「勝てば天国、負ければ…」これぞセンバツ甲子園を懸けた戦い! 最後の夏のような涙を、秋に見た!
センバツは予選を持たない。しかし「この試合に勝てばセンバツに行ける」という試合はある。夏の地区大会決勝と同じようなものだ。この秋、まだ新チームがスタートして3か月も経っていないが、涙を流してグラウンドにひれ伏す選手もいた。その光景は最後の夏を終えたかのようだった。
注目カードに敗れた報徳は微妙な立場に
選出枠「6」の近畿は、準々決勝の勝敗が明暗を大きく分ける。「勝てば天国、負ければ?」だ。勝てば選出安全圏の4強入りとなるが、負けたらほぼ半分の確率で「落選」の憂き目を見る。準々決勝最注目は、大阪桐蔭と報徳学園(兵庫)という昨秋の決勝カード。1点を争う試合は、大阪桐蔭が4-3で逃げ切り、センバツを確実にした。一方、この段階で同じ兵庫の須磨翔風が勝ち残っていた報徳は、微妙な立場に立たされた。
報徳・大角監督は「寝られへん」とガックリ
厳しい表情で引き揚げてきた報徳の大角健二監督(43)は「今夜は寝られへんやろな」とガックリ。2位の翔風には県の直接対決で勝っていたが、4強まで勝ち進まれれば、県の順位は関係なくなる。翔風の試合は翌日で、大角監督が眠れぬ夜を過ごしただろうことは容易に想像できた。さらに、驚くくらい大泣きしていたのは、京都国際にサヨナラ負けした近江(滋賀)の選手たちだ(タイトル写真)。
サヨナラ負けの近江は立ち上がれず
京都国際は京都大会で京都外大西に敗れ2位。京都外大西も初戦を突破していたので、ここでの敗戦はセンバツアウトを意味する。試合は、京都国際の左腕・中崎琉生(2年=主将)と近江の右腕・西山恒誠(2年)の投手戦となった。内容的には近江がかなり押していたが、中崎から決定打を奪えず、両校無得点のまま延長タイブレークかと思われた。
しかし土壇場の9回裏。京都国際は1死2塁で、この日5番に入った清水詩太(1年)が初球を左中間への安打。近江の懸命の返球も間に合わず、劇的な幕切れとなったが、近江の捕手・高橋直希(2年)は、しばらく立ち上がれなかった。
指名選手全員が号泣した近江
「あと1本が出なかったが、走者を出してから、中崎君の絶対に負けられないという気持ちが伝わってきた」と、声を振り絞る近江の多賀章仁監督(64)の横では、主将の中村駿介(2年)ら指名選手全員が泣き続け、話しかけるのもはばかられるほどだった。近江ほどの甲子園常連、名門校の選手でも、いかにこの試合に懸けていたかを如実に物語るシーンだ。京都国際の清水も感激の涙を流した。秋にここまで皆が泣いた試合も珍しい。
須磨翔風は失策に泣き、報徳とともに8強止まり
そして兵庫勢の命運は翔風の試合に託された。相手は耐久(和歌山)で、前日に社(兵庫)を破っている。同じ日、強豪・智弁学園(奈良)にタイブレークで逆転サヨナラ勝ちした翔風は、押し気味に試合を進めたが、要所で失策が失点に絡み、1-4での敗戦。耐久の6安打に対し、翔風は10安打だったが、4失策が響いた。
前日、「中尾先生(修監督=57)を甲子園に連れていきたい」と話していたエース・槙野遥斗(2年)は、「(失策した)味方をカバーできなかった」と悔やんだ。
今春王者の山梨学院は、勝って号泣した
近年は重要な試合も配信で見ることができる。関東は近畿よりも狭き門(4~5校)で、センバツ出場に4強入りは不可欠。今春のセンバツ王者で連覇が懸かる山梨学院と神奈川王者の桐光学園の準々決勝は、タイブレークの死闘となった。10回表にやや不利な判定があり、一旦は入った1点を取り消された山梨学院は、その裏を懸命の守備で切り抜け、11回に2点を奪って決着をつけた。試合後のベンチでは選手たちが抱き合って号泣し、敗れた桐光の選手たちも、泣き崩れる選手が数人いた。これぞ甲子園を懸けた戦い。熱い涙は、最後の夏だけのものではない。選手たちの甲子園への思いは、それほどまでに強い。