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立ち食いそばの隠れた人気メニュー「春菊天」30店の彩りと味わいを一挙紹介

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
春菊天を知っていますか?(筆者撮影)

 東日本の一部の立ち食いそば屋では、「春菊天そば」がフツフツと人気になっている。老舗そば屋では到底使わない「春菊天」をトッピングに取り入れ、ファンの心を掴んで離さない。そんな現象が北海道でも起きているようだ。

4月に札幌の立ち食いそば屋「ながら」で面白い現象が起きた

 札幌市の大通公園近くにある知り合いの立ち食いそば屋「ながら」では最近、「春菊天」が突然人気沸騰したそうだ。

 店長によると今年4月中頃、行きつけの仕入れ先のスーパーで大量の春菊を購入し「春菊天」のメニューを始めたという。それまで一度も「春菊天」を提供したこともなく、売れるかどうかすごく不安だったという。北海道で「春菊天」を置いている立ち食いそば屋はほとんどないという。

 ところが、発売してみるとこれが驚きの大人気になったという。今まで何年も「野菜天そば」一筋だった常連達が春菊天に一目惚れしてしまったのだという。中には「春菊天」がないと食べないで帰ってしまう達人も出始めているというのだ。

 なぜ「春菊天」がそれほどまでに人気なのか、理由はわからないという。「春菊天」は典型的な潜在的人気メニューだったというわけである。

札幌・大通公園近くの立ち食いそば屋「ながら」(佐々木毅撮影)
札幌・大通公園近くの立ち食いそば屋「ながら」(佐々木毅撮影)

「ながら」で最近人気沸騰している「春菊天そば」(佐々木毅撮影)
「ながら」で最近人気沸騰している「春菊天そば」(佐々木毅撮影)

「春菊天」は東京近郊で人気が高い

 立ち食いそば屋に「春菊天」が置いてあるエリアは主に東日本だ。中でも多いのが東京近郊である。なぜか圧倒的な人気を誇る。売上の半分は「春菊天そば」という店もあるほどだ。関西では讃岐うどん店でみかけることはあるが、立ち食いそば屋ではほとんどみかけることはない。「春菊天」にはいろいろな不思議があるようだ。

「春菊天」はいつ頃登場したのか

 「春菊天」がいつ頃、立ち食いそば屋のメニューになったのだろうか。筆者の経験でいうと、西武線所沢駅ホームにある「狭山そば」では、開業(1972年)後の早い時期からメニューにあったように記憶している。

 熱狂的なファンがいる「六文そば」では開業時(1971年)から「春菊天」はメニューにあったという。筆者も1986年には実食している。

「春菊天」の7不思議とその魅力

 春菊のいちばんうまい食べ方は、天ぷらである。ネットでレシピをみるとたくさんの春菊料理が紹介されている。春菊炒めなども食欲をそそるが、やはりなんといっても天ぷらだと思う。しかし、「春菊天」には不思議なことが多い。

■老舗そば屋のメニューにほぼない。なぜか立ち食いそば屋だけに存在する。

■関西ではあまりみかけず、東京近郊の立ち食いそば屋に集中している。

■関東でも提供している店としていない店がある。

■春菊とひとことでいっても品種はたくさんあって東西で味も違う。

■春菊は秋から春が旬だが、盛夏に提供している店もある。

■天候に影響されやすく、メニュー落ちして出会えないことも覚悟する。

■春菊をそのまま揚げるものからかき揚げまでさまざまある。

ある日突然「春菊天」にはまり、リピーターになっている

 何人かの「春菊天」ファンに話を聞くと、初めは「春菊天」には見向きもしない人がほとんどだったという。「げそ天」や「野菜かき揚げ」や「ちくわ天」などをがっつり食べるのが日常行動であった。ある時、カウンターのショーケースに得体のしれない緑色の天ぷらが置いてあることに気づく。そして何度か来店するうちに、その緑色の未確認飛行物体のような存在に惹かれおそるおそる注文する。そしてそのうまさに驚愕し立派なリピーターになっていくわけである。筆者もまさにその展開である。

深い緑色に秘めた程よい香気が人気の秘密か 

 とにかく「春菊天」は異彩を放っている。春菊は天ぷらにするとエグミが消えほどよい苦みの香気が立つ。そして水分が飛んでいき軽い揚げ姿になっていく。その姿は深い緑色で、コロモとの彩が鮮やかである。また、関東以北の春菊は香りが強く天ぷらには向いているということもあるようだ。

