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パチンコ機の「強制的自主回収」という矛盾

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」の回収問題です。今年6月に最終リストが発表され、年内での72万台の完全撤去が業界団体より発表されたこれら遊技機ですが、既に撤去作業が始まっております。

ただ、これは以前もYahooニュース側のコラムにて書いた事でありますが、この回収はあくまで各遊技機が検定時と性能が異なる「可能性がある」ことを理由とした各メーカーによる「自主的な」回収行為でありまして、そこに法的な強制力は一切ありません。

【参考】72万台のパチンコ機回収:今業界で何が起こっているのか

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takashikiso/20160708-00059739/

しかし、ここで気になるのは「検定時と性能が異なる可能性がある」とする表現である。もしこれらが明確に「検定時と性能が異なるパチンコ機」であるのならば、それらは即時回収を行うべきものであるし、パチンコ業界を規制する風営法の関連規則の中には、法の求める技術上の規格に適合していないことが判明したパチンコ機の検定の取り消しに関する条項が存在する。また、同様に風営法関連規則の中には、自身が製造するパチンコ機の性能の同一性を保持することができないと認められるメーカーに対して「遊技機を製造する能力がない者」として確認を取り消すことができる条項もある。

しかし今回、日本遊技機工業組合から示された回収リストは、あくまで検定時と性能が異なる「可能性」のあるパチンコ機を示したものであり、その性能が確実に異なるものとはされていない。そして、それらがあくまで「可能性」である限りにおいて警察もパチンコ機の検定取消しや、それを製造したメーカーに対する確認取消しにまでは踏み込まないのである。

すなわち回収対象として指定された遊技機を現時点で保有している各ホール企業からすれば、法的な撤去義務がないものをメーカー側が「検定時と性能が異なる可能性があるのだ」として無理やり撤去をしようとしている状況であり、その撤去にあたってはメーカー側が勝手に設定した買取価格(≒補償価格)に従って対象機を引き上げます、と。そりゃ、ホール側からすれば「ふざけんな」という話になるのは当たり前であって、それが延々と業界内で論争のネタになっているというのが実情であります。

勿論、本件に関しては一義的にメーカー側がヤラカシテしまった問題でありまして、警察庁側からキツく「年内回収」のお達しを受けているメーカーとしては、それを何とか達成するためにホール企業に対して何とか「協力」をお願いするしかない。しかし、それだけでは当然ながら協力に応じないホールが出て来てしまうワケで、そこに何とか強制力を持たせようと悪戦苦闘して策を巡らせた結果が以下のように発表された模様です。

保証書の発給停止を決議/中古機流通協議会

http://www.yugi-nippon.com/?p=9999

8月25日開催の中古機流通協議会で、撤去期限を超えて回収対象遊技機設置しているホールに対し、パチンコ中古機の保証書の発給停止等の措置を行えることが決議された。

パチンコ店に設置されている遊技機というのは新機種市場と並行して中古機の市場というのが存在しており、それを中古機流通協議会という団体が管理しているワケですが、今回、メーカーがヤラカシてしまった結果、回収対象機として指定されてしまった機種を期限を超えて設置しているホールには、その中古機流通の前提となる「保証書」を発行しませんよ、と。当然ながら多くのホールにとって中古機の流通というのは営業上ほぼ必須のものとなっていますから、この施策によって「あくまで自主回収」とされていた遊技機の回収がほぼ強制力をもったものとなるという「強制的自主回収」という非常に自己矛盾を孕んだ施策が生まれてくるわけです。

ただね、今回各メーカーがヤラカシテしまった「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」問題と、中古機流通の話というのはそもそも全く関係のない事象でありますし、それら各メーカーを束ね自主回収を宣言した業界団体(日工組)と中古機流通協議会も別モノの団体です。にもかかわらず、自主回収に協力しないホールへの制裁措置のような形で中古機流通の話を持ちだすなんてのは、「江戸の敵を長崎で討つ」的な非常にナンセンスな話であるわけですが、これが通ってしまうのが今のパチンコ行政の複雑怪奇なところなのでしょう。

まぁ、見方を変えれば、「本来ならば不正機として法的強制力をもって回収を行うべきものを、何とか法的な問題にしないように収めよう」という警察もふくめた関係各所の知恵と工夫と、涙ぐましいまでの努力の結果であるという言い方もできるのかもしれませんが、法治国家たる我が国においてこのような超法規的措置をもって業界を統べてゆく方式が未だ当たり前のように続いているパチンコ行政の在り方は、傍から見ていると非常に不健全であるし、これが本来「あるべき」形ではないと思いますよ、とだけ申し上げておきたいところです。

私としては「検定時と性能が異なる可能性がある遊技機」が一日も早く市場から撤去されることを祈りつつ、業界および警察庁の皆様に対しては、今回の騒動を契機としてもっと根底の部分にある業界構造の問題にも是非、目を向けて頂きたいなぁと思うところであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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