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一時所得でも夢はある⁉競馬の払戻金への課税にかかる税金と控除の基礎知識

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2022年日本ダービーを優勝したドウデュースと武豊騎手(撮影:青山一俊)

 昨今、競馬の払戻金にかかる税金についての議論が行われている。

 中央競馬と地方競馬では細かい数字(控除率等)等が異なる点もあるが、おおむね概念は同じである、ということで、今回は競馬の払戻金にかかる税金、および控除される金額に対しての基礎知識をまとめてみた。

所得税は宝くじは非課税だが、競馬の払戻金は一時所得

 まず、よく言われるのは「宝くじは受取金が非課税だが、中央競馬等の公営競技は主催者に一定額を控除された上に払戻金にも税金がかかるので納得がいかない」というものだ。

1億円当せん時の受取額(還元率)の例(筆者作成)
1億円当せん時の受取額(還元率)の例(筆者作成)

 確かに、宝くじやサッカーくじは払戻金を受け取った個人に対して所得税は発生しない。これは法律によって定められたものである。対して、中央競馬等の公営競技の払戻金に対しては当せん額に対して一時所得が課せられる。

 一時所得は、ふるさと納税の返戻金、保険金の受取額、ポイント利用時の金額等を累計で合算し計算するが、1年間あたり50万円の特別控除がある。一時所得に該当する累計額から特別控除を除した金額に1/2を掛けた金額が一時所得として税金(所得税、住民税)の対象となる。

 住民税は課税所得金額に対して10%だが、所得税は累進課税制度が用いられているため、受取額に比例して段階的に税率が高くなっていく。

1億円当せん時の実効還元率の例(筆者作成)
1億円当せん時の実効還元率の例(筆者作成)

 宝くじとサッカーくじは公営競技と比較すると控除率が高い。令和2年度を例にとると、宝くじは53%、サッカーくじは50%が控除されている。

 そこで、売上に対して当たったときにもらえる金額の割合を当せん金率とし、1億円が当たったときの受取額を掛け、期待値にあたる実効還元率を計算した。

 利用者の"納税ありき"ではあるが、それでも宝くじやサッカーくじと比較すると中央競馬(公営競技)のほうが実効還元率の数字は高かった。

 高額の1億円当せんを例にとったとはいえ、実効還元率が宝くじ・サッカーくじと中央競馬に大差がみられなかったことから、中央競馬も"納税ありき"で設計された娯楽であると感じられた。

 また、一時所得ではハズレ馬券を経費として計上できないが、仮に事業性のない馬券購入に対して経費が認められるならば、宝くじやサッカーくじなどを継続して買い続けている人を納得させることができるとは考えにくいと感じた。高額な期待値を求めて投資をし続けるというスタンスはどの娯楽も同じだからだ。

令和2何度の宝くじ、サッカーくじ、中央競馬の実効還元率の比較(筆者作成)
令和2何度の宝くじ、サッカーくじ、中央競馬の実効還元率の比較(筆者作成)

 続いて、中央競馬における払戻金に対する税金の割合の目安を計算した。一時所得として計算すれば対象額が半分になることから、一般的な課税所得金額に比べて納税額は遥かに少ない。1億円の払戻を受けて、そのうち約2割を納税すれば済む、と考えれば、いまの日本の税制においては十分に夢のある話だと筆者は考える。

 サラリーマンであれば、一時所得は社会保険料にも影響しない。高額の払戻を受けた場合、受取額のうち納税額を予め除けておく必要はあるが、それも踏まえた上で競馬を楽しめればいいのではないか。

課税所得金額に対する税金の割合(令和3年度、筆者作成)
課税所得金額に対する税金の割合(令和3年度、筆者作成)

払戻金に対する税金の割合の目安(筆者作成)
払戻金に対する税金の割合の目安(筆者作成)

 もちろん、最終的な税額はその他の所得や控除と一定のきまりに基づいてあわせて計算される。したがって、もともと競馬以外の事業、給与、不動産所得等が多い方は払戻金に対する税金の割合も高くなっていく。つまり、高額所得者ほど競馬の払戻金を意識していかなければならないし、旨味も減っていく。それだけ担税力がある、という認識からの課税ではあるが、納税が高額になればなるほど競馬の高額払戻への興味は薄れていくだろう。

JRAの控除率 約25%は高いのか?