 すき焼きなどでしかお目にかかることのない春菊は、立ち食いそば屋で天ぷらになることでその存在意義を見出され、先鋭的なファンが増えていったということだろう。

東京近郊の「春菊天そば」を紹介

 さて、筆者が食べてきた「春菊天」を紹介していくことにしよう。

●躍動感あるそのまま揚げた「春菊天」

 春菊をカットしないでそのまま揚げるのが好きだという人も多いようだ。そうした形状の天ぷらを提供している店をまずみてみよう。

有楽町「蕎麦はないち」

 JR有楽町駅すぐの「蕎麦はないち」の「春菊天」はぱっと開いた揚げ姿で、相当でかい。

有楽町「蕎麦はないち」の「春菊天」(筆者撮影)
有楽町「蕎麦はないち」の「春菊天」(筆者撮影)

秋葉原「新田毎」

 JR秋葉原駅構内「新田毎」の「春菊天」はリーゼント系とでもいえばいいのだろうか、尖っている。

秋葉原「新田毎」の「春菊天」(筆者撮影)
秋葉原「新田毎」の「春菊天」(筆者撮影)

虎ノ門「峠そば」

 東京メトロ虎ノ門駅近くの「峠そば」の春菊天もそのまま揚げたタイプでごま油が香るうまさである。

虎ノ門「峠そば」の「春菊天」はごま油が香る(筆者撮影)
虎ノ門「峠そば」の「春菊天」はごま油が香る(筆者撮影)

多摩川「梅もと」

 東急東横線多摩川駅構内・八重洲地下街・新宿などにある「梅もと」の春菊天は定番メニューである。こちらも古くから提供していた店である。

多摩川「梅もと」の春菊天もそのまま揚げるタイプ(筆者撮影)
多摩川「梅もと」の春菊天もそのまま揚げるタイプ(筆者撮影)

有楽町「都そば」

 有楽町・帝劇ビル地下「都そば」の「春菊天」はかなり大きく、苦みも香る味である。ただし、関西の「都そば」では見かけない。

有楽町「都そば」の「春菊天」は大きい(筆者撮影)
有楽町「都そば」の「春菊天」は大きい(筆者撮影)

「名代富士そば」

 「名代富士そば」でも店舗によってそのまま揚げるタイプの「春菊天」とかき揚げタイプの「春菊天」を提供する店がある。北千住東口店はそのまま揚げるタイプである。大塚店、秋葉原東口店はかき揚げタイプで、発売していない店や時期もあるので要確認である。

名代富士そばの「春菊天」、2種類ある(筆者撮影)
名代富士そばの「春菊天」、2種類ある(筆者撮影)

 このタイプは他に、日本橋や御徒町などにある「よもだそば」、四ツ谷三丁目の「つぼみ屋」、東神田商店街入り口にある「岩本町スタンドそば」、本郷の「はるな」、初台「加賀」などで食べることができる。

●かき揚げタイプの「春菊天」

 そのまま揚げるタイプにひと手間くわえてかき揚げにするタイプが春菊天でも人気である。

新橋「丹波屋」

 JR新橋駅前のニュー新橋ビル1階にある「丹波屋」の「春菊天」はカリカリになるまで揚げられている唯一無二の味。この味のトリコになる人も多い。たまに訪問すると、入店者5名すべてが「春菊天そば」を食べていることもある。こちらでは真夏でもほぼ春菊天が販売されている。その入手ルートには大変興味がある。

新橋「丹波屋」の「春菊天」はかりかりになるまで揚げられている唯一無二の味(筆者撮影)
新橋「丹波屋」の「春菊天」はかりかりになるまで揚げられている唯一無二の味(筆者撮影)

両国・浅草・浅草橋「文殊」

 両国・浅草などの「文殊」の「春菊天」はカリっとして、店を代表する味である。茹で玉子と一緒に食べるとすごくうまい。玉子との相性がなかなかよい。

「文殊」の「春菊天」はカリっとしてうまい(筆者撮影)
「文殊」の「春菊天」はカリっとしてうまい(筆者撮影)

亀有「鈴しげ」

 JR常磐線亀有駅から5分ほどの「鈴しげ」の「春菊天」もカラッと揚げられている。天ぷらのうまい立ち食いそば店として有名である。

亀有「鈴しげ」の「春菊天」もカラッと揚げられている(筆者撮影)
亀有「鈴しげ」の「春菊天」もカラッと揚げられている(筆者撮影)

茅場町「亀島」

 東京メトロ茅場町駅から近い「亀島」の春菊天もカラッとしてギュッとつまった揚げ具合でうまい。

茅場町「亀島」の「春菊天」(筆者撮影)
茅場町「亀島」の「春菊天」(筆者撮影)

