欧州呼吸器学会が「加熱式タバコ」に声明、いったい何が問題なのだろうか
呼吸器に関する国際的な団体である欧州呼吸器学会が、従来の紙巻きタバコから新型タバコ(加熱式タバコ、電子タバコなど)へ切り替える有効性(ハームリダクション)について否定する声明を出した。いったい何が問題なのだろうか。
ハームリダクションとは
欧州呼吸器学会(European Respiratory Society、ERS)は、160カ国以上の医師、医療専門職、科学者などが参加する呼吸器分野の国際学会だ。肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺炎といった呼吸器の病気の研究や患者や家族の治療やケアなどをEUなどの機関と共同して行っている。
喫煙も呼吸器に関する重篤な病気を引き起こす。だが、タバコ産業のマーケティング戦略は、タバコ製品がいかに安全かということを喫煙者に訴求し、喫煙者にタバコをやめさせず、いかにずっと喫煙させ続けていけるかに向けられてきた。
いわゆるハームリダクションもその一つだ。タバコのハームリダクションとは、ニコチンを含んだタバコを吸うことを完全になくすのではなく、その害を少なくしてタバコによる死亡や病気などの健康被害を減少させることを意味する。
具体的には、タバコに含まれる有害物質をより少ない量に軽減する低リスク製品や害の少ない使用法に転換する意味で使われることが多い。これまでもタバコ産業はフィルターを付けたり低タール低ニコチンタバコを出したりしてきたが、科学的な研究でどれも健康被害の低減にはつながっていないことがわかっている。
タバコ産業の新たなハームリダクションとして、加熱式タバコやスヌース(噛みタバコ)などの新型タバコがある。タバコ産業は、これまでと同様にこれら新型タバコの宣伝にハームリダクションという言葉を使い、紙巻きタバコから加熱式タバコなどへ切り換えるよう、うながしている。
欧州呼吸器学会の8つの指摘
タバコ対策は日本を含め、世界各国全ての懸念事項だが、タバコ産業による新型タバコがハームリダクションになるという主張にどう対応するのかが議論になっている。政治家や専門家の中には、加熱式タバコや電子タバコなどは有害性が低減されているので、ニコチン依存症になった喫煙者に対し、有効な代替品だという意見も散見される。
この新型タバコのハームリダクション論争について、2024年2月5日、欧州呼吸器学会が8項目の指摘を示した声明を同学会の学術誌に出した。この声明は、電子タバコのハームリダクションに好意的な英国の委員の連名だ。
まず、新型タバコは市場に出回り始めて時間が経っておらず、その長期的な健康への悪影響は未知数とする。そして、タバコ産業はこれまで科学的なデータを操作し、タバコの害について虚偽の報告をしてきた「前科」があり、タバコ産業が主張する新型タバコのハームリダクションの主張は信じられないと述べている。
第3に、一部の喫煙者への影響のみならず、まだタバコに手を出していない人が喫煙を始めてしまう危険性を考えれば、公衆衛生上も新型タバコを認められないとする。これについては、新型タバコによって若年層の喫煙者が増えているというエビデンスを示した。
さらに、健康被害への予防原則の重要性を考えると、各国・各地域でタバコ規制、喫煙率、喫煙環境が異なっている現状では、一律に新型タバコを推奨することはできないと述べている。そして、新型タバコの規制を緩めれば、さらに喫煙者が増える事態になりかねないと懸念を示す。
第6に、新型タバコによって禁煙できるという証拠はなく、欧州呼吸器学会の立場としては、最もいい選択がタバコを完全にやめることに他ならないという。また、新型タバコの喫煙者は紙巻きタバコから完全に切り換えることができず、両方を吸ってしまうことも多いと指摘し、これはタバコ産業が主張することに反していると批判する。
そして最後に、タバコ産業は喫煙者が禁煙しにくいままであり、喫煙者は減っておらず、喫煙者はより有害性が軽減された新型タバコを求めていると主張しているが、最近の研究によるとそれは間違っていて、世界的に禁煙を希望する喫煙者は増えているとエビデンスをもとに述べる。また、欧州呼吸器学会は、喫煙者のためにはすでに国際的なタバコ規制条約(FCTC)があり、それが効力を発揮している証拠としている。
これら8項目は、新型タバコに関する基本的なポリシーだ。加熱式タバコも健康への有害性はあり、加熱式タバコに切り換えても禁煙するのは難しい。最もいい選択は、タバコ産業自身が述べているように、タバコをきっぱり全てやめることなのだ。