日本のランドセル 世界へ
先日、なかなか興味深い発表会があった。
「2017年日本のランドセルがパリに初上陸!」
このキャッチフレーズどおり、パリのまん真ん中、高級ブランドのブティックひしめくサントノレ通りのアパルトマンの一室に、ずらりとランドセルが並んだ。
ブランド名は「RANDSELLIER PARIS」(ランドセリエ パリ)。
日本発、パリ仕様のランドセルブランドで、大阪のランドセルメーカー「加藤忠」と、人工皮革など高機能繊維のトップブランド「帝人」グループが立ち上げたものだ。
昨今、訪日客のお土産物としても注目されだしたランドセル。わたしたち日本人にとってはお馴染みすぎて考えもしなかったが、世界的にみて珍しい日本独特の文化習慣なのだと気づかされる。
ところで、フランスでもこどもが背中に背負うタイプの通学用カバンはあるにはある。だが、頻繁に買い替えるし、大人が使うようなリュクサックで通学したり、いっときはキャリータイプのものがはやったりと、制服がないのと同じように持ち物も人それぞれ。とにかく、小学校6年間ずっと同じカバンを持って通学するという習慣はない。
では、そもそも日本のランドセルにはどんな歴史があるのだろう。
「ランドセル工業会」のサイトをみてみると、幕末にヨーロッパから輸入された軍隊の背嚢(はいのう)にヒントを得たものだという。
これが日本独自の「ランドセル」となるのは明治20年、のちの大正天皇の学習院ご入学の際、伊藤博文が箱型の通学カバンを献上したのが始まり。その後寸法や素材も統一されて「学習院型」として完成された基本スタイルがもとになり、以後100年以上今日までランドセルの歴史が続いているのだそうだ。
さて、パリの「ランドセリエ」。
ラインナップは2タイプ、子供用と大人用がある。
子供用は日本と同じように通学を想定しているが、日本仕様に比べるとかなり大きめだ。ブランドの生みの親のひとり、この日会場にいらっしゃった帝人フロンティア株式会社の藤原敬久(のりひさ)さんによれば、1年半以上かけた商品開発で、フランスの実情を調査した結果だという。
「こちらの子供達は日本の子達よりもはるかにたくさんの荷物をもって学校に行きます。筆箱をいつも2つもっていくという子供もいました」
たしかに、街で見かける子供達はかなり大荷物をもって通学している。聞けば、授業ごとに教室が変わるのが普通で、いわゆるホームルームがない。となると、その日必要なものをすべて持って移動しなくてはならない。
「サイズは大きいですが、軽いです」
と、藤原さんにうながされて実際に手にしてみたが、牛革ランドセル世代の筆者にしてみれば、(アレ)と拍子抜けするほど。6年間の使用に十分に耐えられる強度があり、重さ1、5キロというのは、なるほど最新の人工皮革のなせる技。筆者の時代のおよそ半分の重さだという。
そして、何と言っても注目は大人用モデル。子供用よりも薄く、コンピュータが収まる大きさになっていて、なかなかスタイリッシュなデザインだ。
パリ市内では、自転車やバイクが移動手段という人は多い。そんなときにはたしかに便利そうだし、かなり高級感がある。しかも、こちらでは冬だと通勤通学の時間帯が夜明け前になるので、バンドの縁にはクルマのライトが反射して光る素材を使うなど、細かいところにも気配りがされている。
大人がランドセル? と、わたしたち日本人にはちょっと違和感があるかもしれないが、百聞は一見にしかず。パンフレットにはパリジャン、パリジェンヌたちがランドセルを背負っているシーンが並んでいるのだが、これがかなりおしゃれなのだ。モデルはいずれも各分野の第一線で活躍するそうそうたる顔ぶれ。それぞれの仕事場の前で撮影されたそうだが、ランドセルは人物にも風景にもしっくりと馴染んでいる。しかも、撮影のあと、彼らのほとんどがランドセルを予約済みという気に入りようだそうだ。
「ファッションの街パリで勝負できれば、どこでもやっていけるはず」
と、海外初の発表会となったランドセルだが、フランスのメディア20社も取材に訪れ、手応えは上々。
実際に市場に出るのがこの夏あたりの予定だそうだから、こちらの新年度がスタートする9月には、パリでランドセル姿が見られそうな気配。
少子化の影響を真っ向から受けているに違いない業界だが、既成概念を外してみれば、意外な突破口が開けてくるという好例かもしれない。