【将棋】叡王戦第1局、驚異の勝ちっぷりをみせる永瀬七段が逆転勝利で白星発進!
高見泰地叡王(25)に永瀬拓矢七段(26)が挑戦する第4期叡王戦七番勝負が開幕した。
第1局は4月6日(土)に台北・圓山大飯店で行われ、永瀬七段が逆転で制した。
意表をつく作戦選択
戦型は先手番の永瀬七段の誘導で角換わりへ進んだ。高見叡王の後手番の代名詞といえば横歩取りで、現に前期叡王戦七番勝負でも高見叡王は後手番の2局でいずれも横歩取りを選択し、1勝1千日手と結果を残している。
ただここ最近、プロ棋界全体で横歩取りの後手番は苦戦を強いられている。高見叡王自身も、前期叡王戦七番勝負第3局で採用して以来、一度も横歩取りを選択していない。
とはいえ高見叡王にとって横歩取りは叡王獲得の原動力となった戦法だ。後手番でも誘導できる戦法なので研究しやすい意味もある。重要な第1局には横歩取りでくるのではないか、そういう予想もあった。
しかし蓋を開ければ先手の永瀬七段に戦法選択を委ねる形で角換わりへ進んだ。高見叡王が後手番で角換わり戦法を指すのはほぼ初めてだ。思い切った戦法選択といえる。
初タイトル獲得、そして迎えた防衛戦でいきなり意表をつく作戦を選択する、という流れは、渡辺明二冠の若き頃を思い出す。
渡辺(明)二冠は19歳で初タイトルとなる竜王を獲得し、翌2005年の第18期竜王戦七番勝負で、初めてのタイトル挑戦となる木村一基七段(当時)を挑戦者に迎えた。その頃は横歩取りの絶頂期で互いに得意戦法としていたこともあり、「横歩取りシリーズ」と予想されていた。しかし蓋を開けてみれば渡辺(明)二冠は後手番となった第1局で一度も指したことのない一手損角換わり戦法を選択したのだ。
局後に渡辺(明)二冠は2006年1月号将棋世界誌上で「いやあ、これ(一手損角換わり)をずっとやりたかったんですよ。でもこの七番勝負までとっておいたんです」と語っている。そしてこの一局でシリーズの主導権を握り、結果的には4連勝で初防衛に成功している。
今回初防衛戦の高見叡王としては、上記の渡辺(明)二冠のような気持ちだったかもしれない。
勝敗を分けた一手
高見叡王の作戦選択が当たり、リードして迎えた図。
ニコニコ生放送の解説で藤井猛九段は▲5七玉を推奨していたが、永瀬七段は▲6五同玉と取った。玉みずからが死地に赴くような一手だが、「中段玉寄せにくし」という格言もあるように相手も意外に捕まえにくいものなのだ。結果的にこの手で高見叡王のミスを誘った。
▲6五同玉に△6四銀と打ったのが高見叡王としてはどうだったか。▲同玉には△6三飛以下の詰みとなるが、▲6六玉と逃げられると銀を手放したことであとひと押しが難しかった。
△6四銀では△6四歩と打つほうが簡明で、以下▲6六玉△6九飛▲6七歩△5四桂▲同銀△同歩と進めれば先手は攻守ともに見込みがなかった。
筆者はリアルタイムでニコニコ放送を観ていたのだが、銀か歩か、高見叡王はどちらを打つかかなり迷っていた。どちらでも勝てそうなだけにこの2択を誤ったのは不運でもあるが、際どい勝負だっただけにこのミスは痛かった。
△6四銀以下も高見叡王は懸命に攻めたが、永瀬七段の正確かつ強烈な受けの前に攻めの矛先が届かなかった。
シリーズの行方は?
逆転勝ちという結果は、永瀬七段にとって1勝以上の価値があるように思える。
その永瀬七段の勝ちっぷりは半端ではない。昨年7月18日から昨日にかけて31勝4敗と9割近い(!)驚異的な勝率をあげている。その期間中に筆者は叡王戦本戦で永瀬七段と対戦したが、対局時の迫力には頂点を目指すものだけが持つ凄みを感じたものだった。
昨日の逆転劇も、他の棋士であれば諦めて土俵を割りそうなところを踏ん張ったことで逆転勝ちを引き寄せた。その粘り強さがこの驚異的な勝率を叩き出す原動力なのだ。
筆者の好きな言葉で「負けている時にでも粘り強く戦い続けるのが偉大なプレイヤーだ」というものがあり、昨日の永瀬七段にはピッタリの言葉だった。
高見叡王にとっては作戦選択がはまって有利に進めただけに残念な逆転負けだが、次局が先手番ということもあって巻き返しの余地は十分にある。
次局は4月13日(土)に北海道知床で行われる。高見叡王は1局目の事前インタビューで「番勝負では持ち時間によって作戦を変えようと思う」と話していた。先手番では矢倉を得意とするが、意表の作戦選択もありうるか。永瀬七段は後手番では趣向を凝らすタイプなので、なおさら作戦が予想しにくい。
また両者ともに類まれな終盤力による逆転を持ち味としているだけに、今後も終盤にもつれる展開となりそうだ。
第2局も序盤から終盤まで目の離せない戦いが続きそうだ。ご注目いただきたい。