JRAの控除率の内訳(筆者作成)
JRAの控除率の内訳(筆者作成)

 中央競馬の控除率は馬券の種類ごとに80%(単勝、複勝)から70%(WIN5)と定められている。かつては75%に統一されていたが、現在は時に払戻金への上乗せ(JRAスーパープレミアム、JRAプレミアム、JRAプラス10)を実施するなどバリエーションに富んでいる。

 控除のうち、約10%にあたる第1国庫納付金は日本中央競馬会法36条により畜産の振興や社会福祉に充てられると定められている。この金額は競馬という娯楽の存在意義としての責務であると筆者は認識している。

 約15%にあたるJRAの事業運営費は、馬主や騎手らへの賞金、競馬場や投票設備の運営など競馬を実施するために使われる。未来の騎手の養成機関である競馬学校もそのひとつであり、未来の武豊、藤田菜七子の育成にも寄与している。

 中央競馬の控除率は他の娯楽と比較してその高さを指摘する声もあるが、投票の対象となる馬の確保、十分な設備投資や安定して馬券を発売するためのシステム、警備等の安全面を考えれば、これだけ贅沢な舞台を用意するために、ゲームに参加する側は必要な手数料であると言えるのではないか。

 JRAの事業運営において余剰金が出た場合、その1/2は第2国庫納付金として国に納付され、一般財源に組み込まれる。競馬の売上が落ちた平成23年度は第2国庫納付金は0円になったが、翌年には解消され令和3年度は約355億円を国庫に納めている。

 今回、中央競馬を例にあげたが、公営競技はいずれも主催者が施設や選手を維持していかなかればならない。一般的なレジャーと比較した場合、決してこの手数料が"高い"とは言えないのではないか。

 また、オンラインカジノ等で発売している馬券はレースを行うための莫大な運営費がかかっていない。これらを横並びにして数字を比較するのはどうか、と筆者は考える。

 競馬にはギャンブルとスポーツ両方の側面があり、さらに馬主を中心とした経済活動が行われている。ただし、こういった"競馬経済圏"の中で、主な収入を馬券に頼っている点については将来的に不安もある。宝くじの約4倍強の売上をあげている中央競馬だが、馬券の払戻金に対する一時所得を申告している方はすべてではない。これらに対する課税が厳しくなると馬券を買わなくなる人も少なくないだろう。

 また、競馬の払戻金は他の一時所得とあわせて累計で計算しなければならないので、ポイントやふるさと納税を活用している方は競馬で少し払戻を受けただけでも納税の対象になってしまう。ネット投票は銀行口座と紐づいていることもあり「税金のことを考えると気軽に馬券を買えない」という声をきくこともある。

 とはいえ、競馬の払戻にかかる税金を性善説による申告に頼っている現行の制度から宝くじやサッカーくじのようなシステムに変更するとなると、控除率の大幅なアップは避けられないだろう。それでも、競馬の払戻金が非課税になることを望む声もきかれるのも事実。税金のことを一切考えずに馬券で遊べるほうがスッキリする、という理由が多かった。

 今後、カジノが日本で始まるならば、中央競馬をはじめとする公営競技の払戻金のあり方についての議論は再燃するだろう。現在、競馬は多いに盛り上がっているので、この勢いの中でよりよい解決策が見つかるといいのだが。

 また、法的義務(国税通則法第74条の12第1項に基づく情報提供)に基づき、JRAが個人情報の提供を求められた場合、電話やインターネットを通じて馬券を投票した人のうち、馬券100円あたり1000万円以上の払戻を受けた利用者の個人に関する情報は保護措置を講じた上で提供するという決まりがある。

 その状況下でも「競馬にかかわる仕事をしているから」という意識から、筆者の同業者が上記の払戻に満たない金額でも自主的にWIN5等の払戻を申告しているケースが複数あったことも書き加えておく。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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