道端ジェシカ氏を泳がせ捜査で逮捕 なぜ麻薬特例法違反か、今後の捜査の焦点は
東京都内のホテルの部屋でモデルの道端ジェシカ氏が交際中の外国人男性とともに逮捕された。警視庁による「泳がせ捜査」の結果であり、合成麻薬MDMAを巡る麻薬特例法違反の容疑だ。
「泳がせ捜査」とは
荷物は海外からその男性にあてられたもので、中にMDMAが隠されているのを税関職員が発見した。送り先のホテルの部屋に荷物が届けられたあと、捜査員が部屋に踏み込み、その場にいた2人を逮捕したという。
本来、税関の検査で国際宅配便や国際郵便などの中から規制薬物が発見されると、受取人の引き取りが禁じられ、そのまま押収されて事件化される。しかし、麻薬特例法は、特殊な捜査手法として「コントロールド・デリバリー」と呼ばれる「泳がせ捜査」を認めている。
国際宅配便などの場合、手荷物の中に規制薬物を隠し、空港で税関検査をすり抜けようとして発見され、その場で現行犯逮捕される「運び屋」のケースと異なり、あて先として偽名やレンタル事務所の住所などが使われている可能性もあるからだ。
そこで、真の受取人が誰かを特定し、言い逃れできなくさせるとともに、背後関係をも含めて徹底的に捜査することを目指して行われているのが「泳がせ捜査」だ。
すなわち、税関は警察に通報するものの、その要請を受けて荷物を差し止めない。一方、警察は厳重監視のもとでこれを受取人のところまで配達させ、現に受け取らせ、検挙する。
なぜ麻薬特例法違反か
この「泳がせ捜査」には、中身をすり替えず、そのまま配達させる「ライブ・コントロールド・デリバリー」と、規制薬物を抜き取り、偽薬など無害なニセモノとすり替え、配達させる「クリーン・コントロールド・デリバリー」がある。
ただ、前者の場合、監視に失敗して逃げられてしまえば、捜査当局や税関が規制薬物の蔓延に手を貸す結果となる。そこで、国際宅配便や国際郵便などを利用した密輸事件をターゲットとし、後者の方法を使った「泳がせ捜査」が中心となっている。
今回も、麻薬特例法違反で逮捕されたということは、警視庁が中身を偽薬にすり替えたパターンだったということになる。というのも、もしMDMAの現物だったのであれば、麻薬及び向精神薬取締法の所持罪による逮捕になるからだ。その意味で、「MDMAを所持した疑いで逮捕された」といった一部報道は正確でない。
なぜすり替えられた偽薬なのに、受け取って所持したことが犯罪になるのか、不思議に思う人もいるだろう。麻薬特例法には、規制薬物の蔓延を防止するため、「泳がせ捜査」を前提とした特別な罰則が設けられている。
すなわち、規制薬物として交付を受けたり取得したりした「薬物その他の物品」を所持した場合、それが規制薬物の所持罪を犯す意思をもって行われたのであれば、それだけで処罰されることとなっている。
「その他の物品」には偽薬も含まれ、中身に関する本人の認識が本物の規制薬物でありさえすればよいから、実際にはすり替えられた偽薬だったとしてもアウトだ。ただし、営利目的がない場合、本物のMDMAの所持罪であれば最高で懲役7年だが、偽薬であれば最高で懲役2年と軽くなっている。
捜査の焦点は
男性の認否は不明だが、道端ジェシカ氏は「知りません」と供述し、容疑を否認しているという。荷物が男性あてのものだったことから、そもそも誰が発注し、誰が使うものだったのか、2人の関係やホテルに滞在していた目的、これまで規制薬物を2人で使用したことはなかったのかが捜査のポイントとなる。
男性の供述が重要となるが、決め手はやはり尿鑑定だろう。これで陽性反応が出れば、最高で懲役7年の使用罪で立件される。
また、道端ジェシカ氏の住居など関係先の捜索も広く行われるから、そこでMDMAなどの規制薬物が発見、押収されれば、所持罪にも問われることになる。今後の捜査が注目される。(了)