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自分の心を守る SNSとの距離の取り方を考えてみよう

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:イメージマート)

不安やストレスを感じているときにSNSを開くと、タイムラインに流れてくる大量の情報に圧倒されたり、ネガティブな意見が目について傷ついた気持ちになったりと、さらに嫌な気分になることもあります。

それでも、SNSを見ないとソワソワする、自分が取り残されたような気持ちになるから見ずにはいられない、時間を持て余すとSNSを開いてしまう、というようにSNSとの距離の取り方をコントロールすることに難しさを感じる人も多いと思います。

SNSにおける誹謗中傷や他者を傷つける投稿をなくす努力はいうまでもなく必要です。政府や企業も含めて何らかの対策を考えていかなければならないと思いますが、ただちに誹謗中傷をゼロにすることは現状では難しいかもしれません。

私たちにできることの一つとして、一人ひとりが自分の心を守るためのSNSとの付き合い方を考えていくことは大切だと思います。今回はそのための方法をいくつか紹介します。

気晴らしの方法としてSNSを使うとき

不安やストレスを感じているときにSNSを開き、同じような気持ちを抱く人がいることを知って安心感が得られたとか、オンライン上の仲間から励ましてもらったといったポジティブな経験をすると、ストレスに対処するための手段としてSNSが用いられるようになることはあるでしょう。

そのようなとき、一時的に辛い気持ちや不安が和らぐかもしれません。それ自体は悪いことではなく、気晴らしや辛い気持ちをなだめる方法として有効な場合もあります。気持ちがある程度落ち着いたら、現実の問題に向き合うこともできるでしょう。

しかしSNSでは、ときに自分自身のネガティブな思い込みを強くさせてしまう場合もあります。例えば「自分の考え方は間違っている」と思っているときに他者の投稿を見て「やっぱり私は間違っていた」と感じると、自分を否定する気持ちが強まることもあります。

気晴らし目的に利用していても、タイムラインや他者からの反応で傷つくリスクもあり、必ずしも効果的ではないこともあります。そこで、SNSだけが唯一の気晴らしではなく、SNS以外の気晴らしをいくつか選択肢としてもっておくとよいでしょう。なかなか思い浮かばない場合は下記の例や五感をもとに考えてみるのもおすすめです。

(例)気晴らしになる行動のリスト

・心が落ち着く(家族、友人、風景、キャラクターなど)視覚的なイメージを思い浮かべる、写真や雑誌を見る

・軽く運動してみる

・ぶらぶらと近所を散歩してみる

・植物や動物の世話をする

・好きな香りを嗅いだり、入浴剤を入れて湯船につかる

・好きな音楽をきいてみる

気晴らしはあくまでも自分の苦痛を少しでもなぐさめるために行う一時的なものです。それをいつまでも続けてしまうと、本来向き合うべき現実の問題はなくならないばかりか、問題から回避し続けるとさらに不安や恐怖が大きくなり、向き合うことが怖くなってしまいます。

SNSにおける情報との距離の取り方

SNSを利用するときは、自分に必要のない情報について「興味なし」をクリックすることで表示させないようにしたり、自分が利用したいときだけ利用できるように通知をオフにするなど、SNSによって自分の気持ちや行動が左右されるのではなく、自分が主体的に使用をコントロールできるような設定をすることも大切です。

それでも、すべての情報を自分で取捨選択できるわけではありません。ただし、SNSで流れてきた情報に対して、自分自身がどのように考えるか、捉えるかは選択することができます。

例えば、SNSで「いいね」の数が少ないとき、自分は評価されていないと感じて落ち込んだとします。このときの「自分は評価されていない」という考えは本質的には事実ではありません。ここでの「いいね」の数は客観的な事実ですが、それに対する考えは事実ではなく人によって捉え方は異なります。

そこで、自分の考えに飲み込まれないための方法として、「私は〜〜と感じた」と言葉にしてみると少し距離を取ることができます。紙に書き出してみるのもよいでしょう。

決して自分が感じている悲しみや寂しい気持ちを否定したり、なかったものにする必要はありません。『「評価されていない」と私は感じたんだ』と表現してみると、自分の考えに距離を取ることができ、「もしかしたら違う見方ができるかも」という心のゆとりが生まれやすくなります。

もし身近に信頼できる人がいれば、その人に話して一緒に考えてもらうのもおすすめです。自分が信頼している人ならこんな風に考えるのかという気づきがあるかもしれません。また、新たな捉え方を自分に取り入れることができると、考え方の選択肢が増えて、現実に対して柔軟な考えを取りやすくなります。

さいごに

SNSはストレス対処法の一つになることもあれば、ストレスや不安を増幅させてしまう要因になることもあります。

大切なことは、自分の中で目的を持って利用し、コントロールできる範囲で自分の生活にとって価値がある情報かどうかを選択すること、SNSの情報に対して巻き込まれないように距離を取ってみることではないでしょうか。

今回紹介した方法も、辛い状況では一人で取り組むことが難しいこともあります。どうか一人で解決しようとせず、相談機関を利用することや、身近な家族や先生、友人に話すことなど、他者に頼ってみることも選択肢に入れてみてほしいと思います。

参考文献

マシュー・マッケイ&トロイ・デュフレーヌ(著)堀越 勝・樫村正美(訳)(2017)30分でできる不安のセルフコントロール 金剛出版

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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