアと日常の創傷管理】

HSの治療では、外科的アプローチも重要な役割を担います。手術前は、不安への対処にロラゼパム、音楽、体位の工夫が推奨されます。麻酔はリドカイン0.5%+エピネフリン1:200,000のリングブロックや、0.2%リドカインの局所浸潤麻酔が一般的です。

術後の疼痛管理には、0.25%ブピバカインのリングブロックや、トラネキサム酸の局所投与、非ステロイド系鎮痛薬の使用が有効でしょう。滲出液の多い創には、ドレッシング材としてフォーム材、アルギン酸カルシウム、高吸収性ドレッシング材などを用いると良いでしょう。アレルギーの有無や、擦れやすい部位かどうかなど、患者背景に合わせて選ぶのがポイントです。

日常の創傷ケアでは、洗浄剤の優劣を示すエビデンスは乏しいものの、創の状態に合わせて使い分けることが大切です。アレルギーや、擦れによる刺激に注意しつつ、浸出液量や細菌の定着状況などを定期的に評価し、最適なドレッシング材を選んでいきます。固定には、できるだけ皮膚へのダメージが少ない材料を使用しましょう。

HSは、患者さんのQOLを大きく損ねる疾患ですが、近年の治療薬の進歩と、適切な創傷ケアを組み合わせることで、多くの患者さんの生活の質を高めることができるはずです。皮膚科専門医として、これからもエビデンスに基づく最善の治療を提供していきたいと思います。

参考文献:

Lev-Tov H, Hsiao J, Chao TJ, Gierbolini A. A clinician's guide to managing hidradenitis suppurativa: an in-depth workshop. Presented at: 2024 Fall Clinical Dermatology Conference for PAs and NPs; May 31-June 2, 2024; Scottsdale, AZ

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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