小伝馬町「田そば」

 東京メトロ小伝馬町駅すぐ「田そば」の天ぷらも実にうまい。カラッと揚げられており、「春菊天」に少しだけにんじんが入る。

小伝馬町「田そば」の「春菊天そば」少しだけ人参が入る(筆者撮影)
小伝馬町「田そば」の「春菊天そば」少しだけ人参が入る(筆者撮影)

人形町「福そば」

 東京メトロ人形町駅からすぐの「福そば」も天ぷらがうまい店として有名であり「春菊天」ももちろんうまい。こちらもにんじんが少しだけ入る。

人形町「福そば」の絶品「春菊天そば」(筆者撮影)
人形町「福そば」の絶品「春菊天そば」(筆者撮影)

秋葉原「みのがさ」

 JR秋葉原駅から徒歩5分の「みのがさ」の「春菊天」にもにんじんが入っている。出汁の利いたつゆとの相性がすこぶるよい。

秋葉原「みのがさ」の「春菊天」もはずせない(筆者撮影)
秋葉原「みのがさ」の「春菊天」もはずせない(筆者撮影)

梅島「雪国」

 東武スカイツリーライン梅島駅からすぐの「雪国」の「春菊天」はしっとりかき揚げで、軽い揚げ具合である。

梅島「雪国」の春菊天はしっとりかき揚げ(筆者撮影)
梅島「雪国」の春菊天はしっとりかき揚げ(筆者撮影)

中延「大和屋」

 東急大井町線中延駅前の「大和屋」の「春菊天」はコロモやや多めでしっとりとして大きい。

中延「大和屋」の「春菊天」はコロモやや多めでしっとりとして大きい(筆者撮影)
中延「大和屋」の「春菊天」はコロモやや多めでしっとりとして大きい(筆者撮影)

矢口渡「まる美」

 東急多摩川線矢口渡駅近くの「まる美」の「春菊天」はしっとりとしたかき揚げで、つゆとの相性がよい。

矢口渡「まる美」の「春菊天」はしっとりかき揚げ(筆者撮影)
矢口渡「まる美」の「春菊天」はしっとりかき揚げ(筆者撮影)

志村坂上「さかうえ」

 都営三田線志村坂上駅からすぐにある「さかうえ」の「春菊天」はしっとりしたかき揚げである。

志村坂上「さかうえ」の春菊天はしっとり(筆者撮影)
志村坂上「さかうえ」の春菊天はしっとり(筆者撮影)

仲池台「そば三」

 都営浅草線西馬込駅から歩いて15分、大田区仲池台「そば三」の「春菊天」もしっかりと大きいタイプである。

仲池台「そば三」の「春菊天」も大きい(筆者撮影)
仲池台「そば三」の「春菊天」も大きい(筆者撮影)

板橋区役所前「そば谷」

 都営三田線板橋区役所前から徒歩8分の「そば谷」の「春菊天」はしっかりと揚げられておりでかくてうまい。濃い目のフレッシュなつゆとの相性がすごくよい。

板橋区役所前「そば谷」の「春菊天」はでかうまい(筆者撮影)
板橋区役所前「そば谷」の「春菊天」はでかうまい(筆者撮影)

中延「六文そば」

 東急大井町線中延駅前の「六文そば」の「春菊天そば」はやや小振りだが、げそ天などと一緒に食べるとうまさが染みわたる。神田須田町や他の「六文そば」でも提供している。

中延「六文そば」の傑作「春菊げそ天そば」(筆者撮影)
中延「六文そば」の傑作「春菊げそ天そば」(筆者撮影)

西台「マキオカ」

 都営三田線西台駅から歩いて10分の大東文化大学前にある「マキオカ」の「春菊天」もかき揚げ状によく揚がっておりうまい。

大東文化大学前「マキオカ」の春菊天もうまい(筆者撮影)
大東文化大学前「マキオカ」の春菊天もうまい(筆者撮影)

「吉そば」

 東京メトロ赤坂駅前・東急東横線中目黒駅前などにある「吉そば」の「春菊天」も店を代表する人気メニューである。冷やしで食べるのもなかなかよい。最近は麺が生麺タイプになって味がアップしているようだ。

「吉そば」の「春菊天」は定番メニューだ(筆者撮影)
「吉そば」の「春菊天」は定番メニューだ(筆者撮影)

秋葉原「川一」

 秋葉原の三井記念病院近くの「川一」の「春菊天」は軽く揚がっていてつゆとのバランスがよい。「げそ天」などと一緒に頼むとまた味の変化が楽しい。

「川一」の「春菊天」は軽めに揚げられておりつゆとのバランスがよい(中根章撮影)
「川一」の「春菊天」は軽めに揚げられておりつゆとのバランスがよい(中根章撮影)

浅草橋「野むら」

 JR浅草橋駅から北方向へ徒歩10分ほどにある「野むら」の「春菊天」は鮮やかな緑色でしかも薄めにカリッと揚げられている。濃い黒い甘めの昆布だしの利いたつゆとよくマッチしている。

「野むら」の「春菊天」はカリッと緑色が綺麗(筆者撮影)
「野むら」の「春菊天」はカリッと緑色が綺麗(筆者撮影)

 写真はないがJR田端駅近くの「かしやま」の「春菊天」もしっとりとコロモが多めのタイプだが実にうまい。JR池袋駅西口にある「君塚」の「春菊天」もかなり大きめで、甘めのつゆとマッチしている。「メトロ庵」、「いろり庵きらく」、「爽亭」にも季節によって「春菊天」が登場するのでチェックしてみてほしい。他にも、東京メトロ半蔵門駅近くの「天亀」、葛飾区堀切の「会津」、千代田区神田和泉町の「二葉」、早稲田大学近くの「はせ川」、東急大岡山駅から環七に出たところにある「よりみち」、台東区千束の「山田屋」、台東1丁目の「清水や」、中野ブロードウェイ地下の「デイリーチコ」、明大前の「高幡そば」、神田鍛冶町の「天亀」の「春菊天」もなかなかうまい。

●東京以外のエリアの人気店

仙台「そばの神田東一屋」

 仙台市を代表する「そばの神田東一屋」の「春菊天」は大きなかき揚げで、しかもしっかりと揚げられており、油切れもよい。硬すぎずほどよくつゆにほどけていく。相当ハイレベルな立ち食いそばローカルチェーンである。

仙台「そばの神田東一屋」の「春菊天」は大きなかき揚げだ(筆者撮影)
仙台「そばの神田東一屋」の「春菊天」は大きなかき揚げだ(筆者撮影)

関内「相州そば本店」

 JR関内駅から歩いて5分ほどにある「相州そば本店」の「春菊天」は実に香りがよい。山椒をかけるとうまいことをこの店で教えてもらった。太めの麺との相性がよい。

関内「相州そば本店」の「春菊天」は山椒をかける(筆者撮影)
関内「相州そば本店」の「春菊天」は山椒をかける(筆者撮影)

所沢・清瀬「狭山そば」

 西武線所沢駅・清瀬駅にある「狭山そば」の「春菊天」は香り強めでカリっと揚げられている。昆布の利いた甘めのつゆと相性がよい。懐かしい味である。

所沢駅「狭山そば」の「春菊天」は香り強めでカリっと揚げられている(筆者撮影)
所沢駅「狭山そば」の「春菊天」は香り強めでカリっと揚げられている(筆者撮影)

大和市「あさひ」

 神奈川県大和市の厚木バイパス近くにある「あさひ」の「春菊天そば」はややソフトながら、じっくりとカラッと揚げられており、人気メニューとなっている。

大和市「あさひ」のややソフトだがカラッと揚がった「春菊天」(筆者撮影)
大和市「あさひ」のややソフトだがカラッと揚がった「春菊天」(筆者撮影)

新丸子「山七」

 東急東横線新丸子駅前の「山七」の「春菊天そば」はつゆとの相性が抜群で、冷やしで食べてもうまい。

新丸子「山七」の「春菊天そば」つゆとの相性が抜群(筆者撮影)
新丸子「山七」の「春菊天そば」つゆとの相性が抜群(筆者撮影)

 他にもJR藤沢駅近くの「新月」の「春菊天」も大きく味わい深い。

日本各地で春菊天が食べられるようになってほしい

 以上、自分が食べ歩いた「春菊天」を紹介した。こちら以外にも販売しているお店もまだまだある。たとえば香川の讃岐うどん店には「春菊天」はよく登場するようだ。日本各地で春菊天が食べられるようになることを期待している。

 これからの季節はメニュー落ちする店も多く、同じ店で再び注文できるとは限らない。空振りの覚悟も必要かもしれない。もし仕事先などで発見した時は迷わず「春菊天」を食べてほしい。一期一会の心構えで味わう「春菊天」は、あなたにとって特別な一杯になるはずだ。

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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